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気がつかない教授もどうかと思う

バカ暑い8月の上旬、期末試験当日。

当時大学2年生だった僕はその試験に怯えていた。

授業内容が難しかっただけでなく、過去問が無い。初めて単位を落としてしまうかもしれない。そんな不安が身をこわばらせる日だった。

クーラーの効いた教室に入ると、仲のいい友達がもう席についているのが見えた。いつもの比較的前側の席だ。座席一つ分の空間をあけ、右横に座る。

僕の前側の席には韓国人の留学生と思われる女性が座る。授業でよく見る人物だったので、「この人もいつもの癖で前に座っているな」と思った。

試験開始時間が近くなり、受講生がぞろぞろと集まる。彼女の前には誰も座らなかったので実質的にその席は一番前の席となった。

教授が教室に到着。問題用紙と回答用紙を配布、試験についての説明を軽くした後、教授は教卓に座りパソコンで作業を始めた。一応、試験監督として在中するのだ。

前述のようにかなり緊張していた僕は、とにかく不安を押し殺しながら試験に取り組んだ。全て論述形式だったこともあり、集中。90分があっという間。

問題の難しさに半泣きになりながらも、試験は終了した。

「これ単位あるのかな~」と思っていると、隣の友人が話しかけてきた。

「ねえ」

「ん?」

「僕の右前の人、試験中に」








「アイス食べてたんだけど」




!?



詳しく話を聞くと、どうやら彼の右前に座っていた人物、つまり僕の目の前に座っていた韓国人の留学生が試験中にアイスクリームを食べていたのを彼は目撃したらしい。

……なんてこった。

試験中に間食をするなんてことがありうるのか?しかも、一番前の席で?

いくら試験監督の教授が作業中とはいえ、目と鼻の先。どういうメンタルしてるんだ。

クソウ、ちゃんと注目しておけばよかった……と後悔していると、彼はこう付け加える。

「しかも食べてたアイスが」






「ブラックモンブランだったんだけど」



唖然。

ブラックモンブラン。もしかしたら九州住みの人間以外には伝わらないかもしれない。


ブラックモンブランとは、佐賀県にある竹下製菓というメーカーが九州地方限定で販売しているアイスクリームだ。

チョココーティングされたバニラアイスにザクザク触感のクッキークランチがまぶされているという、九州圏の人間誰もが認める激うまローカルアイス、なのだが、唯一の欠点が存在する。


クッキークランチがボロボロとこぼれるせいで死ぬほど食いづらいのである。

こぼれたクッキークランチにはもれなくチョコもついてきて、落ちた地点にはくっきりと黒い点が残りやすい。だから、家で食べる際は皿の上で食べるのが定石。

そんなブラックモンブランを、試験中に食う。


……狂っている。そう思った。

きっと彼女の解答用紙にはクッキークランチの黒いシミが残ってしまっているのではないだろうか。


衝撃を受けた僕たち二人は、このエピソードを「ブラックモンブランエピソード」と名付け、他の友人たちに語り継いでいる。

ちなみに授業の単位は普通に最高評価だった。





2年後、私は卒業論文が出せずに留年した。

どういうこと?

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