■要約≪プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける≫
今回はMelissa Perrisi氏の「プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」を要約していきます。ビルドトラップと呼ばれる著者が独自に定義した「プロダクトマネジメントにおいて避けるべき状態」を中心に言及・考察していく本です。オライリー・ジャパンシリーズの有名な著書でプロダクトマネージャーの入門書としても名高い本です。
「プロダクトマネジメント ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける」
■ジャンル:IT・経営
■読破難易度:中(初学者でもわかるように記述されていますが、特にプロジェクトマネジメントや事業開発などの実体験がある方にオススメしたい本です。)
■対象者:・プロダクト関連職種に関わる方全般
・プロダクトマネージャーとして活躍したい方
・非連続な成長・イノベーションに関して責任を持つ役割に従事する方全般
≪参考文献≫
■プロダクトマネージャーのしごと
■要約≪プロダクトマネージャーのしごと≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■プロダクトマネジメントのすべて
■要約≪プロダクトマネジメントのすべて 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)
■要約≪プロダクトマネジメントのすべて(後編)≫ - 雑感 (hatenablog.com)
【要約】
■ビルドトラップとは
・ビルドトラップとはプロダクトマネジメントにおいて絶対に避けなければならない定性状態を指し、具体的には「組織がアウトカムではなくアウトプットで成功を計測しようとして行き詰っている状況」・「実際に生み出された価値ではなく、機能の開発とリリースに集中してしまっている状況」の2つを指します。本書では、「ビルドトラップがどのような因果関係で発生してしまうのか」・「ビルドトラップを避けながらプロダクトマネジメントの役割を果たす為にはどのようなお作法を遵守しないといけないのか」について架空企業のプロダクトマネージャーのストーリーを追う形式で記述されていきます。
・プロダクトマネジメントにおいては自分達が妄想する課題解決やビジョンではなく、実際に顧客が困っており、解決策を試みても実現しないもの・お金を払ってでも解決したいものなどに集中するべきということが本書では何度も主張されます。
■ビルドトラップを避けるためにプロダクトマネージャーが遵守すべきステップ
・短期的なアウトプットに終始せず、いつ如何なる時も「プロダクトで得たいアウトカムを第一に思考」・プロダクトビジョン・ロードマップに忠実に共通言語化して意思決定・コミュニケーションを取り続けるというステップを異常なまでに遵守することが何よりも大切と本書では主張されます。予算制約やシニアステークホルダーの関心毎の変容・プロダクトチーム内の利害関係の衝突(専門性とその違い故の価値基準や優先順位の相違)などのビルドトラップ誘発の環境に立ち向かい秩序をアップデートし続ける為にやり繰りするのをプロダクトマネージャーが何よりも拘らないといけないとされます。
・一般的にプロダクトマネージャーは「権限はないが責任は伴う」という立場に置かれる為、上記を実現する為に目に見えない組織力学(ビジョンや信頼残高起点で)を働かせ続けることが業務遂行に伴います。顧客の声・ファクトやプロダクトが描きたい世界・方向性などを道しるべにステークホルダーとの折衝、プロダクト開発の優先順位付けを常にしていくことが求められます。
■プロダクトマネージャーのキャリアパス
・大規模なプロダクトになると、プロダクトマネジメント業務を分業して役割分担して果たすということが発生するようになります。プロダクトマネージャーは主に戦術・運営・戦略の3つのバランスが異なるという形でキャリアステップを歩んでいくことが一般的です。プロダクトマネージャーになるにはソフトウェア関連職種や営業・マーケティングからの社内異動を経ることが多く、その後はプロダクトマネージャー特有の経験を積み上げていくことで習熟を図る必要があります。上記構造になるのは「ドメイン知識に明るく、事業戦略をプロダクトの観点から実現していくプロダクトマネージャーの総合格闘技なロール」を加味した際に、何かの専門性を起点にピボットして従事してもらうことが組織において最適解になることが多いからです。
