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格闘技における急激な減量:筋肉組織とパフォーマンスへの悪影響

格闘技は体重別で試合が行われることが多いです。柔道、レスリング、ブラジリアン柔術のような組み技も、ボクシング、キックボクシング、空手のような打撃系も試合は体重別です。こういった体重別の競技ではしばしば減量が行われます。

急激な減量とは?

急激な減量とは、1週間以内で体重の5%以上を減らすものを指します。前日計量が行われる競技では、体内から水分を急速に抜く形式で行われることもあり、健康に有害です。見た目もけっこう痛々しいですよね。UFCでのウエイト・インにおけるユリア・ストリアレンコ選手の失神は記憶に新しいかもしれません(閲覧注意)。

ストリアレンコ選手は日本に1–2年滞在していたことがあり、その頃、柔術のトレーニングを私の所属するVISCAでしていました(元々の所属はRoger Gracie)。当時も試合前は水抜きで調整をしていて、なかなかキツそうでした。

筋肉組織への影響は?

Roklicerたちは、柔道の選手を対象に急激な減量が筋肉組織に与える悪影響を調べました(Roklicer et al., 2020)。1週間、通常のトレーニングを行い、最後の3日間で急激な減量を行いました。3日でおよそ5%体重を落とすもので、サウナ、トレーニングスーツ、水断ち、塩抜きなど典型的な水抜きでの減量でした。

1週間毎日、筋肉が働くために酸素を蓄える役割を担うミオグロビンや筋肉のエネルギー代謝で役割をになるクレアチンキナーゼなどを測定しました。例えば、ミオグロビンは筋肉を赤い色にしている色素で、筋肉に多く含まれてます。

クレアチンキナーゼに急激な減量の与える効果(Roklicer et al., 2020に基づき作図)

上にクレアチンキナーゼの測定結果を載せました。赤い線が通常範囲(39–308 U/L)の上限なのですが、減量を始めた次の日から急激に増加し、著しい悪化を示しました。ミオグロビンやその他の指標も同様の結果でした。急激な減量によって、筋肉の組織に著しい悪化が生じていたことがわかります。

パフォーマンスは?

パフォーマンスも悪化するようです。Roklicerたちがレスリング選手を対象に行った研究では、急激な減量期間にレスリングのトレーニングを行いました(Roklicer et al., 2022)。40分間のトレーニングにおいて、非常に負荷のかかる打ち込みをインターバルを設けて4回行いました。インターバルでどのくらい心拍数が回復するかを測定したところ、減量期には回復がだいぶ遅くなっていました

格闘技の試合は、アマチュアの場合、1日開催のトーナメントで行われることが多く、回復はパフォーマンスに決定的な影響を与えます。心拍数は、酸素の供給量の指標でもあり、激しく動き続けることの指標でもあります。

筋肉組織からも、実際のパフォーマンスからも、水抜きを行うような急激な減量は、かなりの悪影響があるようです。ブラジリアン柔術の試合も再開されるようになってきました。試合の前に減量をする方も多いかと思いますが、どうぞ健康に気をつけてください。短期間での減量はパフォーマンスの面からも良くないようですから、程々が肝要かと思います。

引用文献

・Roklicer, R., Lakicevic, N., Stajer, V., Trivic, T., Bianco, A., Mani, D., ... & Drid, P. (2020). The effects of rapid weight loss on skeletal muscle in judo athletes. Journal of translational medicine, 18(1), 1-7.
・Roklicer, R., Rossi, C., Bianco, A., Štajer, V., Maksimovic, N., Manojlovic, M., ... & Drid, P. (2022). Rapid Weight Loss Coupled with Sport-Specific Training Impairs Heart Rate Recovery in Greco-Roman Wrestlers. Applied Sciences, 12(7), 3286.



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