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足し算ができる役割、掛け算をする役割。


これは私がバリスタとして、また大手コーヒーメーカーの営業を務め感じた、コーヒーのサプライチェーンにおいての“役割”についてのお話しです。


コーヒーに原料以上の“品質”はない。


結論から言うと残念ながら我々消費者サイド、つまり生豆を輸入し、加工(焙煎やパッケージ)し、抽出する工程において、品質としての上限は決まっています。

言い方を変えると、我々はコーヒーの原料(生豆)が持つ品質以上のものは作れないということです。

例えば、とあるコーヒー原料が80点の品質があるとします。となると我々はコーヒーのもつポテンシャルを余す所なく引き出したとしても、そのコーヒーは80点を越えることができないわけです。
消費サイドとしてできることは、そのコーヒーを劣化させないこと。80点であれば80点のままカップに反映させることが主軸となってくるということです。

80点を81、82と加点する力を持っているのは生産者のみ、だからコーヒーの持つポテンシャルを全てカップに反映することが、ロースターやバリスタの大きな役割なのでしょう。

焙煎などで質の悪いコーヒーをカバーするようなことはよく言われます。ただそれも原料における品質の中での話。質が悪くなる原因のリカバリーであって、錬金術や魔法のようなことではありません。

中国 雲南省 普洱(思芽市) 
プーアル茶で有名な地域だが、区画違いでスペシャリティコーヒーの生産が近年盛んとなっている。



ところでコーヒーの品質に加点はできない我々は、本当に何もできないのでしょうか?
上記の通りだとすごく冷たい感じがしますよね。私は元バリスタですし、大手のコーヒーメーカーでの経験もあるので、本当にそうだとしたら悲しいですね。

しかし我々には品質に加点はできなくとも、受け取り手(最終消費者)に対してのアプローチができます。

それは例えば、お店の雰囲気やブランドのコンセプト、農園の取り組みを伝えることができるマーケティングやPR、そしてフレンドリーなバリスタの会話。何よりもサプライチェーンに関わる全員の情熱は必ず受け取る側には伝わります。

我々にはコーヒーそのものに対する品質の足し算はできないけれど、最終消費者に対しての掛け算はできるということです。

私も純喫茶などで理屈抜きで美味しいコーヒーには出会ってきました。それも焙煎士の長年の経験やその人自身の貫禄なども含めた掛け算なのでしょう。 

Koffee mameya kakeru (Tokyo)
コーヒーカクテルなど、従来のコーヒーに縛られない形でコーヒーを提供する先進的なコーヒースタイル。



コーヒーの味は総合力。

我々がコーヒーを飲んで美味しいと感じ、その一杯が五感に、そして記憶に残る一杯となるにはさまざまな要素が絡んでくることでしょう。
感動した一杯のコーヒーには、その一杯のコーヒーそのもののクォリティも重要ですが、それだけでは成り立ちません。

たとえばアウトドアシーンで飲むコーヒーは、皆が口を揃えて格別と表現します。かく言う筆者の私もアウトドア好きでキャンプへは何度も行きましたし、コーヒーも行くたびに必ず淹れて飲みます。
たしかに格別です。
ただそのコーヒー自体に目を向けてみると、たしかに淹れたてという要素で普段飲むコーヒーよりも品質が良い場合がありますが、職業でコーヒーをやる私として見ればコーヒー抽出の適した環境ではなく、まぁ普通に美味しい程度のコーヒーが限界です。
ただこれはあくまで品質的な側面でのお話であり、環境的要因は考慮しておりません。
お気づきの通り、キャンプで飲む最高の一杯とは環境的要因が相当影響しているのでしょう。人里離れた自然の中で飲む一杯、親しい仲間と和気藹々と一つの空間を作りその中で淹れるコーヒーは、不味いわけがないのです。

あなたの印象的なコーヒーも因数分解してみてください。そこにはさまざまな要因が絡んでいることでしょう。

camp × pour over


つまりコーヒーのおいしさとは総合戦です。
コーヒーそのもののクォリティとその空間や環境、つまり誰と、いつ、どこで、どのように、何を飲むか。
その総合力が印象に残る一杯ということです。

Fuglen asakusa (Tokyo)
夜カフェが出来る最高な空間として、筆者のおすすめ。



足し算ができる役割、
掛け算をする役割。


我々コーヒーのサプライチェーンに置いて風下にいる人間として出来ること。お客様のために印象的で美味しいコーヒーを出すために出来ること。それは、コーヒーそのものに何かを掛け合わせてより高い価値へと引き上げることです。

コーヒーとコーヒーを掛け合わせていては、いつまでたってもコーヒーの価値は平行線です。コーヒーのことをより考えて、より良い市場価値を創り出そうとしている人間は少なからず動き始めています。
もちろん私もその一員ですし、ここまで読んでいただいたあなたもそうであってほしい。
掛け合わせるものはどんな分野でも可能性はあります。日本茶やカクテル、飲み物に限らずとも可能性はいくらでもあるはずです。ただ一つ重要なのは違うベクトルでも、同じレベル感であること。
最高レベルのコーヒーに掛け合わせる何かは、同じく最高レベルでなければならないということです。

もしこの記事を読んでいるあなたがコーヒーとは全く関係のない仕事のプロフェッショナルであれば、チャンスです。なぜならあなたの経験知識は少なくともコーヒー業界にとって、そうないスキルだということです。

次なるフォースウェーブコーヒーとやらを生み出すのは、多種多様な業種、人種、心情をも束ねる存在であるべき。なのでコーヒーをずっとやってきただけの人に比べれば、貴重な人材と言えます。

櫻井焙茶研究所 (Tokyo)
日本茶にコーヒー器具を掛け合わせた新しいスタイル。



まとめると、我々がコーヒーに対してできることは生産者が作った原料の品質を落とさず伝え切る。そしてそのカップの価値を何倍も広げる掛け算をすること。

Online coffee community “Groway” 
 Coffee Popupにて (Tokyo 2022)

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