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ストーリーとしての競争戦略を学ぶ(前編) アマゾン、マブチモーター、ガリバーの3モデル

おはようございます。ドドルあおけんです。

経営戦略・事業開発の火曜日。今日は、「ストーリーとしての競争戦略」から筋のよい経営戦略とはどんなものなのか、アマゾン、マブチモーター、ガリバーの3社の事例をもとに学んでみたいと思います。
前半、後半の2回に分けようと思っていて、今回は著者がいうところのストーリーとは何かというところにフォーカスし、次回はそのストーリーを自社でどう作れるかについてまとめたれたらと思います。

著者 楠木健氏

楠木健_経営学者_-_Google_Search

それでは著者である楠木氏についてWikiから。

楠木 建(くすのき けん、1964年9月12日 - )は日本の経営学者。一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻(ICS)教授。
専攻は競争戦略。東京都目黒区生まれ。南アフリカ共和国ヨハネスブルグで子供時代を過ごす。
1987年一橋大学商学部卒業。1989年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学ビジネススクール(ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年より現職。
企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。

”持続的な競争優位の構築”は、2つあるビジネスモデルの柱のひとつですね。今回の本500ページくらいあって基本ナナメ読みしているんですが、とても読みやすい本で良書と思いました。学者ができること、できないことをきちんとメタ認知した上で、とても興味深い話を展開されています。

経営という獣道

楠木教授は学者と実務家のポジションについて次のように言っているのがかなり印象的です。

学者とは、さまざまなけもの道を走っている人を眺めながら考えているという人種です。実務家に見えるものが学者には見えません。ましてや、迅速で適切なアクションもとれません。立ち止まっているからです。
実務家にとって本当に有用なのは、結局のところ一人ひとりがそれぞれの仕事の経験の中で練り上げていくフォームであり、研ぎ澄まされた嗅覚のほうです。学者の考える理屈は、実務家の野生の勘に遠く及びません。

学者の立ち位置を、所詮嗅覚をメインで戦っている実務家を傍観して考えている存在、と設定しています。とても謙虚な立ち位置です。
8割が嗅覚勝負のけもの道の話だとしても、2割の部分は学者のロジックでサポートできるところがあるはず、というのが楠木教授の立ち位置です。

楠木教授は、経営は科学ではない、と主張します。
科学であれば、どの会社にも共通に適用できる法則があるはずですが、実際の経営は、これをやれば絶対に利益が出続ける、という法則はありません。しかし、法則はないけれども、論理はある、というのが楠木教授のスタンスで、この本では、優れた戦略ストーリーの論理を明らかにするというのを目的としています。

楠木教授は経営を一種のアートとしてとらえていて、経営のアーティストとして次のような方々を例にあげています。

優れた「アーテイスト」が経験の中で練り上げた知見はとても有用です。
日本の経営者に限定しても、ヤマト運輸の小倉昌男さんの「経営学」や複数の企業再生に成功したのちにミスミの経営者になった三枝匡さんの一連の著作はその代表例です。(中略)日本電産の永守重信さん、伊藤忠商事の丹羽宇一郎さん、ファーストリテイリングの柳井正さん、こうした優れた経営者の著作はその好例です。(中略)アーティストが書いた戦略論の一つに、ハロルド・ジェニーンさんの「プロフェッショナル・マネージャー」があります。

このnoteでも取り上げた小倉元社長の経営学という本は経営というアートを精巧に創り上げた知見として評価されているんですね。大いに納得です。

ストーリーとしての競争戦略とは?

筆者が主張するストーリーとしての競争戦略とはどういうことでしょうか。そのエッセンスを説明している箇所を抜粋してみます。

戦略をストーリーとして語るということは、「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか」を説明するということです。
それはまた「なぜその事業が競争の中で他社が達成できない価値を生み出すのか」「なぜ利益をもたらすのか」を説明することでもあります。
個々の打ち手は「静止画」にすぎません。個別の違いが因果関係として縦横につながったとき、戦略は「動画」になります。ストーリーとしての競争戦略は、動画レベルで他社のと違いを作ろうという戦略思考です。

個々の打ち手を戦略とは言わないということのようです。その打ち手が有機的に繋がって他社に真似ができない圧倒的な差をどう生み出すか、ということが問われているようです。

