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【旅行記】アンコールワットと5円玉

5年前から、私は財布にいつも5円玉を入れておくようにしている。
然程深い意味があるわけではない。一種の願掛けのようなものだ。

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2015年3月、私はカンボジアのシェムリアップにいた。

大学院を出た春、ひとり卒業旅行と称してアジアを周っていたのである。父親が当時勤めていたベトナムに始まり、カンボジア、香港、マレーシア、台湾と回った。

※念の為書き添えておくが、別に友達がいなかったから一人旅をしていたわけではない。一人の方が柔軟にルートを決められるし、誰に遠慮することもないので気楽だからだ。そもそも途上国と言って差し支えない国に高尚な友人を突き合わせるのも心苦しいではないか。すなわち選択した結果であって、決して旅行に行く友達がいなかったからではないことを断っておく※

話が逸れた。シェムリアップ観光の目玉と言えば、ご存知アンコールワット、アンコールトムをはじめとした仏教遺跡群だ。

広大な遺跡を効率的に廻るため、ドライバー付きのトゥクトゥクを一日借り切ることにした。1日で50ドル(≒5000円)くらいだったと思う。

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アンコールワット観光は、片言の日本語を話す↑のドライバーに早朝4時半に叩き起こされ、遺跡をバックに昇る朝日を眺めることに始まった。

そのため日の出を眺めて、ついでに遺跡をぶらついてから、街道沿いの適当なメシ屋で朝ご飯をとることにした。

↓遺跡はついで、と断言してもいいくらい日の出は素晴らしい風景だ↓

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どこの国でもそうだが、貸し切りの場合ドライバーは移動だけを担当し、
客が食事をしているときは外で待機する。なので私は店で一人だった。

残念ながらシェムリアップの食事は中途半端にアメリカナイズされていてあまり美味しくない。首都プノンペンでは、旧宗主国のフランスの本格的な料理を出す店なんかもあるそうだが…

写真だけでもどことなく「微妙」な感じが伝わらないだろうか

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なんだこの麺、と思いながら啜っていると、テーブルの向かいに一人の男が座った。

仮借ない言い方で申し訳ないが、この地は世界中から観光客が訪れる一大スポットだけあって、まずい店でも人でいっぱいである。必然的に一人者どうしは相席になることがしばしばだ。

向かいの彼は人の好さそうな彫りの深い顔立ちをしていた。スペイン辺りの南欧からの旅行者かと思ったが、アルゼンチンから来たという。一人旅ではなく、仲間が二日酔いで朝起きられなかったためらしい。

二人して無国籍な朝飯を掻き込んで、コーラを片手に雑談した。隙あらばガイドが売春を勧めてくるとか、アンコールワットの観光収入は大半ベトナムに流れているらしいとか、取り留めもない話で妙に盛り上がったのを覚えている。

コーヒーじゃなくてコーラ飲んでた

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ふと、彼が店員を呼び止めて何か尋ねているが、店員も困った様子である。
耳を傾けると、飯代のお釣りを硬貨でくれないかという趣旨の相談だった。

使いきれなかったカンボジアの紙幣。2500リエル≒67円。

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カンボジアの通貨「リエル」は紙幣が主体だ。硬貨も一応あるにはあるらしいが、市中にはほとんど出回ってはいない。

英語に堪能でない店員に代わってそのことを教えてやると、妙に残念そうな顔をする。

聞けば母国の彼女がコインコレクターで、東南アジアの硬貨を集めてくる指令を受けたのだという。

そして今度は私に、日本の硬貨を持っていたらくれないかと訊いてきた。

せっかく出会った旅の仲間である。小銭の1つや2つ喜んで謹呈したかったのだが、海外に行く際には予め家に硬貨やカード類を置いてくることにしていたため、期待に応えることはできなかった。

その後すぐ私は遺跡巡りを再開し、彼はその場で同行者を待つことにしたので、我々は二度と会っていない。

それ以来、私の財布には5円玉が常駐している。いつか再び恋人にコインを集めてくるよう要求された外国人と会ったときの備えだ。

穴が開いた硬貨はごく一部の国にしかないので、きっと喜んでくれるだろう。今のところそういう機会には恵まれていないので、お賽銭用にしかなっていないが。

ちなみに二度と会っていないって書いたが、これは真実ではない

店を出てすぐにアンコールワットの入場券を落としてしまい、道中を探しに戻った時に彼とばったり再会した。気まずくて何も話せなかったけど

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ここまでお読みくださりありがとうございました!

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【今後のバックナンバー予定】

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・シーギリヤ・ロックとマイナス金利
・カイロのコミュニケーション・ブレイクダウン

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