ゼロから学ぶECビジネス オムニ化の壁編
おはようございます。
昨日、不用意に見た中田あっちゃんのスラムダンクの授業で泣かされたドドル カンマネのあおけんです。♯あきらめたらそこで試合終了ですよ
さて、お客様を知らねば、ということではじめたECビジネスを学ぶシリーズですが、今日はもともと店舗を主体でビジネスをしていた会社がECに挑むパターンを学んでみたいと思います。
今週月曜日”店舗を持つ企業のデジタル化促進、日本オムニチャネル協会が設立に”という宣伝会議配信の記事がありました。そんな協会が立ち上がっていたのですね。この協会の設立について次のような記載があります。
設立背景には、実店舗を持つ企業にとって、スマートフォン、SNSの浸透が進むデジタル化社会で、ネットと実店舗を融合させた「オムニチャネル」の構築が急務、という課題があった。
ちなみにオムニチャネルについては先週土曜日の記事(↓)でとりあげていますのでお時間ある方はこちらもどうぞ。
店舗主体の小売プレイヤーがECをうまく活用してオムニ化を果たしDXを加速する、を物流面からサポートするのが新しい僕のミッションのひとつなので、今日はこの小売プレイヤーのオムニ化の課題と解決の方向性をメガネスーパーでEC・オムニチャネル化を推進した方の↓の本から学んでいきたいと思います。
ちなみにこの本、前半が筆者の考えをまとめたもの、後半が実際の取り組みをされている実務者へのインタビューとなっていまして後半がなかなか面白いので、今日は前半の話をさらっとまとめて、次回以降後半に登場する事例を他のソースと絡めながらひとつずつまとめていこうかな、と思っています。
PR:あおけんがこれから働くDoddleは、”EC・通販で買った商品を自分が好きな時に、好きな場所で受け取れるサービスプラットフォーム”です!
後半に登場する企業は、以下です。
・マルイ
・パルコ
・渋谷109
・中川政七商店
・ビームス
・ヒューマンフォーラム
・ナノ・ユニバース
それでは、前半部分から僕が気になったポイントを抽出します。
実店舗ありきのECが重要になってきている
楽天がスタートしたのが1997年、アマゾン日本版がスタートしたのが2000年、ということでこの二大巨頭が日本でビジネスをスタートしてもう20年以上経ったんですね。
先日のニュースでは、インターネット広告がテレビ広告を抜いたという発表をテレビメディアで絶大な権力をふるっていた電通さんがする、というなかなかシュールな展開になっています。
2005年設立のYoutube、2006年発表のiPhoneからのスマホシフト。この黒船が2000年代後半から一気に爆発し、そのプラットフォームの台頭を背景に既存メディアを喰うカタチでシェアを伸ばしてきたインターネット広告が昨年テレビ広告を抜いたのはアナログからデジタルへの移行が今後本格的に始まっていくことを象徴する出来事のように思います。
店舗をメインとした小売プレイヤーもスマホで簡単に商品検索、購入ができるようになった今という時代に合わせてビジネスを最適化する必要が出てきました。そんな状況について筆者は次のように言っています。
ECが定着してきた今「周辺の店舗で手に入るモノを買う」「利用頻度が決まっているものは定期購入」「買い忘れて夕方に必要なものはAmazon Prime Now」というように、商品・利用用途に応じた方法でモノを買う。
実店舗とECをうまく使い分ける消費者は確実に増えてきており、ECの役割の重要性は増すとともに、リアルな体験・専門スタッフがいる実店舗の役割の重要性も高まってきています。
お客さんは、より便利なほうへ流れていきます。ネット上と実店舗を自由に行き来して、自分にとって一番楽で得な行動をとろうとしますよね。
混雑を避けてネットで注文して都合がよい時に店舗に寄ってピックアップだけしたい、と思う人もいるでしょうし、アリババグループのフーマーが実践するように、生鮮食品だってEC注文後30分以内に家に届けてほしい、というニーズもあるでしょう。
コロナの影響が長引きそうな中でECの存在感は増していくと思いますが、それでも、ECでだけ買う、もないですし、店舗でしか買わない、もないわけで、お客さんのライフスタイルや住環境によってその配分はバリエーション豊かなものになっていきますし、それに対応するサービスを提供しないことには競合(特にアマゾンやアリババのようなデジタル由来の企業)がどんどん幅を利かせていきます。
その意味で店舗中心の小売プレイヤーのオムニ化はとても重要な課題です。次にこのオムニ化をする上で単純だけど非常に難しい問題について焦点を当ててみたいと思います。
誰のおかげ?誰の数字?
