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【朝に書く1,000字 恋愛小説:2年ぶりの彼女と彼#3】

「うん、念のためお手洗いに行ってくるね。」

 彼が渋滞があるかもだからって。会ったばかりで、離れるのが嫌だったけど、こればかりは仕方がないよね。トイレは、2階の出発ロビーに。意外と清潔で、少し安心した。やっぱり座るの怖いからね。
 2階から見下ろすと、彼がスーツケースと上着を持って、心配そうに見上げてる。顔を出したら、すぐに見つけてくれた。安心に包まれてる。

 ターミナルビルを出て、スーツケースを引いてくれてる彼の後ろ姿を見ると、やっと会えたよ、って実感が湧いた。

 久しぶりに会ったときって、自分が自分じゃないような、空に浮いたような感覚になるのはどうしてなんだろう。言葉がしっかりしてなくて、ふわふわしてる。少しだけ時間がかかるからね、少し待ってね。
「フライトはどうだった?映画見たり、本読んだりできたか?」だって。同じように少しだけ時間がかかるみたい。そうだよね。だって、2年ぶりに会ったんだもん。すごく安心する。

 高速道路は順調。この街で頑張ってるんだ。と、ありきたりのことを思いながら。飛行機に乗って、7時間飛んで、ドアを出たら、違う匂い、違う世界。そして今も東京は別の時間が流れている。そして今、私は彼の隣にいる。なんだかすごく不思議な感覚。

 高層ビル、屋台、バイク、騒ぎ声の中を通って、アパートが近づいてきた。車の中では、まだオンラインで話しているような、身体と心と頭が全部バラバラな感じだった。
スロープを抜けて、玄関に到着。スーツケースをおろして、セキュリティーを通った。入り口は清潔で、高い天井、アジアの匂い、エレベーターに乗って、彼の部屋に行く。

 扉を開けて、「どうぞー」だって。まだ、時間がかかってるのかな。部屋に入った。2人になった。身体と心が、あっという間に溶けて一緒になった。思いっきり彼の胸に飛び込んだ。ちょっぴり夏の匂いのするシャツ。でも暖かくて、優しくて、安心できる。もう離れたくない。

 そんな幸せに浸ってたら、「なんかお酒の匂いがしないかー」って言いだしたの。でも確かにお酒の匂いが。
「あー、割れちゃってるー、でも下半分は無事だー」っと彼。喜ぶ彼の顔を楽しみに、買ってきたお土産が割れちゃった。私はいつもそうなんだ。なんだか悲しくなっちゃう。と思っていると、彼が「まだ大丈夫」って、なぜかうれしそうに、他のビンに移し替えてくれた。

「疲れてると思ったから、スープを作ったよ」って、彼が言う。

「うん、食べるー、私、大盛りねー」

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