療育という仕事 登園バスは想いを乗せて今日も行く
良いお天気でよかった。
だって今日は園の発表会。
そんな朝の登園バス内の話。
5歳の男の子が隣に座る私にそっと言った。
「先生あのね、朝ね、オネショしちゃったんだ。でもね、寝てたから知らなかったの」
子どものまっすぐな言葉だ。
ものすごく貴重な瞬間。
私の仕事は療育の先生。
心身の発達に凸凹のある子どもたちと遊んだり学んだりしている。
その子の口からポロポロ言葉が溢れてくる。
「ママが怒ったの。何でこんなことするのって。だけどさ、寝てたから知らなかったんだよ。先生、ほんとだよ。」
そうだったんだね。
寝てて知らないうちにオネショしてたんだね。朝起きてびっくりしたんだね。ママもびっくりしちゃったのかな。
……
君の気持ち、よくわかる。
自分の知らない自分がしてしまったこと。どうしたらよいかわからないよね。不安も悲しさもあって心がモヤモヤなんだよね。
……
ママの気持ちもよくわかる。
発表会を観に行くから朝から忙しかったんだよね。そこに洗濯物大量発生…トホホでしよ。何で今日なんだー!ってなるよ。当然の感情です。
いくら冷静に対応しようとしても、できない時あるよね。
こんな日にかぎって○○された!
これ、子育てあるあるでしょ。
あと…
「お水をいっぱい飲んだからよ」
「寝る前にオシッコいった?」
「風邪ひいちゃうでしょ!」
大人ってこんな風に考えちゃうよね。これ、過去や未来の話なのに。
私も母の顔のときは、言いたくなっちゃう。思春期の娘に対して。
「ちゃんと準備しなかったからよ」「やらないと後で大変になるよ」
お年頃の娘にとってうるさいだけなんだけど、ついついね…
子どもの今この瞬間の気持ちをまず受け止める。
なかなか難しいけど、ちょっとずつ心がけていきたいな、と思ってる。
話は戻って、先ほどの男の子のこと。
彼は入園当初、感情のコントロールが難しく、パニックを起こしたり他児とトラブルになることも多かった。数年経って、自分の思いを言葉で伝えることができるようになり、やっとリラックスして園生活を送れるようになってきたところだ。
この日、心のモヤモヤと一緒にバスに揺られてきたのだろう。車内が少し落ち着くこの時間を待って、意を決して発せられた言葉に思えた。
自分の気持ちを出す。
これはとても大切なこと。
言葉だけではない。
泣くことや怒ること、自傷や他害行為となって表現する子もいる。
わかったよ
大丈夫だよ
この瞬間の気持ちを受け止めたい。
子どもにとって園は小さな社会だ。登園バスは心のモヤモヤを昇華し、切り替えていくための空間でもある。小さな子どもだって家の顔と外の顔があるのだ。社会があるのだ。
先生もね、オネショしたことあるよ。
「ほんと?」
ほんと。
彼の顔が少し和らいだ。
子どもって先生の失敗談が大好物なのよね…
さぁ、園に到着。
あとは一気に場面転換。
彼は視覚優位なので、目に映る景色の変化で気持ちを切り替えやすくなる。
あ!いろんな色の旗が見えるね。
何色が好き?
「青ーっ!」
ママは何色が好きかな?
「うーん、ほんとはピンクが好きだけどないから赤ーっ!」
ママが観に来てくれるの楽しみだね!
「うん!」
バスを降りたら新しい今。
子どもたちにとっての小さな社会。
その社会で出会う大人の一人として、信頼してもらえるよう真剣に向き合っていこう。
登園バスは想いを乗せて今日も行く。
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