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肩の痛みは放置厳禁

音楽家の方で肩〜腕に痛みを抱えている方はどのくらいいるでしょうか?
今回は肩関節周囲炎について書いていきたいと思います。
特に外傷の既往なく発症する肩関節周囲炎は、いわゆる加齢性変化によるものです。これを聞くと10代や20代の方は自分には関係ないと思われるかもしれませんが、加齢性変化というのは年齢を重ねたから発症するものではなく、平均的に年齢を重ねると身体の機能が低下してくるため発症します。つまり、若い方でも不良姿勢や運動不足により身体の機能が低下すればどなたでも発症する可能性があると言うことになります。

また10〜20代で多く発症する肩インピンジメント症候群も広義の肩関節症候群に含まれますが、また別の機会に書きたいと思います。

現在痛みがない方でも今から正しい知識を持って予防的ケアを行えるようになることで、長い音楽家人生のキャリアを支えていただければと個人的に考えています。

この肩関節周囲炎を治すためには正しい知識と自己管理が必須になります。早い時期からしっかりと管理出来るかどうかで予後(治療の経過)が大きく変わります。少し長くなりますが、是非最後までお読みいただければと思います。

肩関節周囲炎の特徴

この肩関節周囲炎を治すために知識が必要と書きましたが、まず気をつけなければいけないのが、今自分の肩がどのような状態にあるかを理解する必要があります。

基本的にこの肩関節周囲炎は痛みが強く出ている「炎症期」、関節が硬くなり始める「拘縮進行期」、炎症が治って痛みも軽くなったが手が上がらないなどといった関節の制限が出現する「拘縮完成期」という3つの時期に分けられます。

現在自分の肩がどの時期にあるかで治療方法、管理方法が異なります。

炎症期

肩を上げる筋肉(主に上腕二頭筋)の腱に慢性的に負担が繰り返しかかることで炎症を生じます。この時期は炎症がとても強くなった場合耐えがたい痛みに襲われます。安静時(何もしていない時)でもズキズキとうずくような痛みに襲われ夜間は痛みで何度も目を覚ましたり寝付けなかったりという時期になります。

この時期ほとんどの方が「数日様子を見てみよう」とすぐに病院に来ないため、その結果炎症がひどくなり痛みに耐えられない状態になってからようやく病院へ行くという人が多いので治療に時間がかかる原因となります。この炎症期は、一定数の人は何もしなくても炎症が落ち着いて勝手に治ってしまう人と炎症が長引き症状が悪化する人とに分かれます。
この時期はまずは炎症を落ち着かせるために、負担の軽減をはかります。負担の軽減は普段の姿勢を意識することから、就寝時の腕のポジショニング等を行うことも炎症部分の負担軽減につながります。

拘縮進行期

炎症期が長引くと関節が拘縮といって徐々に固まっていきます。痛みが引いてきたのに腕が上に上がらなくなってきた、という方は拘縮進行期に入ったと考えましょう。
関節が固まってきているので動かして関節が固まってしまうのを防ぎたいですが、まだ炎症も残っています。炎症の原因となっている部分への負担は最小限に関節が硬くなること(拘縮)を予防していく時期となります。

拘縮完成期

炎症がほとんど落ち着き、安静時の痛みがほとんど出現しなくなるため日常生活は送りやすくなります。しかし関節可動域制限が生じているため楽器によってはパフォーマンスに大きく影響が出てしまいます。
またこの関節可動域制限を関節拘縮といい、拘縮は痛みの閾値を低下させるため、リハビリにもものすごい痛みを伴います。
いわゆる「腕があげられない」という四十肩、五十肩のイメージはこの時期に当たります。

管理・治療方法

「炎症期」「拘縮進行期」「拘縮完成期」によって対応の仕方が変わります。
治療の話をする上で肩関節の構造を知る必要があります。
肩の関節は大きく2つに分かれます。

肩甲上腕関節

腕の骨(上腕骨)と肩甲骨とで構成される関節。肩関節周囲炎は一般的にこの関節を動かす筋肉に炎症が生じて痛みが出る事が多いです。

肩甲胸郭関節

肩甲骨と胸郭(肋骨)とで構成される関節。肩関節周囲炎はこの関節が固くなったり、機能的に上手く動かせなくなった結果、肩甲上腕関節の負担が大きくなり炎症を生じます。

手を上まであげる際真っ直ぐ上まで(180°)上がるとします。その際肩甲上腕関節は約120°、肩甲胸郭関節は約60°動きます。大体2:1の割合で動きます。肩甲胸郭関節が硬い人はその分肩甲上腕関節に負担がかかりやすくなることで炎症の原因となります。

