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公演評:宝塚歌劇団 雪組公演 望海風斗MEGA LIVE TOUR「NOW! ZOOM ME!!」 Bバージョン (2020/9/18)

 2020年9月11日(金)に雪組公演「望海風斗MEGA LIVE TOUR『NOW! ZOOM ME!!』」が無事に開幕した。現役生徒の中でも随一の歌唱力を誇る雪組トップスター・望海風斗を中心としたコンサート形式の公演。雪組総勢78名のうち24名の出演者は、半分が100期生以下(=入団7年目まで)の下級生だ。上級生も雪組を雪組たらしめている94期~96期生が中心で、スター格はトップの望海(89期)と彩凪翔(92期)のみ。タイトルどおり全出演者に「NOW! ZOOM ME!!(この瞬間私に注目!)」となる場面が与えられ、既に来年4月の退団が決定している望海から次代を担う組子たちへの継承の意味合いも滲む公演となった。

 宝塚歌劇の公演作品のオリジナルソングを中心に、バブル期のジュリアナ東京を再現したディスコの場面と懐メロメドレー、男役のスーツ物の場面、黒燕尾、望海が雪組に組替えした2014年秋以降の雪組公演の様々な役や場面を織り交ぜたパロディ劇、マジック、望海のピアノ弾き語り、日替わり登場の出演者6名と望海のMCなど、多彩で予測のつかない場面構成で楽しませた。
 パロディ劇は終わってみると、かの有名な金八先生を模したコントで始まるイントロが過去作品パロディとすんなり繋がっておらず、全体にやや冗長な印象を受けた。しかし、雪組きっての2枚目の彩凪が振り切った扮装と特徴を捉えた演技力で金八先生ならぬ「アヤナギ先生」を見事に好演し、コントも間合い良く運んだ点は流石。また、昨今和物とフランス物が多い雪組らしく「星逢一夜」(2015年)「ひかりふる路」(2017年)「ファントム」(2018年)「壬生義士伝」(2019年)などを中心に、雪組をずっと観てきたファンなら「あぁ、こんなシーン/台詞あった!」と懐かしくなる場面が巧く繋ぎ合わせてあり、ファン心をくすぐった構成は良かった。

 印象に残った生徒を挙げよう。

 まずは「ひかりふる路」の歌唱が光った聖海由侑(103期)。今公演用のキャッチコピーで「Mr.ボーカリスト」を自称するだけあって、素人耳にも他の下級生から抜きん出た巧さを感じさせた。ハーフのような顔立ちも印象的で、雪組ファンながら下級生に詳しくない私の記憶にも着実にインプットされた。

 続いて、若手スターの諏訪さき(99期)。諏訪は2020年1月~3月公演「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」で、入団7年目のラストチャンスにして新人公演初主演を掴むも、コロナ禍のあおりで東京の新人公演が中止となり涙をのんだ。
 その諏訪が今回、主演を務めた望海とデュエットで同公演1幕ラストの大ナンバー「愛は枯れない」を披露した。望海と同等かそれ以上に諏訪に歌唱パートが割り振られる小粋な演出。元々力強い歌声だった諏訪だが、この数か月で低音域がより出るようになったのではと進化を感じさせた。場面も場面なだけに2人の魂を強く感じる一曲で、背景事情も重なって思わずぐっと来た一場面だった。
 ほかの場面でも、数人口の真ん中を務めたり、ソロパートを担当する割合も多く、今後が楽しみな若手スターである。

 そして、贔屓目を自覚しつつも語らずにはいられないのが、彩凪翔。
 私が思う彩凪の一番の持ち味は、「舞台上と客席と、双方における求心力の高さ」だ。それを可能にするのは、宝塚歌劇でも随一の目線遣いの技術である。
 大勢口の場面などで舞台上にトップが居る場合、彩凪は誰よりも小まめに、そして長い時間、トップに目線を向ける(たとえ相手と目が合わずとも)。また、客席に対してもただ目線を流すのではなく、意識して「見ている」ことがほとんどだ(実際、どの客が自分を見ているかも把握していると過去に語っている)。彩凪は目線だけで、出演者の意識やパワーがトップに集まっていることを表現し、そして2階席の奥まで取りこぼさずに客席と舞台とを繋ぐ。
 今回も、スタークラスがトップの望海と彩凪の2名だけというなかで、今公演における2番手として十二分に存在感を発揮し、役割を果たした。
 惜しいのは歌唱で、ここ数ヶ月で明瞭さや声量が多少進歩したことは伝わったものの、英語の歌になると歌詞が聞き取れない致命傷は残されたままだ。せっかく芝居・ダンスと美貌には定評があるだけに、上級生とはいえ歌唱をもう一段レベルアップさせ、ますます雪組に欠かせない存在となることを期待したい。

 トップスターの望海は、圧倒的な歌唱力で多様な曲を自在に歌い上げるが、どちらかというとその歌声は繊細さより力強さが印象的だ。更に、研鑽を積むほどに増していく男役の演技や色香、ダンスなども、学年差・経験差もあって他の雪組生を遥かに凌駕している。それゆえ以前の公演では、望海が「異次元」すぎて、他の雪組生が一種置いてきぼりのようにふと、観劇中に感じてしまうことがあった。
 しかし今公演では、望海が「ぶっちぎりのトップスター」として存在しつつ、出演者みなが実力面でも存在感でも自らをしっかりとアピールし、望海に食らいついていた。5か月もの休演期間中に全員が地道な努力を重ね、歌唱力を中心に底上げを図ってきたからだろう。

 雪組が、望海トップ体制の集大成に向けてますます魅力的になっていく。まずはこの公演が、東京での大千秋楽までに一体どこまで進化するのか、楽しみでならない。

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(ライター・まつざわ)

※この公演評は、宝塚大劇場で上演された2020年9月18日(金)15:30公演のライブ配信を視聴して書きました。
※バナー画像は、宝塚歌劇団公式HPより借用しました。記事末尾の画像は、ライブ配信(PCにて視聴)の画面を撮影しました。