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なぜ私は英語を教えているのか

久しぶりに英語セミナーを開催します。

思い立ってすぐに、とりあえず会場を申し込みました。今年は自分の感覚を信じてさっと動くようにしています。(できないときもあるけど)

セミナーをやりたいと思ったのは、大学の初回授業で英語の音の出し方(フォニックス)を丁寧に紹介したり、日本人が英語を話せない原因のひとつには文化の違い(家父長制や縦社会)が影響している、といった英語と日本語の違いについての話をすると、思った以上に学生が「もっと早く(高校くらいで)知りたかった」と前のめりになっていたから。

修士論文のテーマでもあった

ふと「これ大学のクラスでだけ教えるのもったいないな。もっと広く伝えたい!」と思った。毎年オリエンテーションで教えてきて、こんな風に思ったのは初めてだった。

いま学校教育ではスピーキングが重視されているという。その割には、15年くらい大学生を見てきたが、スピーキング力が伸びているとはあまり思えない。30人クラスで2人程度は「おお、すごい」って思うレベルはいるが、今年もそのくらいだ。

しかしスピーキングだけ重視しても仕方がない。会話は、読む・書く・聞く力が合わさって形成されるものだから。
とはいえ、私が教える大学はいわゆる優秀な学生が多いので、英語の基礎力(特に文法や読解)はできているはず。そしてひと昔前よりもリスング力は格段に伸びている印象だ。それでも、ごく簡単な英語での会話につまる学生がほとんどである。

これは自分自身もそうだったからよくわかる。

4つのポイント

まず発音やリズムはあまり学校で教えてくれない。教える先生自身もきちんと学んでいないからだ。これは先生を責めているのではないが、この「音声面」の違いを早い段階で気づかせる効果は計り知れないものがある。

私は大学に入学して、初めて音声学に出会った。
英米文学科だったからだと思うが、そこで教えてもらった発音方法は今も役に立っている。
最初に授業で知った時はまさに目からうろこだった。「こ、こんな学問があるんだ!おもしろい!」と感激して、人生初のイギリス短期留学をしたのもこの頃だ。
ロンドン大学で音声学のクラスにも参加して(そのときは半分も聞き取れなかったが)それがきっかけで言語学を専攻し、再び渡英して大学院留学することになり、サセックス大学→東京で翻訳→和歌山で英語講師という流れになって今に至る。

ぎゅっと凝縮した私のプロフ

音声学もしくはフォニックスは中学や高校でも教えたらいいのにな~といつも思っていたので、今回、大学のオリエンテーション後に学生からの感想を聞いて「これは必要としている人がいるかも」と何かが降りてきた。

英語独特の音とリズムは本当に大事なので、「何を話すか」の前にこの基本を体に覚え込ませてほしい。普段(日本語を話すときには)使っていない唇やあごの筋肉が疲れると思うが、やってると楽しくなる。意外とフィジカル面重視のアクティビティ。

そして4つのポイントの中で最大にしてやっかいな「日本人が英語を話せない」原因が、「文化の違い」である。

字が多くてすみません

ここは個人的にも声を大にして言いたい。
無謀な「スピーキング重視」の英語教育政策を進めてきた政府のえらいひとたち(mostlyおっさんたち)は、ほぼ家父長制度の中でトップに君臨してきた立場にある。この家庭や社会でのヒエラルキー最上位の高齢男性である彼らが、英語を話しづらくする土台を作っていることに気づいてほしい。(まったく気づいてないと思う)
そしてそんな社会を少しでも変える方向に舵を切ってほしい。
お互いがいち個人として、どんな場所でも本音で話ができること。
これこそが、日本人が本当の意味で使える英語を習得する近道ではないだろうか。

表面的に学校教育で英会話の時間を増やしたり、大学の入学試験にTOEICやTOEFLを活用しようとしたりするのは、枯れた土壌にどこかで見たきれいなプラスチックの花を植えるようなものだ。いつまでたっても、それなりに体裁を保って美しくは「見える」けど、実際の英語力は育っていない。

