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人語の一口話(142) ヤブサカさん

 「ヤブサカさんに怒鳴られてしまいました・・。」
 「ん?ヤブサカさん?どこの人?」
 他部署の名前を挙げて、彼は話を続けました。

 「うん。それじゃあその線で進めていこう。ところで、さっきからヤブサカさんヤブサカさんって言ってるけど、なんでそう呼んでるの?」
 「あの人はよく言うんですよ。」
 「うん。」
 「“それをするのは、やぶさかではない”って。」
 「あぁ、なるほど。それでヤブサカさんか・・。でも私に話す際に、そのあだ名を使うのは・・、ちょっといただけないと思うけどな。」
 「すみません。でもちょっと・・。」
 「でも?」
 「怒鳴られたので、ちょっと腹が立っていました。すみません。」
 「何があった?どう言われたんだ?」
 「“だぁーってぃ!”って・・。」
 「ハハハハ。黙れと。なるほど。」
 「ジンゴさん。笑い事じゃないですよ・・。」
 「ごめん。ほんまごめん。(クックックッ・・)」

 ヤブサカさんなる人物に静止するよう制止された彼に、その人物が私と同期の黒田くんであることは言いませんでした。

 サッカー好きの黒田くん。

 この出来事が起きる2日前、黒田くんと一緒に呑みながら、「ここ最近の活躍ぶりを見ていて、俺はようやく心の底から代表チームを“SAMURAI BLUE”って呼びたくなったよ。」と笑っていたのを彼は知りません。

 “SAMURAI BLUE”と呼びたくなった黒田くんが“ヤブサカさん”と呼ばれていた。
 その事実を黒田くん自身は知る由もありません。

 『我のみぞ知る』

 笑いを押し殺していた私とて、陰で何を言われているのか・・。

 『世の人は我を何とも言わば言え』

 世間の人は、私のことを何とでも好きなように言えばよい。 

 坂本龍馬の名言のような心を未だ持ち合わせていない自分の姿に気づきました。


   

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