「イネーズ」風吹く世界の中で その2
あの密集した場所からかなり広い場所に移されたんだ、さぞ気持ちは楽になったのではなかろうか?
そんなことを思いながら耳を傾けてみた。
「広い場所に移ることが出来ましたね」
「そうですね、でもあまり葉や根は伸ばさないほうがいいかもしれません」
「またぶつかったりしてしまうかもしれません」
あんまり変わってなかった。
お互いの距離感は「おれくん」たちも「わたしちゃん」たちも違いは殆どない。
ってことは俺も隣の奴に気をかけるべきなのか?とか思いながら隣のやつに目を向けたが、そいつは呑気な顔で虫とかと話していた。
「普段なに食べてんの?・・・ふーんあんま美味くなさそうだね」
とかそんなことを能天気に話してるのを見て俺はなんか不思議な気持ちになった。
するとふと思った。
思った。というよりは「忘れていた」というよりあまりに自然で「気がつけなかった」
前の場所でもそうだったのだが「わたしちゃん」達がいる場所からは「わたしちゃん」達の会話がほとんどでそれ以外の声はあまり聞こえてこなかった。
一方、「おれくん」たちの方はいつも周辺に「へんなやつら」が沢山いる。
足元とか水の中とか。
ざわざわしてはいるものの不思議と嫌ではなく、逆に居心地が良かったりする。
そいつらはたまに歌を歌ったりとか、よくわからない話をしてきたと思ったら突然寝たりとか。すごい自由に暮らしているようだった。
そんなやつらの様子をみていると、あんまり隣のやつの存在が気にならなくて寧ろ「自分と足元の奴ら」を見ている方が何故か楽しかった。
下手に「わたしちゃん」たちのところみたいに「声が通らない」から通そうとも思えないし、別に通らなくとも困ったことはない。
それからというもの、「わたしちゃん」たちと「足元」の会話を織り交ぜて聞きながら過ごしていた。
するとある日・・・
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