人間の欲望を語る際によく使われるマズローのチャート。
自己実現欲求が一番上にきているのですが、現実的には承認欲求というのが実社会では一番重要なファクターのように思います。
多くの人は高校・大学を出て、どこかの会社に所属することになり、いったんその組織に入って仕事をするからには、その組織の中で認められたい、上にいきたい、給料を上げたい、と思います。
大人になってからは大半の時間をこの会社組織の中での仕事に費やすわけですから、自分の時間の大半を過ごす仕事で評価されるかどうかは、人生で最も大きな関心事のひとつと言えると思います。
話が回りくどくなりましたが、この組織内での評価、ひいてはその組織自体の会社内での評価、というのが、小売プレイヤーのオムニ化の大きな障害になる可能性が高い、という話です。
上述した通り、お客さんがお店・ネット関係なく自分に最適な動き方をする一方で、大きな組織になるとその動きに柔軟に対応できなくなっていきます。
うまく絵にできなかったのですが、この図でご説明すると、店舗売上を主軸とした小売プレイヤーの場合、やはりメインストリームは店舗の売上を上げることで店舗の売上の責任者、そして店舗全体の売上を統括する営業本部の責任者の権限・声が大きいのは当たり前です。
オムニ化が大事!といってEC部門を立ち上げるといっても、収益を生まない部門にたくさん人を張り付けられるわけもないので、当然全社の中での立ち位置、見え方でいうとマイノリティになるケースが多いのではないかと思います。
一方でオンラインのマーケティングは、マーケティング部門がこれまでのコミュニケーション戦略の延長で行うことが多いと思いますので、そこにはそれなりの実績、経験、そして権限をもつマーケ部門の責任者がいるはずです。
それぞれの部門ではKPIが設定されており、その達成度合いで評価、給料が決まるので、そのKPI達成に向けて全力で任務を遂行します。
一方でお客さんは、組織の理屈、縦割りの評価制度を楽々と飛び越えて、スマホを使ってコーポレートサイトにアクセスして店舗情報を見たり、直販サイトを覗いたり、公式SNSやYoutubeをする、横の動きをします。このお客さんが自由に動き回ることで、だんだんこれまでの評価制度が機能しない状況になってきます。
具体的な例でいうと、お店でスタッフが丁寧に接客したお客さんが後日その商品のセール品をその会社の直販サイトで買った、というケースの場合、売上はEC部門につくけど、売上の源である”お客さんをその気にさせる営業”は店舗スタッフがやっていた、この場合、店舗スタッフに何かポイントが入らないとその努力が報われず、店舗営業部門としては「会社のために」では割り切れない状況が生まれてくるわけです。
また、マーケティング部門も、声の大きい店舗営業部門の売上を上げる施策を求められることが多いでしょうし、その中でEC部門の責任者は非常に難しい立場になります。このあたりの事情について筆者は次のように書いています。
EC部門から見た自社の資産は、店舗網、店舗スタッフ、ブランド・コーポレートサイト、ブログ、SNSのフォロワーやLINEのお友だち、メールマガジンのリストなど数多く存在します。しかし、本体事業本部とEC部門の連携がうまく取れていないために、売上に直結する資産を活かしきれていない企業の数のほうが多いようです。
ブランドの販促担当、プレス、実店舗が管轄するメディアやツールに、ECサイトの情報を掲載する場合は、必ず確認(承認)をとるのが一般的です。しかし、よほど事業部門間の足並みがそろっていないと、ここがスムーズに進みません。「いちいち交渉が面倒」と心が折れて、自社資産の活用をあきらめ、WEB広告などの「EC独自の集客」に頼ろうとする企業もあれば、EC部門の集客予算がなくメルマガとSNSのみで奮闘する企業もあるようです。この状況では、集客が増えにくいのは誰が見てもわかります。
経営層によっぽどの信頼、理解があればよいですが、もともと経営層の成功体験が”店舗の売上”で作られている分、ECを基点としたオムニチャネル化に十分な理解を得るのは難しい、というケースが多いと想像します。
