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ブラジリアン柔術で病院に行く一番の理由は?:アメリカのデータから

ブラジリアン柔術は怪我の少ない格闘技だと言われますが、格闘技なので怪我を完全に避けることは難しい。突き指や擦り傷などは頻繁に経験します。とはいえ、病院に行くような怪我はあまりしません

どれくらい怪我をする?

McDonaldたちは、アメリカにある168の道場に電子メールで質問を送り、普段の練習で過去1年間に怪我をどれくらいしたか、道場に所属する選手に回答をしてもらいました(McDonald et al., 2017)。この結果について以前の記事で紹介しました。

で、およそ90%の人(つまりほぼ全員)が1年のうちに何らかの怪我をしていました。手足や指先が怪我をしやすいようでした。ただし、怪我のうち病院に行くようなレベルのものは全体の4割でした。

病院に行く一番の理由は?

では、病院に行くレベルの怪我で一番多いのはなんでしょうか?実は皮膚感染症(20.65%)なのです。通称、マット菌と呼ばれる白癬菌の一種、トンズランス菌に感染するのが、病院に行く理由として一番多いとのことでした。白癬菌だから水虫です。とにかく痒いやつです。なんで皮膚感染症が病院に行く理由で一番多いのでしょう?それは薬で必ず治るからです。治療法が確立しているのはありがたいことですね。

ちなみにぶつけた、捻ったという怪我だと、病院行っても経過観察で自然治癒を待つことが多いです。せいぜい湿布や痛み止めをもらうくらいで、結局は様子を見るだけが多い。なので、軽い怪我だと行かなくなります。あと、McDonaldのデータについては、アメリカだと医療体制が日本と違うため、彼らがそもそもあまり病院には行かないというのもあります。

トンズランス菌って何?

トンズランス菌はかなり強力かつ感染力が高いのが特徴です。ヨーロッパ由来で、2000年あたりから日本で確認されるようになり、最近では感染について周りでも聞きます。簡単にうつるわりには、免疫はつかないので、繰り返し感染します。柔道部やレスリング部で感染がよく報告されるそうですが、全員をちゃんと検査して、治療をしないと、いつまでも感染が収まらないそうです。

英語ではringworm、直訳すると輪っか虫と呼びます。患部がリング、つまり、輪っかのような形をしているため、そのように呼ばれます。最初は、1–2センチの虫刺されやかぶれのようなものができ、真ん中が先に治って、輪っかのような形になります。

詳しくはこちらを。患部の写真をみると輪っか虫と呼ばれる理由がわかると思います。


予防と対処

感染力が強いと言っても水虫の一種なので、身体に付着してもきちんと石鹸で洗い流せば落とせます。感染することもありません。長く放置すると良くないようなので、練習後は早目にシャワーを浴びましょう。練習中も長袖のラッシュガードとロングスパッツを身につけた方が良いそうです。

感染した場合は病院に行きましょう。水虫の一種なんで、基本的には塗り薬と抗生物質で治ります。放っておいたら治りません。簡単に感染するので、練習仲間にはできるだけ早く連絡し、検査を受けてもらいましょう。症状が出ない、少し出て消えてしまう人がいて、感染が繰り返されるケースもあります。注意が必要です。

なお、診察のとき、医者に状況を説明しないとトンズランス菌だとわかりません。格闘技をやっているとか、周囲にトンズランス菌に感染した人がいるとかいう情報は必ず伝えましょう。普通の生活で感染することは稀なので、格闘技をやっていると言わないと診断名の候補に出てこないそうです。患部の形状だけから判断されてステロイドを処方されると抜群に悪化します。多くの肌荒れや痒みにステロイドは効果的ですが菌にはダメなんですね。

私も前にトンズランス菌に感染したことがあります。患部の形が変だったので調べたらトンズランス菌に感染と診断されました。トンズランス菌を特定するには検査に時間かかるのですが、白癬菌かどうかは顕微鏡ですぐにわかります。水虫の一種だとわかって、なんか嫌な気分でしたが、塗り薬と抗生物質で1ヶ月くらいで治りました。なお、その間は練習できません。練習仲間にうつさないためです。家族にもうつるかもしれないので、しっかり周りにも説明することも必要です。薬を塗って、体を清潔に保ち、タオルや衣類を共有しない、使ったらすぐ洗うというのを徹底すれば家族にうつすことはありません。薬は医師にもう良いと言われるまで塗りましょう。かゆみや表面に現れる腫れ・赤みなどの症状はすぐになくなるのですが、皮膚の深部に菌が残るので皮膚が入れ替わるまでの1ヶ月間は最低でも薬を塗り続ける必要があります。

引用文献

・McDonald, A. R., Murdock, F. A., McDonald, J. A., & Wolf, C. J. (2017). Prevalence of injuries during Brazilian jiu-jitsu training. Sports, 5(2), 39.

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