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潮目が変わった

才ある人が離れていく


若手人材の雇用流動性が高まっている。
ボクの勤務先でもその流れは顕著になってきた。
離職理由はそれぞれだが、共通しているのは全員転職エージェントを利用していることだった。

曰く、サイトに情報登録さえしておけば、自分で求人を探したり就職活動に時間を割くことなく条件の合う転職先とマッチングしてくれるから楽だしプロのアドバイスを貰えるから安心だという。

少し前までは、仕事についていけないタイプの離職が多かったように思う。
休職してそのまま退職し、しばらくハローワークに通って雇用保険を貰います的な離職パターン。

ところが最近は仕事ができる人が離れていく。
どちらかといえばハイパフォーマーで日々の仕事をキッチリこなす彼らには、業務外の時間を使って就職活動をするほどの余力があるようには見えない。
そこに油断があったのかもしれない。
今や転職に就職活動の労力は不要な時代なのだ。

マネジメント側に立つ者にとって、この変化は衝撃的だ。
コロナ以降のテレワーク普及に加え、ハラスメント規制法が施行されチームメンバーを飲食に誘う機会も大幅に減った。
そこにきて転職エージェントの台頭である。
転職しそうな雰囲気に気づく機会がないまま、その日は突然やってくる。

「ちょっとお話があるんですが、よろしいでしょうか?」

聞いてみれば、既に転職先は確定していて、先方には引き継ぎ期間の猶予を待ってもらっている、というケースがほとんどだ。
慰留を挟み込む隙など微塵もない。

仕事ができる人材だからこそ、転職の理由も明快だ。
本人のキャリアや人生を考えれば、転職という選択にエールを送るべきなのだろう。
しかし仕事をマネージする側にすれば残されたメンバーの不安をどう解消するか、工数不足をどう補うか、頭がイタイことだらけである。


減少する労働力人口


先日、新たな中期経営ビジョンを策定するためのワークセッションがあって、外部環境分析など諸々を試みた。
もちろん労働市場も例外なく・・・

日本社会は2030年頃を境に労働力人口がどんどん減っていく。

国内の生産年齢人口は2004年にピークアウトしているが、公的機関の予測では2030年頃まではなんとか現状に近い労働力人口を維持できるとされている。
しかしこれは非正規労働者の雇用促進等の政策をはじめとする制度改革を念頭に、年収の壁や定年制度で生産に加入できていない潜在労働力の活用を図ることで対応できるという楽観的なシナリオに基づく予測にすぎない。


貴重な人材の奪い合いが今後ますます熾烈になることは疑う余地がない。
非正規雇用ではない正社員の、さらに言えばハイパフォーマーという括りで考えれば、現時点で既に希少人材であると認識すべきだろう。

今までのように新入社員を採用し、社内教育を経て現場で実践を積み、実力をつけていくような社員のキャリアイメージを主流においたままでは、完全に時代に乗り遅れる。

経費を掛けて社会人としての基礎を教え、仕事の回し方を身につけたところで他社に流れていってしまうばかりでは、まるで社会人養成ボランティアだ。それではまるで事業としての体裁を保てない。


ティッピング・ポイント


2022年の転職サイトのCMはこんな感じだった。

事業者向けに転職サービスの利用を促す内容だ。


2023年の今はこうなっている。

CMの対象が事業者ではなく、転職希望者に入れ変わったのだ。

転職サービスとして事業者(求人側)ニーズは既に充足し、転職希望者を募るフェーズに転じている。
これは大きな潮目の変化、転換点である。

その意味するところの重大性を理解しておく必要があるだろう。
人材の流動化は完全にティッピング・ポイントを超えた。


プロパーの採用をやめて中途人材を求めようとか、そういう話ではない。
流動化した労働市場から有能な人材を事業にスカウトするスキルを、企業としてしっかり持たなければ、安定して事業を回すことすら危うくなる。


優れた人材を得るには


流動人材を支援するプロフェッショナル・エージェントの存在はとても大きい。
これまでは企業の採用担当者と個人の駆け引きだったが、これからはプロが企業価値をキッチリ見極めて企業と人を繋いでいく。
プロの眼鏡に適わない企業は、エージェントから人材の紹介すら受けられなくなるだろう。
有能な人材であればあるほど、エージェントは質の高い企業を選ぶ。
企業の事業内容の安定性持続性や時代に対する先見性など、企業の総合力に加え、働く環境の充実度や自由度、仕事そのものの魅力などまでもが問われることになる。

いい人材を求めるならば「そこで働きたい」と思ってもらえる仕事の在り方を整えることを、企業自身がとことん考え抜かなければならない時代を迎えている。


仕事も組織も大きく変わる


人材の流動化がもたらす未来をもう少し先まで考えてみると、日本企業が典型的に持つピラミッド型のヒエラルキー組織はいずれ機能不全に陥るのではないだろうか。

働き方の多様性や自由度が求められる社会になった。
ガッツリ働きたい人もいれば、そこそこのレベルで働きたい人もいる。
アイデアを出して企画を練りプロジェクトを進めたいプロデューサー志向の人もいれば、割り当てられた仕事をキッチリこなしたいプレイヤー型の人もいるだろう。
もちろん、個人の中ではそれぞれのステージが時々によって変遷していくだろうし、その移り変わりは決して一様ではないはずだ。

そうした多様な人材をどのようにマネジメントして事業を運営していくべきか。
全く新しい時代の組織マネジメントがこれから生まれてくるに違いない。
少し前から話題になっているティール組織やホラクラシー、DAOといった考え方は、間違いなくそうした新たなムーブメントの走りだろう。


目の前に起きている小さな出来事から、この先訪れるであろう大きなうねりを予期し、機会を掴む構えを作る。
そして機を違えず、勇気を持って時代の波に乗り込む。
それが時代の荒波を超えて生き残るために最も重要なポイントであることは、三世紀を超えて永続してきた企業の歴史を振り返ってみても間違いのない事実である。

潮目は確実に変わった。
その事実を明確に認識しておくべきタイミングと思う。