炎症期

この時期はまずは炎症を早く抑えることが最優先となります。そのためにはまずは痛みを出さないように管理することが重要となります。

ポイント
姿勢を正す
寝る時の腕の位置を整える
肩甲骨だけを動かす

①姿勢を正す
痛みを出さないためには負担をかけないことが必要ですが、何がその人の肩にとって負担になるのかというのは原因が異なります。
多くの方は、肩の負担はどのようなものか考える時、重いものを運んだりする体を使う仕事をイメージします。しかしそれよりもデスクワークなどでほとんど体を使わないような仕事をしている人が肩関節周囲炎で来院されることが非常に多いんです。その理由は不良姿勢にあります。

不良姿勢(猫背)のまま手を挙げると、良い姿勢で手を挙げる場合と比べて肩にかかる負担が大きくなります。この小さなストレスが日常的に積み重なり、限界を超えた時に炎症となって発症します。
音楽家においても、正しい演奏姿勢を求められるのはパフォーマンスの向上だけでなく、こういった障害予防の観点からも必要だから、と言うことになります。

②寝る時の腕の位置を整えてあげる
手の正しいポジションは、手の骨折などで三角巾で腕を吊っている人をイメージします。
クッションや丸めた毛布など使用し、まずは腕の下に置いて肘の位置を体より前に来るようにポジショニングしましょう。

③肩甲骨だけ動かす
肩甲骨の動きが硬いと炎症を起こしている部位により負担がかかりやすくなります。「肩を回してください=肩甲胸郭関節を動かしてください」という意味になりますので、回す際は脇を広げず、肩甲骨だけを動かすよう意識してください。

やり方を間違えると反対に状態を悪くしてしまう恐れがあるので注意が必要です。

拘縮進行期

炎症期に比べて痛みは落ち着いてきていますが、関節が徐々に硬くなり始めている時期となります。この時期は肩甲骨を動かしていくことは継続して、さらに炎症が生じている腕の関節(肩甲上腕関節)を他動的に(痛みがある方の腕の力は使わず)動かしていきます。

痛みのある方の腕を頑張って動かしてしまうと炎症が再燃し、また痛みが増悪する可能性がありますので負荷量には注意して行いましょう。

リハビリ等を行なっている方はこの時期は肩甲骨(肩甲胸郭関節)を動かないようにしっかり抑えて腕(肩甲上腕関節)をストレッチするということを行なっていきます。これは肩甲上腕関節を構成する筋肉や組織をダイレクトに伸ばすための治療になります。

拘縮が進行し始めているため結構な痛みが伴いますが経過を追いながら進めていきます。

拘縮完成期

この時期はひたすら肩甲上腕関節のストレッチと肩甲胸郭関節の柔軟性を高めていきます。

炎症はほぼなくなっているため動かすくらいでは痛みはほとんど生じず、夜も痛くて眠れないということはなくなります。炎症による痛みはありませんが、関節は完全に固まっているためリハビリはものすごく痛身を伴います。

日常生活ではどんどん積極的に手をあげるよう患者さんにも指導します。生活をしていると意外と肘を肩より高くあげるということは多くありません。あえて肘を肩より高くあげるよう意識をして生活するようにしてもらうことでなるべく広い範囲で肩の可動域を使うことになり、治療もより効率的に進みます。

治療期間

病院にきた時期に依存する事が多いです。

目安としてですが、来院する時期が炎症期でほぼ拘縮がない状態の方で1〜3ヶ月拘縮進行期で3〜6ヶ月拘縮完成期で6〜12ヶ月ほどかかります。もちろんどの程度関節が固まっているかなどによって治療に要する期間は変わってきます。

ちなみに糖尿病性拘縮肩といって同じ肩関節周囲炎でも糖尿病を持つ方はより治療に時間がかかります。

まとめ

肩関節周囲炎について原因と対処方法を中心に書いてきました。

慢性的なストレスが原因の場合マッサージなどだけでは治すことが出来ません

肩関節周囲炎の場合、自分の肩が治療過程におけるどの時期なのかを把握して正しい対応をすることが重要です。

何よりも痛みを我慢して炎症が長引けば長引くほど関節は硬くなり治療期間も延びていきます。

関節拘縮に移行してしまった場合肩の動かせる範囲も狭まり音楽活動にも長期的に支障が生じるため早めの対処が重要です。


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