「ストーリーによる経営戦略」をサッカーに例えてみると

この著書の中ではちょこちょこサッカーに例えてみると、という話が出てきます。たぶん楠木教授はかなりのサッカーファン(ヨーロッパの)ではないかと思います。教授はサッカーを例に上に挙げた静止画と動画の違いを説明していますので、抜粋してみます。

サッカーに例えるとわかりやすいでしょう。相手チームに勝つために、どこのポジションにどういう選手を配置するかという問題は戦略を攻勢する「点」です。しかし、そこで選ばれ、配置された選手たちがくり出すパスがどのようにつながり、ゴールへと向かっていくかは、点を結びつける「線」の問題です。
サッカーの戦略というのは要するにそのチームに固有の「攻め方」なり、「守り方」を意味しているわけですが、攻め方なり守り方はいくつもの線で構成された「流れ」や「動き」として理解できます。
戦略の実体は、個別の選手の配置や能力や一つ一つのパスそのものではなくて、個別の打ち手を連動させる「流れ」、その結果動き上がってくる「動き」にあるのです。

よくある、目標売上利益は○○億で、そのために○○部門を強化し、○○統括部長に陣頭指揮をとってもらい、目標達成を目指す、というそれっぽい話は戦略でもなんでもない、ということですね。

ひとつひとつの打ち手がどう連携して経営目標である永続的な利益創出をもたらすか、その流れ・動きのデザインを「ストーリーによる経営戦略」と位置づけているようです。

それでは、具体的事例をもってこのストーリーの解像度を挙げてみます。

アマゾンの「ビジネス構造」と「ストーリーによる経営戦略」の違い

ここで「ストーリーによる経営戦略」という耳慣れない概念を理解するために、アマゾンの”ビジネスの構造”と”経営戦略ストーリー”をそれぞれ見てみることにしたいと思います。

まずはアマゾンのビジネス構造から。以下のチャートでは、アマゾンが顧客にモノを販売するのにパートナーとどのような取引をしているかを表しています。

NOTEネタ

このチャートをもってビジネスモデル、という説明をする人も多そうですが、ビジネスモデルの本来的な意味は、「顧客価値の創造」「持続的競争優位性の担保」をどう実現できるかというモデルなので、単純にビジネスの登場人物間の相関を表した↑のようなチャートはビジネスモデルと呼ばないほうが良さそうです。

そして、この楠木教授が言っているところの「戦略ストーリー」というのが、もともとのビジネスモデルの意味に近いと思います。
以下はジェフ・ベゾスが書いたと言われるどうやってアマゾンが成長していくかというのを表した打ち手同士の相関図です。

NOTEネタ

成長の両輪は、商品の供給元の確保と低コスト構造です。

売り手/仕入れ先を増やし、提供できる商品が増えれば、顧客はリアル店舗にはない圧倒的な品ぞろえに対して、いいね!の(ポジティブな)顧客体験を提供できます。
それがリピートや口コミを生み、トラフィック・取引が増加する。取引数・売上が増えれば、売り手はアマゾンという売り場に対してより商品を供給したいと思い品揃えの充実につながる、というよい循環が回ります。

この循環が成長をドライブさせ、そのことが規模の経済性を生み、低コスト構造を実現できるため、さらにその分顧客に安い価格で提供でき、そのことが別のポジティブな顧客体験を生み出し、指数関数的な成長につながる”ストーリー”があることがわかります。

競合は実店鋪を前提にビジネスモデルを組んでいるので、なかなかアマゾンを真似することができません。ビジネスの考え方が全く違うので、真似しようと思っても、やり方もわからないし、それができる人もいないし、誰かできる人を雇ってきても、既存店の店長からリアルの店舗売上を下げる気か!と圧力があったり、なんやかんやで難しいわけです。

この他社が真似しようと思っても容易に真似ができない状況を作り上げるというのが、持続的競争優位性の担保/構築という点で、顧客価値を作ることに比べて比較的ロジカルに考えることができる領域です。そして教授が研究しているのがこの「持続的な競争優位を構築する論理」なんですね。

マブチモーターのストーリー

ビジネスの構造とビジネスモデル/ストーリーの違いをおさえたところで、日本企業の実例を見ながら、もう少し戦略ストーリーというのがどんなものなのか見てみたいと思います。

