【800字 ショートショート】#54 バンガローの医師
とある山奥にある開けた草原にそのバンガローは存在する。そこには医師が一人、看護師が一人いるらしい。酔狂な奇病を治すためにこの地へ越してきたわけではなく、彼は人が嫌いだったからこの場所を選んだのだ。
そんな辺鄙な場所にも今日も患者はやってくる。
奇病。それは少し先の未来に待っている人類の悩みの種。
やってきたのは20代半ばの男性だった。その男性は診察室に表れた瞬間、医師にこう告げた。
「こんな病気、治せるんでしょうか?」
そういうと男は自分の手を覆っていた布をとる。するとそこには信じられないことに両手が繋がっているのが見えた。まるで手を組んだまま蝋燭のロウを垂らして固めたかのように右手と左手が密着してしまっていた。
こんなことには慣れっこなのか医師も看護師も動揺しない。その男の顔は不安だったが、医師は呆れていた。
「あなた、神様に祈りすぎましたね?」
「手がくっついて動かないってのはそういうことです」
次の日からその患者は神ではなく自分に祈ることにした。
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