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【読んだ本】玩具修理者/小林泰三

この作品は、1996年に刊行された短編集のホラー小説だ。
表題作の『玩具修理者』と『酔歩する男』の2作が収録されている。

『玩具修理者』はコミカライズや映画化、舞台化もされているらしい。
でも内容がかなりグロテスクで表現が難しい作品なので、個人的には文章で読んだほうがおすすめ。文章だからこそ想像することによって温度や感触、臭いが伝わって不快感が増す。
ツイートでは子供の無知が招くグロテスクさについて書いたけれど、この作品の軸はたぶんそこではない。
作中の女性と道雄の終盤の問答のとおり、この作品は生命という曖昧さをこちらに問うている。
猫は生きている。猫のぬいぐるみは生きていない。草木は生きている。えんぴつは生きていない。人間は生きている。ロボットは生きていない。
じゃあ、ようぐそうとほうとふ(玩具修理者の呼び名のひとつ)に修理されたあれらは?無生物と生物の違いとは?

この作品を読んでいて頭に浮かぶのは『テセウスの船』だ。
いろんな作品でも取り扱われているので知っている人も多いと思うけれど、あえてものすごく砕いて言えば「たとえば、船の部品をどんどん交換して、すっかり全部置き換えられてもその船そのものだと呼べるか」というような思考問題のことである。

そして、この思考問題はこの本のもうひとつの作品、『酔歩する男』にも繋がってくる。
わたしが最初読んだときは気づかなかったけれど、友人がこんな考察記事を書いてくれていた。

読み終わってから化学魔氏のこのnoteを知って、身近にこんなしっかり考察記事を書いてくれている人がいたなんて!と考察大好き人間は喜んだ。


内容についてここで深堀してしまうと氏の記事の価値を損ねてしまうのでそこは別途読んでもらうとして、ともかく、グロテスクホラーとサイエンスホラーという異なる作品の根底に、テセウスの船というひとつのテーマが埋め込まれていることが分かって、なるほどだからこの2作を一冊にまとめたのか、とわたしはとても納得した。


正直に評価するとあまり趣味のいい本とは言えないけれど、とても面白い本には違いないので、思考実験が好きでホラーに耐性のある人はぜひ読んでほしい。

↑アフィリエイトじゃないよ。

なお、ホラーだが幽霊は一切出てこない。むしろこれらの恐怖体験の責任を幽霊に押し付けられたらどんなにか気が楽か……となる。
いいね、現実を侵食するホラー。

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