まずはマブチモーター。儲かりにくいといわれるモーターの領域で成長を続ける優良企業です。モーターの業界はそのモーターを組み込む製品ですが、製品を作るメーカーは自社の製品を差別化するために様々な企画を考え、その企画にあった部品を調達すべく、モーターの会社に自分たちが欲しいモーターの仕様を伝え、それを作ってもらいます。

そのため細かい要望に答えるためにモーターメーカー各社は必死に多品種少量生産をやっていたわけなんですが、マブチモーターが下した決断は、そっちに行ったら死んでしまう、自分たちのやる領域を絞り、柔軟なカスタマイズは行わず標準化し、そこに合わないお客さんの要望は断る、というものでした。

具体的には小型モーターへ特化し、モーターを標準化することで、大量生産で規模の経済を効かせ、在庫リスクを下げ、恒常的にコストを下げる体制を構築することで長期利益を確保する仕組みを作り上げています。

NOTEネタ

それ以外にも営業体制や生産ラインの組み方、海外への工場移転など、すべてはコストをいかに下げるか、というところにすべての施策の矢印が向いている、というのが大事な点で、各施策の総合力の結集・結晶が利益に繋がっていて、そのデザインを意図的にやっているというのが大事な点です。

サラリーマン社長だと営業部門、開発部門、製造部門、マーケ部門など各部門長に戦略を丸投げして出てきたのをがっちゃんこ、というのがありそうなパターンですが、その前にまず社長なのか経営企画なのかがこの長期利益をあげるためのストーリーをきちんと詰める、そのストーリーに基づき各部門の打ち手が有機的につながる、というのが大事だと教授は教えてくれます。

ガリバーのストーリー

だいぶ文字数が増えてきたのでこっちは簡単に済ましますが、中古車のガリバーの戦略ストーリーについてもご紹介しておきます。

複雑そうに見えますが、キモは査定方法を本部一括で効率化する、というところでその査定システムと展示場をもたないという構造上の優位性です。
その優位性をもとに積極的なマス広告とFC展開で一気に買取台数を増やし規模の経済性を確保しながら低コスト構造を作り上げていくというストーリーが見えますね。

NOTEネタ

ガリバーが提供した価値について記載のあるサイトがあったので抜粋します。これまで不明瞭だった中古車の査定基準を明確にし、システム化できた点が重要なキラーパス(教授が勝つために重要な打ち手について語る時の表現)であったことがわかります。

ガリバーインターナショナルのターゲット顧客は、中古車のオーナーである。買い取り価格の査定基準を全面的に開示し、価格の透明性と信頼を強調したブランド戦略、高価格買い取りによって、安心・信頼して高値で売却できるという価値を提供することで、これまで中古車屋に売却せず新車ディーラーに下取りに出していたような個人も顧客に取り込んだ。価格の透明性と信頼は、中古車の販売サイドでも徹底されており、修理履歴を含め車両情報が開示される。その結果、'98年の販売開始時より累計で約15万台が一般顧客に販売されている。

まとめ・気づき

・経営は8割は経営者の嗅覚がモノを言うけもの道。しかし、2割の部分については優れたストーリーの論理を知ることで経営の精度を上げることができる

・参考書籍としてミスミの経営者三枝匡さん、日本電産の永守重信さん、伊藤忠商事の丹羽宇一郎さん、ファーストリテイリングの柳井正さん、ハロルド・ジェニーンさんの「プロフェッショナル・マネージャー」はどこかで読んでみようかな

・打ち手がどう有機的に繋がり、最終的にコスト優位か価値創造につながるか、というシンプルな図解は自分の頭の整理のためにもいいし、チームに企業成長のストーリーを理解してもらうのにも有益そう

・必ず競争相手がいる前提なので、どう真似をできない状況を作れるか、というのが一番難しく、戦略的には面白いところになる

日報

備忘録として。

・午後まで会社概要の資料づくり
・PMと今後のプロジェクト進め方・役割分担協議(6PM)

PMとの雑談でイギリスはスペインへの渡航が解放になったらしく、スペイン行きに予約が殺到しているとか。みんな溜まってるよね。

ということで、本日のお話は以上です。

明日は、EC・ロジスティクスの水曜日。オーストラリアチームからシェアしてもらったオーストラリアポストのホワイトペーパーをもとに米英中のEC市場動向を見てみたいと思います。 

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それでは今日もよい一日を。

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