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■要約≪代議制統治論≫

今回はJ.S.ミルの「代議制統治論」を要約していきます。

本書は「功利主義」や「自由論」で有名なミルが19世紀半ばにイギリスの政治構造を立証的に分析しようとして行った政治研究の集大成とされます。ヴィクトリア女王治世の中で普通選挙運動による参政権の拡大・労働者と女性の政治参加がテーマになる時代の中で、ミル自身の東インド会社での勤務経験・歴史・哲学研究などのエッセンスが詰まった内容となっております。


「代議制統治論」


■ジャンル:政治

■読破難易度:中(ミル特有の表現・思考プロセスの癖が強い本なので、ミルの関連書物あるいは政治学に関する基礎的な本を読んだ上で読むことをオススメします)

■対象者:・代議制統治について興味関心のある方

     ・自由主義国家について理解を深めたい方

     ・ヨーロッパの政治史・国際関係について興味関心のある方


≪参考文献≫

功利主義

■要約≪功利主義≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■自由論

■要約≪自由論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■完訳統治二論

■要約≪完訳統治二論 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪完訳統治二論 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)


【要約】

「あらゆる国家は発展をしていく中で最終的に代議制統治の形態に辿り着き、代議制統治こそが最善の統治形態である」というのがミルの本書での主張です。


■代議制統治が最善の統治形態たる理由について

・「ある範囲に関わる利害関係を調停するための超越的な機構を設けて機構に権利を委任することで、構成員である人民全体の幸福を最大化・意思決定最適化する」というのが政治諸制度の狙いです。専制共和制民主制など様々な統治形態があり、文明の発展と共に最終的には「多くの人には政治リテラシーと政治行為に割く工数が無い為、一部の人を選別して代理的に権利を行使してもらい合議で政治を遂行するのが理想」という結論に辿り着き、代議制統治に辿り着くとされます。

・ミルは世界の歴史を紐解くと文明の発展度合いに応じて、専制⇒共和制・立憲君主制⇒代議制統治(議会制民主主義)に進展していく宿命にあったと言及します。尚、「政治力学の原理原則」と「統治形態に対して国民や対外勢力がどのように反応するのか」を学ぶ為に古代ギリシア・ローマ・フランク王国の統治の歴史を学ぶことが有意義であると本書では明示的に繰り返し言及されます。


■代議制統治を効果的に機能する為の原理原則

・資本主義経済下で代議制統治により国家を運営していく自由主義国家が近代世界の結論とされていますが、「多数派が暴力的な支配や抑制を行使しないように少数派の意見や利害を尊重する」・「議論の対立を意図的に行い吟味するステップを踏む」などが代議制統治を維持・機能する上での絶対条件であるとミルは強く主張します。国民の民意を幅広く反映する為に、「様々な階級や分野を代表した代議士により構成される立法機関を最高権威とすべき」という主張に繋がります。

・また、代議制統治がいくら効果的なシステムとされても「代表的な機関の権力を相互に抑制する仕組み」がないと部分が肥大化・暴走し統治システムが破綻するリスクは避けられないとも本書では言及されます。それ故に立法行政司法の相互抑制を意図した三権分立制や文官による軍部統制などが有効なシステムだとされます。


■代議制統治を運営していく上での重要な仕立てについて

議会は審議・意思決定されるだけで相当な時間とエネルギーが割かれることになり、代議士以外に「原案立案・政治的意思決定を執行する組織」が必要となります。その為、官僚制のような形で行政機関が構築される必然性があります。公共業務には専門知識体系だった課題解決のパターンを保有・運用する機能が不可欠であり、だからこそ行政機関司法機関などは「専門分化した官僚制組織」による遂行が不可欠となります。

官僚制がなぜ個人の自由意志を殺すような指示命令系統を要望するかというと、多くの政治的意思決定において、合議により採択された内容の遂行に専念し、執行者が個人裁量で判断しないようにすることが長期的に安定して、かつ成果を最大化するであろうという確率論的な価値観が含まれている為です。



【所感】

・本書は上記要約に加え、選挙権・選挙方式・議会期間・第二院・大統領制地方分権などについても言及がなされており、イギリスの政治構造の歴史研究の読み物としても非常に面白い内容となっています。モンテスキューの「法の精神」で言及される各種政体(専制・共和制・君主制・民主制)の特徴・あり方や政体に宿る法律の精神・三権分立制の意義などの主張と通じるものがあり、併せて読むと面白く感じられるかと。

・随所に知性や政治的倫理観を重んじ、制限選挙を正当化するエリート主義的な思想が見える所はミルらしいなと感じるものでした。功利主義・自由論など経済・哲学分野において後世に多大な示唆を残した彼ならではの政治分野への提言・深い歴史造詣などが垣間見えるもので、非常にワクワクしながら読むことが出来ました。世界史や経済分野が好きな方が政治分野にとっかかりを持つにはうってつけの本と言えるかもしれません。


以上となります!

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