・プロダクトマネージャーの第一歩の役職は主にアソシエイトプロダクトマネージャーと呼ばれ、主に戦術(機能を作って世に出すという短期的な行動)が中心であり、開発やデザインとのディレクション業務がウェイトを占めます。プロダクトマネージャーは「経験と実践」で身に着ける要素が強く、関係各者と資源を「やり繰り」する要素が強く、習熟方法も経験と実践ベースであるのがプロダクト「マネージャー」な点です。アソシエイトプロダクトマネージャーが成長した先にプロダクトマネージャーのポジションがあり、開発チームやUXデザイナーと協力してチームでソリューションを考えて形にしていくことになります。現場に行き、ユーザーと対話し仮説検証を行い、機能の観点から意思決定に責任を持つようになります。機能の仕様と方向性について、「プロダクト全体のビジョンとの整合性を取る」のもプロダクトマネージャーの役割であり、まだ戦術中心であるが運営の要素が増え、戦略にも造詣がないとバリューを発揮できないフェーズとなります。
・プロダクトマネージャーが習熟した先にシニアプロダクトマネージャーが存在し、主に戦術の中でも高難易度案件や運営・戦略のウェイトが増える状態を指します。プロダクトビジョンやロードマップについても権限・責任を持つようになっていくのが実際だ。ここまではピープルマネジメントを担わないことの方が多いです。その後のキャリアはプロダクト担当ディレクター・プロダクト担当VP・CPOといった具合に職階を経ていきます。
※どの職種も共通して精神的なタフさとリーダーシップ・仮説検証~定量分析~課題設定~ソリューション実現(ステークホルダーとの折衝を経て)などが必要とされます。
■ビルドトラップを助長する環境因子について
・報酬とインセンティブは代表的なアウトプット思考を育み、ビルドトラップを招く因子です。また、プロダクトマネジメントの成功において、プロダクトマネージャー自身の信頼残高・プロダクトチームの共通言語/心理的安全の担保は生産性を左右する重要指標でこれらが育まれないと不毛な干渉や会議が多発してしまい、ビルドトラップが自然発生します。
・予算制約も短期的な成果や思考を促進する制約条件とされ、これは投資家から調達した資金を用いて収益や成長性を短期・中長期で示し続ける必要にある企業の宿命とも言えます。これらの制約条件の中でプロダクトマネジメントの役割を発揮するのは至難の業ですが、それでも遂行できるように資源や環境をやりくり・働きかけ続けることでプロダクトビジョンを実現することが求められます。
※あらゆる企業がプロダクトアウトからマーケットインにシフトしていく中で、プロダクトマネジメントという独特の役割を付与しないと安定した成長戦略を描くことができずビルドトラップに陥るようになりました。その必要性や商流にインターネットが組み込まれるようになってきたことがトリガーとなり、プロダクトマネージャーの重要性は一気にこの10年くらいで向上したわけです。
【所感】
・ひどく矛盾した精神的にタフな役割を求められるプロダクトマネージャーの難しさと重要性を再認識させられる内容でした。事業責任者やCEOの登竜門とされ、非連続な成長と事業価値の向上にコミットする為に、「顧客起点で青写真を描き、旗を掲げ続けるダイナミックさ」を感じた次第です。自分自身がプロジェクトをリードする役割を担う中で、また自社サービスがプロダクトの方向に舵を切る潮流にある中でプロダクトマネジメントの役割・お作法を自分の中に組み込みバリューを発揮できるようにならないといけないと強い危機意識を持つ中で、本書は非常に考えさせられる内容でした。
・自分自身が「お金を払ってでも解決したい問題を解決し、顧客(ユーザー)のありたい状態を実現する」を意思決定基準の中心に据えて思考・行動するを直近のテーマとしている中で本書で記述されるお作法・ステップは非常に学びが深かったです。コミュニケーションコストを削減し、共通言語化する為にフレームワークを活用し合意形成を円滑に進めるというのはバカにならないと改めて感じた次第です。
以上となります!