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人語の一口話(91) カレー丼の食器

 ある日のお昼時、外出先にて“丼物”と書かれてあるのれんや看板を探していましたところ、幸いにもすぐに見つけることができ、お店に入りました。

 「お。カレー丼あるんやなぁ。」
 そうつぶやいた次の瞬間には注文しておりました。

 「はい。カレー丼ね。」
 「はーい。」

 運んでいただいたカレー丼をひと通り眺めた後、ちょっとした違和感が一周だけ体内を巡りました。

 「ん? これ・・。この金属製のスプーンで食べるん!? 」

 そんな言葉の裏側に、「木製のスプーンか、せめて、レンゲで・・。」との思いがあったのだと思います。

 食事中も、まるでカレーライスを食べているかのような感覚に襲われることとなり、「いや違う。今食べているのはカレー丼やぞ。」と、自らに言い聞かせる事態になりました。

 「すいません。レンゲくれませんか?」
 「あっ。はいはい。」

 即座に、陶製の白いレンゲが手元に届きました。

 「うん。こっちのほうがええ。」

 食べてはうなずき、うなずいては食べ進めて、そのまま美味しくいただき終えました。

 その日の私は、グルメ雑誌の記者のような動きを見せました。

 「ちょっと聞かせてほしいんやけど、カレー丼を食べる時、何を使って食べる?何で食べたい?・・・」

 『食器で味が違ってくる。』

 おせち料理やお雑煮を祝い箸ではなく、普段使いの割り箸で食べるような味気なさを感じた、久しぶりに味わうカレー丼のいただき始めでございました。


   

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