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パリスの審判:1. 絵画「パリスの審判」

ヨーロッパの美術館巡りをしていて、美女3人のヌードということで目についたのが、「パリスの審判」(Judgement of Paris)というタイトルの絵画です。
Parisというのは、フランスの首都パリの英語の名称ですよね。それなのに、美女3人のヌードとそれに不釣り合いな男二人が向き合うという構図、それがフランスの首都パリでの審判って何だろうと疑問に思いながら眺めていました。

フランスの首都パリという以外にも、パリスという名前には、何となく聞き覚えがあるのではないでしょうか。スパルタの王妃ヘレネを誘拐したことでトロイア戦争の原因を作ったトロイアの王子です。

そのパリスつまりトロイアの王子パリスと、パリスの審判という絵画で描かれている羊飼いのパリスとが、どうしても結びつきませんでした。私自身が無知なのですが、そもそもパリスの審判って何、というのもありました。

ルーベンス『パリスの審判』

パリスの審判についてのオーソドックスな絵画と言えば、やはり17世紀の画家ルーベンスの作品だと思います。彼は、パリスの審判という主題が好きだったらしく構図を変えて何枚も描いています。
下に掲載している絵画は、英国ロンドンのナショナルギャラリーに所蔵されている作品です。

ルーベンス「パリスの審判」(1632-35年頃)

ルーベンス「パリスの審判」の登場人物を見ていきます。

主題を聖書や神話にとっている場合には、それが一体誰をあるいは何を表現しているのかを明確にするために、お約束のもの(アトリビュートというそうです)が描かれています。

画面右端の男性の足元に牧羊犬がいますから、彼が羊飼いのパリスです。黄金の林檎りんごを誰かに手渡そうとしています。

パリスの後隣に描かれているつばのある帽子(キャップではなくハット)をかぶり、赤いマントを羽織っているのが、ヘルメスです。いつも最高神ゼウスの使い走りをやらされています。
今回も、ゼウスに命じられて、この3人の美女を、イダ山で羊飼いをしていたパリスの元に案内してきたという訳です。

三美神

女性陣は、画面左半分に描かれています。
何気なく「この3人」と書きましたが、この女性陣は女神です。人ではありません。よって、3人ではなくて3はしらですね。

3柱の女神、慣用に従い「三美神さんびしん」と書きますが、それぞれが錚々そうそうたる女神です。まさにビックネームです。美と愛の女神アフロディーテ、最高神ゼウスの妻ヘラ、そして、戦争と知恵の女神アテナです。

画面の一番左の正面を向いている女神の足元には、メデューサ(ゴルゴン)という蛇の頭髪とぎらつく眼をもつ怪物が描かれた楯とかぶとがあるので、女神アテナです。
三美神の中央の女神の真後ろにはキューピッドが描かれているので、彼女は女神アフロディーテ(ローマ神話のヴィーナス)です。
画面中央の後ろ姿が描かれている女神の足元には孔雀くじゃくが描かれています。よって、彼女は、最高神ゼウスの妻ヘラです。

なぜ「パリスの審判」という主題が人気があったのか

パリスの審判というのは、近代の画家にとって人気のテーマであり、たくさんの画家が手掛けています。19世紀の印象派の画家ルノアールさえも描いています。

なぜでしょうか。

その背景にあったのは、キリスト教の影響力が依然として強かったということです。普通の人の裸体を描くこと、つまり、裸体を裸体として描くというが宗教的に禁じられていたのです。

ヌードを描くには、聖書や神話を主題に選ぶ必要がありました。聖書や神話が題材であれば、ある意味自由に裸を描けたからです。
つまり、ルネサンス以降の画家が、宗教画の神話の世界を主題として選んだのは、その世界を表現したかったからではなく、特に裸体が描かれている場合には、ヌードを描きたいからそのテーマを選んだというのが、実情のようです。
もちろんミケランジェロのように、純粋な宗教画としてローマ法王から発注されたのに、自分の好みで裸体を描きまくったという例もあります。

「パリスの審判」とは何か

「パリスの審判」というたいそうな訳、英語ではjudgementなので訳として間違いではないのでしょうが、どうしても、ミケランジェロの「最後の審判」を連想してしまいます。
一体全体、羊飼いのパリスが、女神相手に何を審判しているんだろうと訝|《いぶか》しく思っていました。

ギリシア神話によれば、パリスは、イダ山という都市国家トロイアの近くの山で羊飼いをして暮らしていました。
そんなある日の出来事です。
イダの山中の木の根っこに腰掛けて休憩していたところ、突然、ヘルメスに案内された三美神が現れたのです。もちろん普通に考えたらとてもありえないことです。神話の世界だから可能なことです。ギリシア神話では、神と人間が出会って交流し、次の投稿で紹介しますが、結婚さえもしているのです。

突然現れたヘルメスは、羊飼いのパリスに、黄金の林檎を手渡します。それには、「最も美しい方へ」へと記されていました。ヘルメスが案内してきた三美神のうちの一番美しい女神を選び、その黄金の林檎を手渡す役割がパリスに押し付けられたのです。

何の前触れもなく突如現れて、それもフルヌード(絵画ではそう表現されています)で、「誰が一番きれい」なんて言われても困りますよね。私なら、「全員きれいです」と言って逃げます。

つまり、パリスに求められた役割は、3柱の女神のうちの誰が一番美しいかを判断する、ジャッジ(judge)することでした。だから、パリスの審判(Judgement of Paris)なのです。

終わりに

ルーベンスの絵画「パリスの審判」を題材にしながら、パリスの審判とは何かについて見てきました。
次の投稿では、そもそもなぜ三美神が美貌を巡って争うような事態が生じたのか、そして、なぜパリスが審判せざるを得なかったのかなどについて明らかにしていきたいと思います。

最後までつきあっていただきありがとうございました。
次の投稿もよろしお願いします。

参考文献


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