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ホンを求めて

 「若者の〇〇離れ」という言葉を耳にすることがあります。〇〇にはお酒、タバコ、活字、選挙などが入りますが、こういった〇〇離れは時代や価値観の変化によりいつの時代も生じる事柄だそうです。3月5日のインターネットニュースで経済産業省が消えゆく街中の本屋を支援するという記事を発見しました。全国の書店は書籍のデジタル化や後継者離れに伴い減少し、日本出版インフラセンターの調べによると、平成16年に全国で1万9920店あった書店が、今年2月には1万960店まで減少しているとのことです。また、出版文化産業振興財団の調査によれば、全国の1741市区町村のうち、約4分の1に当たる456市町村では書店が全くない「空白地帯」の状態となっています。それを受けて、経済産業省は町の書店を「文化創造に間接的につながる産業の基盤」と位置づけてプロジェクトチームを編成。今後、書店の現状やキャッシュレス決済の導入状況を聴くほか、中小企業の事業承継に向けた補助金についての使い勝手などを調べるとしています。書店の減少から見られるように活字離れは進んでいるのかを検証しながら読書について考えてみたいと思います。

子どもの読書活動の推進に関する法律

 平成13年に制定された子どもの読書活動の推進に関する法律では「子どもの読書活動は、子どもが、言葉を学び、感性を磨き、表現力を高め、想像力を豊かなものにし、人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものとして、すべての子どもがあらゆる機会とあらゆる場所において自主的に読書活動を行うことができるよう、積極的にそのための環境の整備が推進されなければならない」とされています。政府は、施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画を策定しなければならず、都道府県や市町村も「都道府県子ども読書活動推進計画」「市町村子ども読書活動推進計画」を策定するよう努めなければならないとされています。また、4月23日を「子ども読書の日」として国民の間に広く子どもの読書活動についての関心と理解を深め、子どもが積極的に読書活動を行う意欲を高めるとしています。それにより、小学生の読書数は平成12年に月平均6.1冊程度であったのが、平成28年には月平均11.2冊と読書数が倍増しています。

出版業界の売り上げ

 出版業界の売り上げは平成8年をピークに減少し続けています。特に雑誌市場は、少子高齢化に加え、インターネットやスマートフォンの普及などから、需要が激減し売り上げが加速度的に減少。平成28年には書籍と雑誌の売り上げが逆転することになりました。書籍市場は雑誌に比べれば減少率は抑えられているものの、読者は高齢者にシフトしつつメガヒットも出づらくなっています。また、学習参考書や児童書など教育系分野の需要は比較的底堅く推移している。書籍や雑誌の売り上げが減少をしているなか、電子書籍の市場は大きく拡大し、なかでも電子コミックの成長が著しく、新型コロナウイルス感染拡大に伴う巣ごもり需要の拡大も後押しして、出版市場全体における電子書籍のシェアは雑誌を上回り拡大傾向にあります。

おわりに

 自治体が行った公共施設の利用頻度調査によると、図書館をよく利用する、ときどき利用すると答えた人の割合は30%に上り、その他の、市役所(20%)公民館(17%)スポーツ施設(15%)を上回る結果となり最も利用される公共施設となっています。また年齢層においても20歳未満は52%、40歳代37%となり、同調査の公民館利用の年齢層70歳代32%、80歳以上22%に比べると比較的若い世代が利用していることがわかります。また、最近の図書館はカフェやフリースペースを併設しているところもあり多くの市民が集う公共施設となっています。出版業界からみると活字離れかもしれませんが、電子書籍や図書館などを利用する若者は比較的多く、時代に沿った変化をしながら活字に親しんできているのだと考えることができます。「ホンを求めて」という星新一の作品があります。主人公のボギが「ホン」というものを知らず「ホン」を探す、という昨今の書籍減少を予言したような作品です。その中においてボギの父親はホンについて「いろいろなものが詰まっていて、心をときめかせ、想像を斯き立て、意欲を燃え立たせてもくれるという」と言っています。紙の媒体から変わりつつあるホンですが読書をすることによって心をときめかせ、想像を斯き立てて、意欲を燃え立たせてくれるものであることは変わりないようです。

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