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もう、愛のない時間は1秒だって過ごさないと誓うこと〜『私の生活改善運動』

2023年3月25日(土)🌒3.4 ☔️5:39-17:56
24:春分  72:雀始巣(すずめはじめてすくう

昼のほうが長くなった。
我が家は春分の日が結婚記念日。SNSを見ていると、同じ人がけっこう多いようだ。
花散らしの雨は毎年うまいこと降る。もしこの週末が好天だったら、あっちこっちどれほど浮き足立っていたのだろうと思うと、個人的にはありがたく感じている。(花見を計画していた人はごめんね)

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『私の生活改善運動』安達茉莉子著 三輪舎

再生の物語だと思った。

断捨離やミニマリストの本をきちんと読んだことはないが、たぶんそういった類の本とはまるで違った。

多忙な日々のなか、壊れた家具を片付ける気力が湧かないまま数か月過ごす。
レタスを食物繊維と呼び、鶏肉をタンパク質と呼ぶ。
服の選定基準はわずかに世に存在する「入る服かつ買える服」。

別にそのまま暮らしたって死ぬことはない。それどころか、ほとんどの人が多かれ少なかれ持ったまま生きている、自分への愛のなさ。それらにひとつひとつ気づき、選択し、心を回復させてゆく物語だった。
部屋に置くものだけではない。食べるもの、着るもの、暮らす場所、そこから生まれる人との交流までもすべてを、愛のあるほうを選ぶことで、尊厳を取り戻してゆく。かつて誰かからの言葉で深く傷ついた心までも癒していく。

特に壮絶な状況から立ち直る話ではないが、おそらく彼女の回復の過程は、大きく心身に傷を負いながら生きる人にとっても、とても有効で説得力を持つものだと思う。

仕事に追われ、急いで雑になってしまいそうな最中にも、『モモ』の掃除夫ベッポの姿を思い出し、「もう、愛のない環境には1秒だっていられない」と誓い、環境を整え、今できることに集中していく。これはまさに実践的なマインドフルネスなのだと思った。愛のない時間を1秒だって過ごさない。そう生きることを自分に許可していい。

そして、シンプルに文章がめっちゃくちゃ上手いです。おそらく分厚い教養に支えられた、痒いところに手が届く抜群の心理描写力よ。凄い。


インスタでタイトルのハッシュタグを辿ったところ、本一冊の物撮りにみなさん凝っていて、丁寧な暮らししているなあ…と思う。これはそういう本とは違うがそういう層に響いたのだろう

個人的には、安達さんの金銭感覚と、「忙しさ」にとても親近感が湧いた。買い替えた姿見は1万円程度。服もニットとボトム合わせて3万円程度。家賃なみの服はスルーしてストールに1万円程度。
数十万する家具や10万円近いミナペルホネンの服を買って気持ちが引き締まるのもありだけれど、それではおいそれと気軽に真似できない。
時間がたっぷりある人にしかできない心の洗濯の話でもない。
作家活動とアルバイト(!)で忙しい日々の合間に、いかに自分の時間を愛するか、その格闘や葛藤が克明に描かれていて、たぶんだれでも共感が持てる。

唯一、私にとっては「でも一人暮らしだから自由にできていいよなあ」というため息ポイントがあるが、複数人が暮らす生活においては、変化を起こすために人数分のパワーが必要だというのは仕方のないことで、しんどいが心を砕くべきことなのかもしれない。





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