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柔術家のベンチとスクワット:どれくらい挙げる?

ブラジリアン柔術をやっている人にウエイトトレーニングは必要かと聞くと、答えは分かれます。やるべきだと主張する人もいれば、スパーリングだけで十分と答える人もいます。実際、細くて強い人もいれば、筋骨隆々でそれほど強くない人、どちらもたくさんいます。

ひとによって違うと言えばそうなのですが、全体の傾向から見えてくるものがあるかもしれません。

メダリスト vs. 一般選手

Marinhoたちはアダルト黒帯・茶帯カテゴリーの選手を対象に、ブラジルの全国大会(brasileiro)や国際大会(例、World, PAN)のメダリストとそれ以外の一般選手の運動能力を測定し、比較しました(Marinho et al., 2016)。

対象となった選手たちの体重や身長は以下の通りです。日本人とそれほど変わりません。

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ベンチプレスとスクワット

下の表にベンチプレスとスクワットの1 RM(1回挙げられる最大重量)について平均値を示しました。メダリストと一般選手で大きな違いはありません。ベンチプレスは100 kgくらい、スクワットは90kgくらいです。

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これを体重比に直すと下の表になります。ベンチプレスだと体重の1.4倍くらい、スクワットですと1.2倍くらいです。なかなかだと思うかもしれません。しかし、これは1 RMの値です。

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通常のトレーニングで、ウエイトを1回だけ挙げることはあまりありません。筋力をつけたいなら5回、筋肉をつけたいなら10回、持久力をつけたいなら20回というように目的によって何回か繰り返して挙げ下げをします。

一般に、1RMの75%の重さで、標準の回数である10回を挙げられます (Baechle & Earle, 2008)。体重の1.4倍や1.2倍の75%は、ほぼ体重と同じ重さです(1.05倍と0.9倍)。この重量を見て、「うわ、軽!」とか「余裕!」と思ったウエイト好きの人いるかもしれません。なお、複数の論文を集めてメタ分析を行ってもおよそ同様の結果が得られました(Andreato et al., 2017)。

頑張ればいける?

少し鍛えれば、自分の体重くらいならを無理なく挙げることができます。brasileiroやWorldのメダリストでもベンチプレスやスクワットのパフォーマンスがこのくらいとは私も驚きました。

体重別競技なので、競技者全体で見ると、ウエイトトレーニングで筋肉をつけすぎる弊害が出てくるかもしれません。実際、ルースターやライトフェザーで背の高い選手はウエイトトレーニングをあまりしません。一方、ミドル以上になると、かなりやり込むのではないでしょうか。

Marinhoたちが示した結果は、ベンチプレスやスクワットについて、自分の体重を10回挙げられるくらいの筋力がトップレベルの柔術家の平均的な値であることを示しています。いわゆるビッグ3のような、ボディビル的指標で測れる筋力は、ほどほどで良いようです。メダリストと一般選手でも大きな差がないことを見ても、自分の体重を挙げるくらいの筋力が、柔術でパフォーマンスを発揮するための基本スペックなのかもしれません。

目標は自分の体重

体重分を挙げるくらいなら少しやると十分に達成できます。まったくウエイトトレーニングをしたことがない人は、このくらいを目安に初めても良いのかもしれません。

柔術は特殊な動きをしますし、身体の一部分を(例えば、引くための背筋を)過度に使うので、身体のバランスを整える意味でも、ウエイトトレーニングをすると怪我や不調は減ります。そういう意味でもウエイトにはプラスの部分があるでしょう。


引用文献

・Andreato, L. V., Lara, F. J. D., Andrade, A., & Branco, B. H. M. (2017). Physical and physiological profiles of Brazilian jiu-jitsu athletes: a systematic review. Sports medicine-open, 3(1), 9.
・Baechle, T. R., & Earle, R. W. (Eds.). (2008). Essentials of strength training and conditioning. Human kinetics.
・Marinho, B. F., Andreato, L. V., Follmer, B., & Franchini, E. (2016). Comparison of body composition and physical fitness in elite and non-elite Brazilian jiu-jitsu athletes. Science & Sports, 31(3), 129-134.

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