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小説 給食のショートケーキ

小学校高学年の頃だった。
ごくたまにではあったが、給食におやつがついてくるときがあった。

プリンとかゼリーとか、給食のおやつだから、質を考えればどうってことのない粗末なものではあったが、学校で食べるお菓子はめちゃくちゃ美味しく感じた。私はそれをとても楽しみにしていた。

ある日のことだった。給食に、なんと、いちごのショートケーキが登場した。クラス一堂は皆、色めきだち大騒ぎになった。誰が1番大きないちごが乗っているものを手に入れられるのか、 スポンジケーキの大きめに切られたものを手に入れられるのか。

ほとんど大きさの変わらない、クラス人数分のケーキをじっと見つめて、少しでも大きいものが自分のところに来ないだろうかと、みんな真剣にケーキを見つめていた。

でも結局、先生の指示のもと、班ごとに順番に取りに行かされ、みんなはその順番でもらえるケーキを持って自分の席に戻っていった。

そして、いつものように給食の時間が始まった。ケーキを先に食べる者、ケーキを残して後で食べようとする者とに分かれた。大多数はやはり最後に食べる者の割合が高かった。

ふと見ると、私と同じ班の及川もケーキをしっかり残していた。私はやはりケーキを大事に取っておいているんだなぁと思いながら、及川のケーキを見た。

この及川と言う男は当時、私にとってはライバルのような存在と感じる奴であった。私と身長も同じ位で、運動神経も、 勉強でも同じ位のどんぐりの背比べ状態だった。

いつもスポーツや遊びで競いあっていたが、ただ私の目からは、悔しいが少しだけ及川の方が上なんじゃないかと、いつも嫉妬心を持って彼を見ていた。

当時、果たして及川がどのように私のことを見ていたのか、それは知らない。いつか同級で集まることがあればぜひ聞いてみたいものだ。

給食がほとんど食べ終わり、私は大事に残しておいたケーキを最後に食べ始めた。
するとその時、及川のこんな声が聞こえてきた。

「このケーキは家に持って帰ろう。」

それを聞いて、私は思わず心の中でつぶやいた。
そんなことをして家に持って帰ったら、必ず妹に食われてしまう。
こいつにも、確か妹がいたはずなのに。 ケーキを大事に取っておき過ぎだ。

そう思って聞いていると、及川はまた隣の友達と話し始めた。

「うちの妹はケーキが大好きなんだよね。特にこのイチゴの部分には目がないんだ。」

それはそうだろう。私はさらに聞き耳を立てた。
すると続けて及川は、私の予想もしなかったことを言った。

「だから、このケーキを大事に持って帰って妹に食べさせてやるんだ。」

そこまで聞いた私は呆然とした。
そして及川にまた、負けたと思った。

妹に食われてしまうと思いながら、学校でケーキをほおばる私。
妹に食わせるためにケーキを大事そうに持って帰ろうとする、及川。
どちらがかっこいいかは圧倒的に明白だった。

及川のいつも鼻づまりのしている、 少しくぐもった声も、今日はいつも以上にかっこよく聞こえた。

私は自分のケーキをもう半分以上食べてしまっていた。
残りのケーキのかけらを持って帰って行っても、妹は喜ばないだろう。

私は、残りのケーキを口に乱暴に放り込んだ。パサパサしたスポンジケーキがのどに引っかかったが、 私は無理矢理、それを飲み込んだ。

End


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