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働き方改革とワーク・ライフ・バランスを考える

いわゆる働き方改革、労働法令の改定の中で、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉がある種、錦の御旗のように使われていると感じています。労務管理の現場で多少とも違和感を感じる立場から、「ワーク・ライフ・バランス」の意義について考えてみたいと思います。

働き方改革にみるワーク・ライフ・バランスとは?

平成 29 年3月 28 日 働き方改革実現会議決定『働き方改革実行計画』では、次のような記述があります。

『日本経済再生に向けて、最大のチャレンジは働き方改革である。「働き方」 は「暮らし方」そのものであり、働き方改革は、日本の企業文化、日本人の ライフスタイル、日本の働くということに対する考え方そのものに手を付けていく改革である。多くの人が、働き方改革を進めていくことは、人々のワーク・ライフ・バランスにとっても、生産性にとっても好ましいと認識しながら、これまでトータルな形で本格的改革に着手することができてこなかった。その変革には、社会を変えるエネルギーが必要である。』

働き方改革の打ち手の三番目が、『罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正』ですから、どうも働き方改革のワーク・ライフ・バランスとは、『長時間労働の是正』のようです。

ワーク・ライフ・バランスの本質とは?

一般に『ワーク・ライフ・バランス(英: work–life balance)とは、「仕事と生活の調和」と訳され、「国民一人ひとりがやりがいや充実感を持ちながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる」ことを指す』そうです。

(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)

政府委員にも名を連ねていたリンダ・グラットン氏の著作『LIFE SHIFT』や『WORK SHIFT』の考え方が色濃く反映しているのでは、と思いますが、重要なことは『人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる』ことではないでしょうか。

ところが、世間一般でいうところのワーク・ライフ・バランスは、新卒社員も定年再雇用の社員も十把一絡げに扱っているように感じます。大学生と就職について話していると『ワーク・ライフ・バランスの呪縛』に絡め取られていて、釈迦力(死語かもですね)になって働くとか、時間を忘れ没頭するとか、してはいけない事、一種のタブーと考えている(すり込まれている)ように感じることがあります。

いつでもどこでも同じように働くでは、少なくともプロフェッショナルといえるレベルの仕事はできません。結局、人生を通じた本当のワーク・ライフ・バランスは叶わないで終わってしまう、残念な人生が待っているのでは?と危惧してしまいます。

真のワーク・ライフ・バランスを実現するには?

企業と同じく人にも成長段階があります。その成長段階に応じた働き方をすることが求められると思います。

ラリー・E・グレイナー氏の『企業成長の五段階説』という変え方を個人にあてはめて考えてみます。

その第一段階の経営の焦点は『製品と販売』としています。これを個人に当てはめてみると、第一段階=新卒社員となり、製品と販売=『能力開発と業績貢献』になるのではないかと思います。

小樽商科大学の松尾睦教授は、著書『経験からの学習 プロフェッショナルへの成長プロセス』で『熟達の10年ルール』を提唱され、高い業績をあげるビジネスパーソンには質量共に充実した10年間の準備期間が必要と説かれています。『石の上にも三年』と申しますが、大卒の3年後の退職率は30%、サービス業に限ると50%を超えるとか、これでは会社になれることやテクニカルスキルを身につけるのが精一杯、この段階で止めてしまうと労使共に投資倒れに違いありません。

企業は、新卒など若年層の社員にプロフェッショナル=高い業績をあげる職業人になることを求め、その成長プロセスをデザインしなければなりません。そのためには仕事に重きを置いたライフ設計を求めることは当然ではないでしょうか。

社員を単なる人手と考えるなら別ですが。

2030年、2045年など諸説ありますが、人工知能が産業の有り様を変えると言われています。

以前のように単線のキャリア形成は望むべくもなく、何度も新しい仕事に取り組むことが当たり前になるでしょう。

企業も社員も様々なライフステージ、複数の職務に取り組むことを前提にワーク・ライフ・バランスを自在に変えていくことが求められます。生涯を通じた幸せのために。