見出し画像

1-3 教材を使う

 学習をスタートさせるためには教材を用意することが大前提ですが、その教材を十分に生かせるかどうかは、課題設定、提示の仕方、それらの修正、達成の共感といった、支援者の、教材を介した子どもとのやりとりの質にかかっています。支援者の提示が未熟であっても子どもの力に助けられ学習が成立する場合も確かにあります。しかし、障がいが重く取り組みへの制約が大きい場合には特に、やりとりの質を高めることが鍵となって、子どもの本当の力を引き出し生き生きとした学びを進めていくことを可能にします。
■ 個別性の重視
・同じ課題であっても一人一人にあった教材が必要である。
・同じ教材が複数の子どもに使える場合もあるし、少し工夫することで使える場合   もあるし、全く別のものを用意しなければならない場合もある。
・同じ課題であっても、解決に必要な時間は一人一人異なる。
→子どもを教材に合わせるのでは無く、教材を一人一人の子どもの感覚・知覚・運動・知的好奇心の間口に 合わせて準備します。
■ 課題学習
・学習は教材で提示された課題を子どもが理解し、教材に能動的に直接働きかけながら課題解決し、解決したことを確認するというひとまとまりの流れで進めていく。この学習形式を課題学習という。
・課題学習が成立するための大切な条件は、設定した課題がその子どもにピッタリ合っていることである。
・課題の設定には、身体の状態や覚醒状態にも配慮しなければならない。最初は、覚醒の良い時に3分だけからというようなゆったりとした構えが大切である。支援者の焦りや不安は子どもに伝わる。とにかく始めることが重要である。
→課題の設定は非常に難しいですが、「その子どもにあった課題が必ずある」「やってみなければわからない」という気持ちで子どもに教わりながら焦らず進めていくと、この試行錯誤が喜びに変わる時が必ず来ます。
■ 心構え
・子どもの自発性は、知的好奇心や成就感に喚起されて引き出される。支援者が用意した教材が適切であった結果として子どもの行動に表れるものである。
・信頼関係もまた、適切な教材を通したやりとりを積み重ねることで構築される。
・子どもが課題に取り組んでいる間には、できるだけ静かな環境を作り、余計な声かけは慎む。
・課題が成功したら、支援者としては声を出して喜びたい気持ちでいっぱいになるが、それを抑え過剰な賞賛は避け、子どもが達成できたタイミングですぐに小さく「できたね」と声をかけたり、手に触れたりして静かに共感する。
・教材にうまく取り組めない場合は、課題が合っていないと考え教材を工夫する。
■ 援助の仕方
・課題解決に時間がかかる時でも自力で解決できるように忍耐強く待ち、それでも解決できなかったら最小限の助けをする。子どもの試行錯誤を邪魔しない。
・最初に子どもが自分でできた瞬間、何かを発見した瞬間を大切にする気持ちが重要である。
・ある課題が初めてできた時には一回きりで終わらせずに、「こうかな?」(発見)→「もう一回やってみよう」(確かめ)→「やっぱりそうだ」(確信)の流れを作るために最低3回は同じ課題に取り組むと良い。
・始点と終点を明確にする。ただ物を触っているだけでは、まとまりのある運動は学習できない。
・子どもの自発的な動きが見られない場面では、教材を子どもに近づけ触れてもらい気づきを促すのが基本。
・動きを援助するときは、対面でなく子どもと同じ向きの二人羽織で行う。同じ向きでないと子どもは動作をイメージしにくい。
・教材を操作しやすい位置と見やすい位置が異なる場合がある。その時は、見ることと操作することを分けて課題設定する必要がある。またカメラとモニターを使い手元を見れるようにする工夫も有効である。
→最後の最後の少しの動きでも、子どもが自分自身で手を下すということが大切です。自分でやらなければ学習は成立しません。丁寧に達成感を積み重ねることで子どもの主体性が生まれます。

■ スモールステップを組む方法

・一般に手や目の調整は大枠で次のような段階で進む。
外へ向かう
  ⬇︎
目的的に外に向かう
 ⬇︎
外に向かった手が方向性を持って操作する
 ⬇︎
イメージを持って操作する・「形・大きさ」の区別(弁別)ができる
 ⬇︎
2次元のパズル(平面構成)ができる・「大小・形・長短・高低」の比較ができる 
 ⬇︎
3次元のパズル(立体構成)ができる・基準になる量や空間に対して対象が何個分であるかわかる

→ここで留意しなければならないのは、イメージや概念がないからできない場合と、それらがあるにもかかわらず、感覚活用や運動コントロールの困難さによりできない場合があることです。表面的な現象だけを見て判断するのではなく、その背景を理解しようとする姿勢が必要です。
・スモールステップは、教材自体を変えて組む場合と同じ教材で渡し方や置き方を変えて組む場合がある。
・一般に教材を提示する位置は、「使いやすい手の前」「身体の中心」「身体の中心を越えた反対側」の順で、操作の難易度が上がる。
・同じ教材でも、縦に置く、横に置く、斜めに置く、立てて置くなど置き方で課題の段階を変えることができる。
・布など形がなく動いてしまうものは、空間的に把握するのが難しい。
・穴に入れる教材の場合
①穴の配置は点から線、線から面、面から立体の順に課題の段階が上がっていく。また同じ段階の課題では、穴の数が多いほど難しい。
②穴と穴の距離が長いほど探索しなければならない面が広くなり穴を見つけるのが難しくなる。
③穴のあそびが大きいほど運動の調整が大雑把でよく、あそびが少くサイズがぴったりなものはより微細な運動の調整が必要となる。
④最初はちょっと動かせば穴に入るところから始め、徐々に穴との距離を伸ばし探索の幅を広げていく方法がある。このように達成点(終点)の少し前から始めて徐々に始点へ遡っていくステップの組み方も有効である。
・以下は円柱を渡す時のスモールステップ例
①子どもが上からつかんでそのまま穴に入れられるように、操作する手に円柱を下から渡す。
②円柱の向きを変えて、操作する手に渡す(子どもは向きを調整して持ち変える)。
③操作するのと反対の手に渡す(子どもは円柱を操作する手に持ち変える)。
④トレイに入れて渡す(円柱1つからはじめて数を増やす)。
⑤置いてあるトレイから自分で取る。
⑥トレイの位置を変える(取りやすい位置からはじめて距離を離す)。
⑦蓋付きの容器に入れて開けて取り出すというもう一つの課題を埋め込む

スクリーンショット 2020-06-14 21.33.47


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?