アラフィフ女性、ヒサンな転職活動のリアル ⑦「日本の雇用のあり方」は変わるのか?
まずはお詫びから。
私はこの連載記事で「リストラされる」と書いてきたが、「正確にはリストラではなかった!」と、気づいた。
今更で申し訳ない。
自分の中では「実質的にはリストラだよな」と思っていたので、言葉の正確性が疎かになっていました。深く反省せねば。
正しくは「会社都合による希望退職」だったので、謹んで訂正いたします。
「希望退職なら、リストラと全然違うじゃない。なぜ間違えたの?」と思う方もいると思うので、今回は「日本の解雇制度」について、少しだけ説明してみたい。
日本は社員をクビにできない国って本当?
ご存知のとおり、日本では正社員をクビにするのは、とてつもなく難しい。
終身雇用を原則とする日本では、社員が法律によって手厚く守られているため、ちょっとやそっとの理由では、解雇できないことになっている。
もちろん、悪質なパワハラを継続的に行ったり、刑事罰の対象となるような行為をした社員であれば、就業規則で定められた懲戒処分を行うことができる。
しかし、「ものすごくやる気がなくて、結果をまったく出さない社員」がいても、「やる気や能力不足」を理由に解雇するのは非常にハードルが高い。
解雇したとしても、裁判になれば、解雇が無効になる可能性が高いのだ。
リストラも容易ではない
それはリストラ(整理解雇)の場合も同じこと。
つまり、法律で厳格な条件が決まっていて、例えば、「リストラ回避のためにあらゆる企業努力を行ったか」、「リストラ対象となる社員の選び方が合理的だったか」など、いくつもの条件をクリアしないと実施することができない。
「希望退職制度」は社員自ら希望するわけではない
そのため、リストラの代わりに企業が行うのが、「希望退職制度」の活用である。言葉だけ聞くと、「退職を希望する人を募って辞めてもらう制度」なのだが、その実態は「退職を希望するよう圧力をかけて退職させる制度」だったりする。そのやり方を「退職勧奨」という。
ただし、退職勧奨ですら強引に進めると違法になってしまうため、極めて慎重にことを運ぶ必要がある。私の場合、「会社に残っても、あなたに適したポストは用意できそうもない」とやんわり告げられたわけだが、これは法律的にはかなりグレーである(つまり裁判に持ち込めば違法と判断されたかもしれない)。
もっとも、多くの場合、退職勧奨には、「退職金の割増し」や「退職するまで3ヶ月間は仕事を免除するので、転職活動を行うなど好きに過ごしてください」のような優遇措置もセットで付いてくるため、辞める側もある程度は納得して去ることになる。
そして、名目上「希望退職」なので、「会社に辞めさせられたのではなく、自分から辞めてやったのだ」と、メンツを保つこともできるというわけだ。
解雇や転職が容易になれば、何が変わるのか
私自身は「企業が生き残りのために社員を切る」ことに賛成はしないが、経営破綻のおそれがあるなど、そうせざるを得ない場合もあると考えている。
問題はむしろ、日本では労働力の流動性がおそろしく低い、という事実の方にある。要は、解雇されても、すぐに他の企業に転職できれば、何の問題もない。
日本では、人々が容易に転職できないこと、そしてそれがもたらす弊害によって、会社も人も低迷状態に陥っている。
日本では長らく終身雇用と年功序列が基本となっていたので、これまで、よほどの事情がない限り、安定した企業に就職した人は定年まで勤め上げるのが普通だった。それで何が起きるかと言えば、やる気のない社員や無能な上司が、クビにならないのを良いことに定年まで会社に居座って、高給を貰いながら全体的な生産性を下げるという、日本企業特有の問題である。
これは私の勝手な考えだが、もし解雇や転職の難易度が下がれば、労働者は入った会社がブラック企業だったらさっさと辞められるし、会社は仕事をサボりがちな社員に辞めてもらえる。そんなwin-win状況がもたらされるのではなかろうか。
日本に「ジョブ型」は広まるか?
そんな具合に、「日本の雇用制度」についてモヤモヤした思いを抱えていたところ、今年1月、日立製作所が「全社員をジョブ型雇用にする」というニュースが飛び込んできた。
ジョブ型雇用とは、簡単に説明すると、ジョブ、すなわち職務に合った人材を採用する雇用制度のことだ。
具体的には、会社が「詳細に定めた職務内容」に基づいた採用を行い、雇用された人は、その内容の仕事のみ行うことになる。
ジョブ型は「労働力の流動性」の高い社会でしか成立し得ないのではないかと考えていたので、正直、日立の決定には驚いた(さらに幾つもの大企業がジョブ型を採用していると聞く)。
なぜなら、ジョブ型は終身雇用や年功序列とは正反対の制度だからだ。
「雇用の安定性が保たれるのか?」と不安視する声もあるようだが、保たれるはずがない。むしろ、雇用の安定性を覆すのがジョブ型ですから。
ジョブ型でメリットを得られるのは、高度なスキルを持った労働者である。
年齢に関係なく高い給料で雇用される可能性が高くなるためだ。
「自分の方が仕事ができるのに、何もできない中年上司の方が給料が高い」なんて不満を抱えた若手社員には朗報だろう。
一方で、会社が特定部門を閉鎖する事態になった場合、該当する職務で雇われた人は当然仕事がなくなるので、リストラ、もとい、希望退職するしかなくなる(日立がそうするという意味ではなく、一般的な考え方として)。
ジョブ型が主流になれば、能力の高い人は、給与や職務内容に見合ったポストに転職し、自分のキャリアをどんどん高めることができる。
では、スキルを身につけていない人は解雇されるリスクや、そもそも雇われない可能性が高くなるのだろうか?
また、スキルの高い人であっても、職を失ったとき、流動性の低い日本で次の就職先が簡単に見つかるだろうか?
こうした不安を払拭するのは難しいだろう。
その意味で、日本の企業全体が完全なジョブ型に移行するとは考えにくい。
なぜ日立は完全ジョブ型に切り替えたのか?
では、なぜ日立は、この段階で、「完全ジョブ型」に切り替えたのだろう?
これまた私の勝手な想像だが、日立のグローバルな競争力が、相当低下しているせいではなかろうか。
日本企業の多くは、従来型の経営ではもはや生き残れない段階に来ている。
日立はその事実にいち早く向き合い、「社員の存続」より「会社の存続」を重視した「ジョブ型」に踏み切ったのではないか。
つまり、「新卒採用して育てている場合じゃない、能力を持った即戦力を雇って、企業の生き残りを図ろう」という、わりと切羽詰まった考えが根っこにあるのではないだろうか。
そして、ターゲットとする雇用者は日本人ではなく、グローバル人材なのではなかろうか。
と、想像に任せてあれこれ書き連ねてしまったが、
結論としては、世界における日本の経済状況に鑑みると、「日本の雇用制度」も変わらざるを得ない段階に来ているのではないかということ。
その予兆を見逃さずに行動できるかどうかに、日本企業の命運がかかっているような気がする。
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