それよりも基礎となる土壌を肥やす方向に目を向けるべきだ。
具体的には、 

  1.  発音の基礎となる音やリズムの違いを徹底的に知ること

  2.  何も気にせず、周りも空気も関係なく、自分の意見を自分のことばで表現すること

英語を話せない理由は、日本語ですら言いたいことを言えない文化がまだ根強いから。それに気づいてほしい。気づけば早い。あとは書いて話すトレーニングを淡々と行うだけ。会話は場数だ。

個人の力は小さくても、私はそこに向けて英語を教えたい。人前に立つことが苦手で閉じた人間の私が英語を教えているのは、この土壌を育てたいからだと気づいた。ほとんど使命と思ってやっている。(やっとタイトルにたどり着いた)

和歌山県庁が見えるセミナー会場

かつて私は、ロンドン大学のランゲージセンターで担任だったイギリス人の先生から、こう評されたことがある。

Because of her initial shyness(もともと人見知りするので)

だから彼女(私)は英語を積極的に話さない、と評価シートのようなものに書かれていた。うわーよく見てるな、と思ったし、やっぱそうなんだと納得して、ちょっと恥ずかしかった。

でもそのときはなぜ人見知りするのか自分で掘り下げることもなく、読み書きができても会話は苦手なままなのは続いた。性格が暗いから、ネガティブだから、と勝手に理由をつけて、自分で納得していた。

でも本当は、家庭や社会で植え付けられた文化に影響されていたのかもしれない、と気づいたのはずいぶん後になってからだった。
私ほど影響されない人もいると思う。でも日本において、特に女性で(自分で言うけど)繊細な性格であれば、過剰に飼いならされてしまうのが今も根強く残る家父長制によるものが大きい。環境にコントロールされていたせいであって、あなたの資質ではないのである。

熱くなってきたので和歌山城の新緑でクールダウン

こうした気づき(という名の怒り)だけでなく、拙著『ほめ英語入門』に書いたように、「ほめ英語」に代表されるような自由で豊かなコミュニケ―ションの良さも英語は見せてくれた。

私は自由で対等な文化を感じさせる英語のおかげで、自分で自分を縛っていたルールからどんどん自由になれたと思っている。
英語学習の醍醐味は、英語を学ぶ過程で文化の違いを知って自分の考えがアップデートされていくことだ。
資格試験や受験のためだけでなく(それも短期的にはいいモチベーションにはなるけれど)、視点をちょっと変えて英語に向き合ってみると、より楽しくかつ効果的に習得できる。そんなことを英語を教えながら伝えていきたい。

和歌山県文の外観

英語の発音については、慣れてないと最初は「こんな口の動きするのイヤだな」「こんな音を出すの恥ずかしい」と無意識に反応してしまうと思う。(口をタコのようにとがらせたり、息を強く出したりするので)
でもそこは「違って気持ち悪い」ではなく「違っておもしろい」に変えてみてほしい。受け入れるうちに違いを楽しめるようになるし、ふりかえって母語の豊かさにも気づくだろう。

覚えやすく6/9(ロック)の日

6/9開催のセミナーでは、特に日本人が苦手とする音を中心に丁寧に指導する予定です。少人数なのでひとりずつ発音チェックをする時間や、皆さんが書いた英語を私が添削→話すアクティビティもあります。(実は添削だいすきなので、ずっとやっていたい)
もちろん「ほめ英語」も練習します。(もし『ほめ英語入門』を持ってきてくださったらサイン&ひとことほめ英語を書かせてもらいます!)

まずは「ほめ単語」から

お申し込みは、Googleフォームからどうぞ。

思いのたけをつづっていたらこんなに長くなってしまった!我ながら暑苦しい文章ですみません。ここまで開示したのはnoteでもブログでも初めてかもしれない。

しかし燃えたぎる熱い内面を抱えながらも、外向きはクールで冷静なのが私の取り柄?でもあるので、セミナーは落ち着いた感じで進むと思います。ご安心ください笑

Looking forward to seeing you in my English seminar!

Kana



英語講師ときどき翻訳 Twitter: @kanahilston