人語の一口話(110) 甲子園ライトスタンドデビューの思い出
それはまだ、黄色いメガホンがタイガースの球団グッズとして販売されていなかった時代にさかのぼります。
友人に、「ジンゴ。お前の分も買うてきたから。これ。使い。」と言われて渡されたのは、メガホンといえばこれですとばかりに主張している真新しい黄色のメガホンでした。
「ええんか?ありがとう。」と答えて、「どこで買うたん?なんぼやった?」と訊く前に、「お金は要らんよ。その代わり、お腹空いたらなんかおごってな。」と言いながら白い歯を見せていました。
《3番 ファースト バース》
女性がアナウンスする声が球場に響き渡った後、間近から聞こえてくるトランペットの甲高い音色とともに“応援歌”の合唱が始まりました。
歌詞を知らない私たちは、周囲で歌われている曲に“合いの手”を入れて応援していましたが、おぼろげに歌詞が分かってきたので、聞こえてきたままに口を動かしながら真似するように歌い始めました。
「そーれかっ飛ばせバース。そーれ放り込めホームラン。」
「かーとかっ飛ばせバース。そーれ放り込めホームラン。」
「スカーッとかっ飛ばせバース。ほーれ放り込めホームラン。」
♪一発かっ飛ばせバース。ライトへレフトへホームラン。♪
本当の歌詞はそのようでした。
しかし、そんなことは知る由もなく、試合中、ずっと違う歌詞で声援を送っていました。
「えらい兄ちゃんら。元気よう大声で歌うとるな。歌詞間違えとるけど。」
「でも。かまへんか。あんなに一生懸命応援しとるんやから・・。」
「歌詞なんかどうでもええ。応援しとったらそれでええんや。」
『寛容な阪神愛に包まれたライトスタンド』
人に対して寛容であれ。
多くの学びがありました。
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