白川静考

・白川先生の本の読みやすさ

 故白川静先生は漢字学者だ。
 こと漢字関係については博覧強記の碩学だ。
 長男の出産の時に病院の売店に白川静の漢字についての文庫本がおいてあったので子供の名前を考えるのに役に立つかと思い数冊買っていた。
 その中に『中国の神話』という本があった。
 当時は全部は読まなかったが12年間ずっと印象に残っていたので今回また子供の出産があったので完読してみた。
 結局12年前の子供も今回の子供も中国古典由来の名前はつけなかったが『中国の神話』という本自体に引き込まれて現在白川静氏の別の本も読んでいる。
 『孔子伝』と『漢字』という本だ。
 最近は複数の本を同時に読む子供時代の癖が再発してきた。
 『孔子伝』は半分以上読み、『漢字』はまだ最初の方だけだ。
 その他の分野の本も同時並行で読んでいるので進みが遅い。
 ただ他に数学や経済の本も読んでいるが白川先生の本は脳が疲れている時でも頭に入る。
 文章が上手なのかもしれない。

・中国の神話と歴史と思想

 中国の面白さは神話時代、先史時代と歴史時代、文字が使われるようになったタイミングにあると思う。
 四川省の方にもまた別の文字文明があったようだがそちらの方は解読されてないようだ。
 だからここで文字とは殷周の甲骨文、金文のことだ。
 文字が使われてなかったのは先史時代、文字が使われるようになったのは歴史時代という。
 中国の神話にもいろいろあるかもしれないが文字で残されている神話は先史時代のものとそれを再構成したものだ。
 中国の面白さは殷の時代の文字時代以前に住んでいた様々な種族の神話や生活や力関係が後の文献で再構成されていく過程が分かることだ。
 元々中元には時期が同じだったり時期をずらしたりして複数の部族がいてそれぞれ神話を持っていた。時期が同時期で敵対関係にあれば相手の部族や神話や神は悪く捉えられて残されたりする。
 先史時代でもそうですらそうだったが殷・周・春秋・戦国・漢の時代になると文字が生まれそれをその王朝や部族や巫祝者の立場で記されるようになる。
 その変化の過程を『中国の神話』は分かりやすく説明する。

・儒教とは何か

 中国とは何かを考える時に1番大切なのは「儒教とは何か」を理解することではないだろうか。
 白川静の『孔子伝』は儒教は何か、ひいては儒教以外のいくつかの諸子百家の思想とは何か、それが孔子の時代以降中国にどういう影響を与えたのかを考えるのに役に立つ。
 孔子が葬送などを司る巫祝者の集団の代表者のような存在だった事は阪大の加地信行先生の本で知っていた。
 加治先生はそれを北東アジアのシャーマニズム全体の中で位置づけた。
 白川先生はそういう視点ではなく文献からいきいきと孔子とその当時の時代、文化、社会、人間とそのグループを描き出す。
 我々西洋思想を常識として持っているものには抽象性がない著しく乏しい儒教がなぜ中国の中心思想になったのかを教えてくれる。
 何となく中国とその文化、思想を受容してきてその必然性を考えてこなかった私のような者には目から鱗の著作だった。 
 

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