Heaven in imitation of the sky does not exist but... [2]

2年半越しの続編です笑
全然書くつもりなかったのですが、何故か出来上がりました。


あれはいつであったか。
夏の香りに空気がのぼせ上がる少し前、「あの時」私たちは海にいた。

日本海には薄雲と灰色がよく似合う。
砂浜に向かう道の前、ゴツゴツとした岩場に足が絡んだ。
初めてお互いの手に触れたのは、そんな私を助けてくれた時であった。
暖まりきらない風が体を通り抜ける季節でも君の手はとても熱かった。
打ちつけては引いていくそんな波際で私たちは静かに歩いていた。
海を見ているようで私たちはお互いを見つめていた。
失う記憶の中であの瞬間こそ1番私たちは近くにいたんではないだろうか。
そう考えている。


寒空が逃げさった季節、温かな部屋の中で私は手以上の君に触れた。
とても近いけれど、もう君は遠かった。
広大な空を羽ばたく鳥を見つめるような気分だった。
そのまま鳥は川を挟んだ対岸の木で足を休める。
それを追う気概がなかった。
なにも言わぬまま、いつしか鳥を見つめることもなくなった。
葉が化粧を始める頃には私たちは他人になった。
とても呆気ない終わりだったけれど、私はその道を選択した。

何度か遭遇はしたけれど君とはそれきりだ。


今でも日本海を見ているとふっと君がよぎる。
思い出の引き出しがひとりでに開いてゆくのだ。
開いた引き出しからは記憶の屑が舞っていく。
星のように宙で輝きそのまま戻ることはない。
あと数ヶ月も過ぎれば、私は太平洋の海原が近い街へ行く。
そうしたら君を思い出すことはなくなるだろうか。

苦い思い出など忘れた方がいいはずだ。
でも思い出が忘却にさらされる時、私たちは幸福なのだろうか。

メルヘンの詩人立原道造はこう言った。

いつか僕は忘れるだろう。「思ひ出」という痛々しいものよりも僕は「忘却」といふやさしい慰めを手にとるだろう。僕にこの道があの道だったこと、この空があの空だったことほど今いやなことはない。そしてけふ足に触れる土地はみな僕にそれを強いた。忘れる日ばかりを待っている。

すべての出来事が遠き彼方に飛ばされるいつか。
その時に忘却は救いになるだろうか。

忘却の渦中に埋まり新たな道が続く今日、もう見えない鳥がどこかでさえずる声に耳を澄ませている。



__________________あとがき
はい!!!というわけで数年越しに続編書きました!
以前より情緒増したでしょぉ
書き起こしてると懐かしいあの時を思い出すような出さないような笑(あ、これでもフィクションという設定です笑)
結局私はどうしたって忘れて行ってしまうですよね
幸せだった記憶は早く、むしろ暗い過去だけを残して笑
数年越しというラグが生まれたことでこの物語もずいぶん結末が違ったものになりました
あの赤い空に誰かを連れて行きたかったわけですが、その希望が叶う前に私は思い出の空を後にします
でもそれでいいよな!って今日この頃考えています
流れるように生きていくから見つける景色だってあるのです

尻切れとんぼなあとがき(本編も笑)ですが、みなさんどうぞ良い夜をお過ごしください

松澤

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?