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アスリートは病気になりやすいのか?

スポーツをすると健康になります。気分がスッキリして精神的に健康になります。習慣的に行えば体重も減り、生活習慣病の予防になります。また、適度な運動は免疫機能を高めることが知られています。ただし、この適度というのが厄介です

運動と免疫の関係

免疫システムは、ウイルスや細菌などから身体を守る働きをしています。適度な運動によって免疫システムの機能が高まり、病気にかかりにくくなることが知られています。ただし、運動をすればするほど良いというわけではありません。

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上の図はNieman(1999)が運動と感染リスクの関係を模式的に示したものです。過ぎたるは及ばざるが如しどころではなく、運動しすぎは、しないより悪いんですね。はっきり言うと、過度な運動をすると病気にかえって罹りやすくなります

マラソンランナーは病気になりやすい

ロサンゼルスマラソンに参加した2311人を対象に行なった研究を紹介しましょう (Nieman et al., 1990)。毎週97 km以上走るエリートランナーと32 km以下の普通のランナーを比較しました。その結果、大会の前2ヶ月間に風邪など感染症にかかるリスクはエリートランナーで2倍も高かったことがわかりました(オッズ比が2倍)。研究によっては6倍というものもありました。水泳選手や自転車競技の選手でも同様の結果が得られています。

試合の後がたいへん

さらにマラソンの試合の前後を比較したところ、1829人のランナーは試合1週間前まったく健康だったのに、その12%は試合の後で風邪などを引いてしまいました。なお、試合前の1週間健康だったが試合に参加できなかった134人では、そのうちの2.2%しか風邪などを引きませんでした(Nieman et al., 1990)。ラットやマウスの研究でも激しい運動の後には、感染症にかかりやすいことが示されています。なにごともやり過ぎはよくないですね。

とはいえ

柔術をはじめるとハマってしまい、毎週97kmを走るランナーと同じくらいの強度で練習をしてしまうひとも多いでしょう。毎週97kmと言っても毎日走れば13 kmくらいです。1時間くらいで走れる距離ではあります。毎日このくらい走って、さらに週7で柔術のクラスに出るひともいるでしょう。そういう人の顔が何人か浮かびます。

運動は楽しいのでたくさんやってしまう気持ちは良くわかります。その場合は、どうぞ万全の感染症対策をとってください。いっぱい運動するひとは実は感染症の高リスク群なのですという話でした。

引用文献

Nieman, D.C. (1999). Exercise Testing and Prescription: A Health-Related Approach (4thed.). Mountain View, CA: Mayfield.

Nieman, D.C., Johanssen, L.M., Lee, J.W., & Arabatzis, K. (1990). Infectious episodes in runners before and after the Los Angeles Marathon. Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 30, 316–328.

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