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柔道の試合時間:ゴールデンスコアでどれだけ延びる?

現在、2022年柔道世界選手権タシケント大会が開催中です(2022年10月6日–13日)。ルールの変更もあり、最近は寝技の展開を審判が長く見るようになったので、寝技好きとして観ていてとても楽しいです。

寝技とゴールデンスコア

寝技の展開を見るようになった理由の一つに、時間無制限のゴールデンスコア方式を導入したことがあるそうです。時間無制限のゴールデンスコア方式とは、一本か技ありを取る、あるいは反則負けになるまで試合が続く方式です。なかなか勝負がつかないと、試合時間は果てしなく延びてしまうため、ポイントが入りやすくなるルール変更がなされ、寝技も認められるようになりました(他にも理由はあるそうですが)。ともあれ、寝技で抑え込んで技ありが入るまでの時間も短くなり、寝技で勝敗が決まる試合が10年前に比べると増えています。

制限時間なしゴールデンスコアの導入

かつてはゴールデンスコア方式も時間無制限ではなく、5分や3分などの制限時間がありました。時間無制限のゴールデンスコアは2013年から試験的に、そして2014年から正式に導入されました。Cadetたちは、ゴールデンスコア方式変更前のロンドンと変更後リオのオリンピックにおける柔道の試合を比較してその影響を調べました(Calmet et al., 2017)。分析の結果、ルール変更後もゴールデンスコアになる試合は全体のせいぜい2-7%で、ほとんどの試合は制限時間内に収まるため、全体としてはあまり影響がないようでした(Cadet et al., 2017)。

最近の傾向

ただし、2021年に開催された東京オリンピックでは実に34%もの試合がゴールデンスコアとなっていました(Kons et al., 2022, 注1)。さらに決勝戦の50%はゴールデンスコアとなっており、かなりの高確率です。また、体重が重いとゴールデンスコアに入りづらいこともわかりました。例えば、最重量級(男子なら100 kg超級)だと14%、ちなみに中程度の階級(男子なら73kg以下)では59%でした。かなりの違いですね。このようにゴールデンスコアが増えたことは、ルールと戦略の分析が進んだ結果だと解釈されています。

試合時間は平均すると延びてない

なお、実際の試合時間が延びたかわけではありません。リオ・オリンピックと東京オリンピックを比べると、平均の試合時間はむしろ東京オリンピックで短くなっているのです。リオでは 240.3 秒、東京では206.9秒と4分という柔道の標準試合時間を考えると、かなり短くなりました(Barreto et al., 2022)。

時間無制限と聞くと何十分も続く印象を持ってしまいますが、ゴールデンスコアに入ってからの時間は、リオで 77.6秒、東京で95.1秒だったそうです(Barreto et al., 2022)。もちろん東京オリンピックでも女子70kg以下級の準決勝、新井千鶴・マディナ・タイマゾワ戦ではゴールデンスコアで12分41秒も戦ったケースもありますが、あくまでも例外的です。

とはいえ、時間制限がないとこんなにも長くなることもあるんですよね。選手としては大変です。

引用文献

・Barreto, L. B. M., Aedo-Muñoz, E. A., Soto, D. A. S., Miarka, B., & Brito, C. J. (2022). Has there been a change between combat time in male judo? Analysis of the top 20 athletes by weight division between the 2016-20 Olympic cycles. International Journal of Performance Analysis in Sport, 1-17.
・Calmet, M., Pierantozzi, E., Sterkowicz, S., Challis, B., & Franchini, E. (2017). Rule change and Olympic judo scores, penalties and match duration. International Journal of Performance Analysis in Sport, 17(4), 458-465.
・Kons, R. L., Agostinho, M. F., Lopes-Silva, J. P., Dos Santos, D. F. C., Detanico, D., & Franchini, E. (2022). More time for judo matches? Analysis of type of techniques, time, scores, and penalties in the Tokyo 2020 Olympic Games. Frontiers in Sports and Active Living, 4.

注1)同じ分析をしたBarreto et al. (2022)だと若干低くなっています。

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