見出し画像

女の子に間違えられた。そして、ジェンダー問題の一端に触れた。

仕事中、お客さまから電話が入る。
弊社で販売した商品で、より詳しい説明が聞きたいそうだ。
「どういったご要件でしょうか?」
この店では私が一番長く業界に関わっている。どんな質問でもかかってこい、そんな気分だった。
「あなたじゃ分からないだろうから、男の人と電話変わってよ。」
お客さまからの返答に、私の思考が止まる。
さて、どうしたものか。
私は、男だ。

ジェンダー問題、なんて言葉がここまで一般になったのは、いつからだっただろうか。
私の幼少の頃など、男子のランドセルは黒一択で、赤だの青だのピンクだの、そんなカラフルな色は女子の道具であった気がする。
今や、国内シェア一位のセイバンが販売するランドセルのカラーとラインナップは100種を超えるという。
男女の平等、性の多様性、ジェンダー問題、そんな話題を、どこか遠くに感じていたかもしれない。


第二次性徴を迎えた後も人より少しばかり声が高かった私は、「女の子みたいな声」なんて言われることはよくあった。
耳の肥えたバーチャルの住人たちはおそらく、機械的に作り出された声や、特定の訓練の後に会得された多様な声を聞き分ける能力を有している事だろうが、おおよそ一般の生活を送る人間にとって、その聴き分けは困難だ。
声が高ければ女性。
声が低ければ男性。
カツオの油漬けは全てシーチキン。
世間では、おそらくそれが多数派である。

話を戻そう。
ひょんなことから女性と間違えられた私は、ここから世間のジェンダー問題の一端に触れる事になる。
受話器の保留再開ボタンを押し、できる限りの低い声を絞り出す。
「大変長らくおまたせしました。ご要件をお伺いします。」
気分は江戸川コナン、蝶ネクタイ型変声機のソレだ。
「店員さん。お忙しい中申し訳無いのですが、商品のメンテナンスの件でお伺いしたいことが……」
さっきまでの横柄な態度と一転、口調から言葉遣いまで何もかも違うではないか。
ここまでか。
ここまでか。
同一人物で声の高さが違うだけで、ここまで態度が違うのか。
いや、そうじゃない。
女性だと思った。
それだけで、ここまで態度が変わるのだ。
女性だと思った。
それだけで、見下してくる人間が存在するのだ。

ジェンダー問題はおそらく解決しない。
世界に貧困と富裕があり、宗教があり、労働と雇用があり、なにより性「別」がある限り、ジェンダー問題はおそらく解決しない。
とても悲しいが。
今は未来に期待する他ないが。

いや、諦めるな。
今この瞬間、現在進行系で悩み苦しんでいる人がいる事実から目を背けるな。
今の自分に何ができるか。
微力でも私になにかできないか。
少しでも、この他人を見下す傍若無人な暴虐の限りを尽くす時代遅れの神様気取り野郎に一矢報いるのだ。

「お客さま。当店には女性のスタッフもおりますが、スタッフ全員でお客さまのサポートに努めてまいりますので、ご不明な点はどのスタッフにも気兼ねなくお申し付けください。」
こんなことで何になるのか。
明日の世界がなにか変わるのか。
この言葉になんの意味があるのか。
意味なんてなかったかもしれない。
それでも、お客さまからの「そうか、ごめんね。」の返答は、きっと未来の誰かの救いになったと信じたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?