経営が「オムニチャネル化こそわが社の改革の一丁目一番地だ!」という意識がない限り、各部門が既得権益化して、オムニチャネル化がスムーズに進まない、ということになりそうです。その点において筆者は次のように書いています。
ECと実店舗の連携が必要な施策の場合には、必ずECと実店舗の部門間の意識を統一しておく必要があります。その際に「実店舗の売上がECに移るのはいかがなものか?」という話題が必ず出て、実施の大きな足かせになっているケースはないでしょうか。
もし、今そのような状況にあるのであれば、今一度、「会社として最終的に何を獲得したいか?」を社員全員、少なくとも部門長レベルで意思統一をすべきです。(中略)もし「会社として何を獲得したいか?」という問いに対して、「実店舗の売上」という答えや、いつまでたっても全社の意識統一ができず色んな方向にブレたりする企業であれば、EC事業の拡大はあきらめる、もしくは転職したほうがいいでしょう。
最後はかなりきつい言い方ですね。
でも、自分も経験がありますが、長く続いてきた組織の中での優先順位や価値観を変えるというのはとんでもなく難しいことで、トップの絶対的な後押しがない限り、一部門のがんばりだけで本当の意味での改革はできないと思うので、筆者の強い言い回しには共感する部分があります。
では、どうしたらよいのか?
僕は小売業界にいたことはないのですが、この既存部門と新規部門のせめぎあいというのはたくさん見てきましたし、新しいことがうまくいくかどうか、という点では同じ悩みを抱えることも多かったです。
ただ、経営もそのあたりはわかっているので、前職では異なる利害の部門間にバーチャル組織を作って、売上・利益をダブルカウントするという手法が使われることが多かったです。
この本の筆者もこの誰が作った売上だ問題、を組織的に解決するために、以下のカメラのキタムラが導入している制度をひとつの着地案としています。
この課題を解消するには、実績と評価だけでなく、その環境を活用するための仕組みも同時に用意する必要があると考えています。例えば、株式会社キタムラ(カメラのキタムラ)は、ECを経由する店頭での注文・決済を該当店舗の売上実績・評価にしています。一方、EC部門では、「EC関与売上」としてそれらの売上をダブルカウントしてECの評価をしています。さらに、全社では営業効率化とお客様の利便性拡充のためにも、店頭で積極的にアプリやECをおススメされています。これこそ理想的な「評価×利益獲得の仕組み×店舗での活用の仕組み」にひとつだと考えています。
最後に筆者からはこれまでの経験値から次のようなメッセージが添えられています。
もちろん、根本的な全社課題の解決を行うのは時間がかかります。それを視野にいれながら、短期的に今何をするか、その次に何をするかということを、EC部門というよりも会社のリーダーとして提案を行い、全社を巻き込んでいく必要があります。それが、「実店舗ありきのEC部門の宿命」だということを忘れないでください。
逆説的にいうと、EC・オムニ部門の責任者が”会社のリーダー”としての社内政治力、リーダーシップがないところは、オムニチャネル化が難しい、ということになりますね。(そういった理想的なオムニ推進責任者は実際そんなに多くないように想像します)
先日、お会いした小売・流通の神様がおっしゃっていた「中小をまずターゲットにべき」というのは、このあたりの実情・現状を踏まえていただいたアドバイスだったかもしれません。
ただいずれにしても、広告がマスからインターネットに向かったように、時代はオムニ化に向かって動いていてこの流れが逆走することはありません。
色々な潜在的パートナーがいますが、まずは、ここをきちんと共有できる皆さまと一緒に日本のEC含めた小売領域でのDXを推進していけたらと思います。
気づけば5400字を超え、長くなってしまいましたが、本日のお話は以上となります。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
それでは、今日も良い一日を。
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