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疲労回復と年齢:歳をとると疲れやすい?そうでもない?

歳を取ると一般的には疲れやすくなると言われます。僕も40歳を過ぎたあたりから、徹夜ができなくなりました。怪我も若い頃に比べると治りが悪いです。

成長ホルモンの年齢による変化

疲労や怪我の回復を促す体内の物質に成長ホルモンがあります。成長ホルモンとは、脳の下垂体から分泌される化学物質です。子供の頃には、身長を伸ばすなど、名前の通り身体の成長を担います。また、生涯を通じて(つまり大人になっても)重要な働きがあります。それは代謝を支える働きです。代謝とは体にある物質をエネルギーとして使えるよう変えたり、古くなったり痛めた組織を修復する機能です。この代謝が疲労や怪我からの回復を支えます

成長ホルモンがたくさん出ていると代謝も促され、食べたものもすぐエネルギーに変わります。疲れが取れるのも早いです。怪我をしても修復がすぐなされるので、回復も早いです。若者が元気なのもうなづけますね。

成長ホルモンは、思春期に分泌が爆発的に増加し、30代以降は徐々に減っていきます(代表的な例として、Juul et al., 1994)。その変化を下の図に示しました。

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この図はJuulたちの結果をもとに作り直したので、少し不正確ですが、思春期で爆発的に増加することがわかると思います。この爆発的増加を見ると、思春期の成長ホルモンの増加が一生の中で異常な状態であるとわかります。身長もやたらと伸びますし、体の化学的組成からしておかしいんですね。この時期と比べておじさん、おばさんが疲れやすいのは当然です。怪我だって治りにくいです。

上の図からわかるポジティブなこともあります。30歳以降の減少が緩やかなことです。成長ホルモンの分泌は10年で10-20%ほど減ります。30代以降、太りやすくなったり、疲れやすくなったりするのは、思春期のような爆発的な成長ホルモンの分泌がなくなることが一因です(もちろん生活習慣の変化なども関係します)。ただ、減少は緩やかなので、気をつけて対処すれば上手くやり過ごすことができます

トレーニングからの回復の世代差

実際、ウエートトレーニングにおける疲労回復について20代の若者と40代後半のおじさんを比べると、疲労からの回復はあまり変わりません

Gordonたちは、レッグ・エクステンションをトレーニング種目に選び、普段から週2,3時間の運動をしている若者(平均21.8歳)とおじさん(平均47.0歳)の疲労やその回復を調べました。レッグ・エクステンションの最大値を測定したところ、当然ですが若者の方が、おじさんに比べ、パフォーマンスが全般的に良いことがわかりました(強い力が出せました)。この最大値の測定で参加者は疲れ切ります。そのあとで、疲労と回復の度合いを測定しました。

直後から48時間後まで、疲労の度合いを測定すると、若者もおじさんも、だいたい同じように疲労から回復することがわかりました。まず、レッグ・エクステンションの最大値(全力値)の回復の程度ですが、直後、24時間後、48時間後のどこで比較しても若者とおじさんで統計的に意味のある差はありませんでした(ただし、最初の測定をベースラインにして補正をしました)。48時間後にはどちらもベースラインの1割減くらいまで最大値(全力値)が回復していました。同じようなペースで強い力が出せるよう元に戻っていったわけです。

また、疲れや筋肉痛について尋ねてみても、その度合いは若者とおじさんで変わりませんでした。

さらに、血液を採って回復や疲労の度合いを調べました。筋肉中の酸素の代謝に必要となるミオグロビン、筋肉にエネルギーを貯めるときに働く酵素クレアチンキナーゼ、組織の炎症・外傷などが原因で上昇する反応性タンパク質濃度などなどを調べました。これらには全くと言って良いくらい若者とおじさんに差がありませんでした。ほとんどどれも似たような感じだったので、クレアチンキナーゼの結果を下に示しておきます。

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もちろん研究によっては、おじさんの方がパフォーマンスの回復が遅かったり、筋肉の脱酸化の程度が大きかったりすることを示す結果もあります(Fernandes et al., 2019)。ただし、差があったとしても小さなもので、疲れや筋肉痛の感じ方に差はありませんでした。なお、このFernandesたちが行った研究では普段トレーニングをしないおじさんとも比較をしたのですが、このグループとはどの比較でも大きな差が出ていました。日頃のトレーニングの大切さがわかる結果です。

トレーニングをしているおじさんでは、回復に若者とそこまでの差はありません。もっとも若者と同等のトレーニング強度ではないので、回復が変わらなかったとも言えます(おじさんの方が楽してた)。成長ホルモンの分泌もだいぶ違いますから、さすがに違いはあります。とは言え、トレーニングをしていれば、そこそこの回復力をキープできるようです。これをお読みのおじさん、おばさんの皆様、お互いコツコツがんばってまいりましょう。

引用文献

 ・Fernandes, J. F., Lamb, K. L., & Twist, C. (2019). Exercise-induced muscle damage and recovery in young and middle-aged males with different resistance training experience. Sports, 7(6), 132.

・Gordon, J.A. III, Hoffman, J. R., Arroyo, E., Varanoske, A.N., Coker, N.A., Gepner, Y., Wells, A.J., Stout, J.R., & Fukuda, D.H. (2017). Comparisons in the Recovery Response From Resistance Exercise Between Young and Middle-Aged Men, Journal of Strength and Conditioning Research, 31, 3454-3462

・Juul, A., Bang, P., Hertel, N. T., Main, K., Dalgaard, P., Jørgensen, K., Müller, J., Hall, K., & Skakkebaek, N. E. (1994). Serum insulin-like growth factor-I in 1030 healthy children, adolescents, and adults: relation to age, sex, stage of puberty, testicular size, and body mass index. The Journal of clinical endocrinology and metabolism, 78(3), 744–752.

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