VRは脳をどう変えるか_

本『VRは脳をどう変えるか?』の紹介

VRの可能性を感じるすべての人に読んでほしい本です。たくさんの研究や事例を基に、数値と事実でVRの良さを紹介してくれます。

VRはこれまでと何が違うのか?

VRがこれまでの動画と一番異なる点は、優れたVRにおいて、現実で起きた出来事と変わらないという点です。

”彼はメリーランド大学テラピンズの奇襲作戦に慣れていたからだ。ホーガンは彼らの奇襲作戦をQBの視点で数え切れないほど経験していた。スタンフォード大学がシーズン開幕当初から導入した、VR練習プログラムの中で。”(P.28)

つまり提供しているモノは、体験そのものであり、その人の経験や思い出として残るということです。この本で紹介されていませんが、日本のわかりやすい事例はこれだと思います。

それでも?と思う人もいるかもしれません。

”ゲームデザイナーの多くはVRゲームを作り始めてすぐに気づいたのだ。二次元のTVモニターの中で人を撃ち殺すのと、VRの世界で人を撃ち殺すのでは、まったく感じ方が違うことに。”(P.91)

こう言われるとどうでしょうか?礼賛だけでなく、負の要素を想像すると、現実感がありませんか?(PSVRのバイオハザードをやってみるなど、実際に体験していただくことも可能ですが・・・)

多くの研究とその結果

左手の代理を務める義手と本物の左手を同時に絵筆でそっとなでる。両者を同じタイミングで同じ向きでなでているうちに、被験者は次第にゴム製の義手が自分の左手であると思い始めるようになるのだ。なぜそうだとわかるのかというと、例えば被験者に「自分の左手を(右手を)を指すように」と指示すると、ほとんどの被験者はテーブルの下にある本物の左手ではなく、ゴム製の義手を指さすのである。(P.122)

融けるデザインの自己帰属感にもつながるところがある気がします。そして第三の手に言及していたり、別箇所では幻肢痛の軽減などにも利用されていることを紹介してくれています。(第三の手の実験もありそれもまた別で紹介してくれています。)

”プロテウス効果(アバターを使うと人は意識せずともそのアバターの外見に合わせてふるまうようになる効果)”に関する内容だった。背の高いアバターを使うと交渉で強気になり、魅力的なアバターを使うと社交的な会話上手になり、高齢のアバターを使うと先々の心配をするようになる。(P.139)

今はインターネットで姿の見えない誰かとやりとしていますが、これからはVR空間で姿が "見える" 誰かとやりとりすることになるのかもしれません。そうなったときには、現実で会う人格は、これまで以上に落差があるのかもしれませんね。

他にも、
・マクベス効果の確認ためにVRを用いた研究
・VRルームで24時間過ごしてわかったことを学術誌に報告した研究
・第三の手を生やしたときの生産性の実験
などなど、ここでは書ききれない量の紹介があります。

VRの医療への適用

”「人生の一部をなす記憶となるよう、新たに作り直すのです」とディフェーデは言う。「そうすれば、自ら望まないときにその記憶が心に侵入してくることはなくなります」”(P.184)

PTSD の症状改善のためにVRが用いられているそうです。上述した通り、記憶として残るほどなので、こういうところにも使えるのですね。

”心理学用語でこれを「自己効力感」という。ある目標を達成するには、自分にそれができるという思い込みが不可欠である。前向きな視覚化が治療の大きな助けになることは医学の文献からも明らかだ。だが、激痛に苦しんでいる患者に対し、もっと足が動かせるという視覚化を認知させるのは難しい。だからこそVR治療で大きく足が動くアバターの姿を見せる意味がある。”(P.223)

CRPSという、中枢神経と末梢神経系との連携がうまくいかず起こる神経異常で、特定の部位に激しい痛みを感じ場合があるそうです。この理学療法の訓練時にVRを用い、痛みを和らげ、ゲーム性を出しながら、トレーニングを最後まで完遂させることができるようにしたそうです。

VRエンジニアにも役に立つ知識

仮想世界のドライブがなぜそれほどユーザーの五感に負担を与えるのか--。これまで何十万年も変わらず、人が動くときには三つのことが起きている。まず最初にオプティックフロー(網膜上の運動パターンの流れ)が変化する。これは、岩に近づくと視界の中でその岩が大きくなることを凝った言い方で表現しただけだ。次に内耳前庭器官が反応する。この器官は非常に敏感で、自分の動きに合わせて内耳で振動し、自分が動いていることを脳に伝える。第三に、自分の皮膚から固有受容覚(身体の位置や動き、加えた力を感じる感覚)を受け取る。例えば歩いているときに足の裏が感じる床からの圧力も固有受容覚である。(P.336-337)

VR酔いは有名ですが、なぜ負担なのかきちんと説明されている資料は少ないと思います。上記の通り生理学的にどういう流れで負担があるのか、きちんと説明されていたりするのがすごくいいなと思いました。

最後に

VRに携わる人だけでなく、その他の業界の人も、VRがどういう風な効果があるかなどを知ることで、活用する道を考えてもらえると思います。多岐にわたる業界の例が載っているので、ぜひ読んでみてください。

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