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【エッセイ】失恋さえもさせてもらえなかった話

ある日、
みんなでやった<なんでもバスケット>。
「自分から告白したことない人」で立ち上がったのは
私を含めたったの2人だった。

10名程が参加していたと思うけど、
そのうち2人だけ。
おとなしそうなあの人も立ち上がらなかった。

単純に驚いた。
と同時に、
自分の変なプライドの高さに嫌気がさした。

ーーー。

私は今まで自分からアプローチをしたことがない。
それは、私がモテるとかなんとかではなく、
単純に受け身なのだ。
誰かを「好き」であることに対して。

思えば、以前付き合っていた人と別れたとき、
痛烈に分かったことがあった。

私はその人のことは「嫌いではなかった」。
付き合い始めるときも、付き合っているときも。
そう、「嫌いではなかった」。

当時の私はその感情を「好き」だと思っていた。
「好き」なんだと勘違いしていたのである。
そう、勘違い。

「嫌いではない」の反対は「好きではない」だ。

そんな簡単な問題も解けない程、私の恋愛偏差値は低かった。

ーーーそして、冒頭のなんでもバスケットに戻る。

常々、自分から告白したことのある人はすごいと漠然と思っていた。
この儀式を通過した人は、
私とは違う景色が見えてるに違いないと思っていたし、
正直それは今も思っている。

なんでもバスケットの衝撃から少しして、
私は勇気を振り絞って気になる彼をご飯に誘った。
明確に「彼を気になっている」という思いから。

連絡の頻度は少ないものの、感触は悪くなかった(と思う)。
お店も二日前には決まって、あとは時間を決めるだけ。
でもこの時間が中々決まらない。
彼が言うには、会う前に用事があるから17時半頃になるとのこと。
そして、「また連絡する」とのLINE。
それが前日の夜の話…。

当日の午前中、彼から連絡はない。
13時、14時と時間が過ぎていく。
17時半頃というのは決まっていたから、
待ち合わせの駅までの道のりを考えたら、そろそろ家を出ないと間に合わない。

「また連絡する」と言われたけど、
しびれを切らして、「17時半頃に向けていくね」とLINEをした。
それに対して「OK」とのこと。
時間がなんとなく決まり、実際に彼が来たのは、17時半頃。
少し周囲を散歩し、夕飯を食べた。

全然気を使うこともなくて楽しかった。
本当に楽しかった。

(あぁ、好きだな…)って思った。
そう、「好きだな」って思った。

帰り道、二人で次の約束をした。
今から10日後。
場所は定番のデートスポット。
彼が携帯のスケジュールに予定を入れてくれるのを見て安心した。
私が先に電車を降りて、振返り手を振る。
目があって、少し彼が驚いたように目を見開いて、手を振ってくれた。

翌日、ふと心配になって、
昨日のお礼と次回の約束の確認LINEをした。
彼からは「了解。また連絡する」との返事。
酔った勢いの約束じゃなくてよかったって安心した。

それからの私はというと、仕事に身が入らない。
毎日オフィスの壁にかかっているカレンダーを見ては、次に会う日までのことを思った。
そんな自分が自分で信じられない。
理性的でない自分に驚いた。

約束の日の前日、「また連絡する」と言われていたが、
詳細が決まっていなかったのでLINEをした。

でも一向に「既読」がつかない。
お昼に送って、今は23時。
勇気を出して電話をした。
出ない…。
時刻は24時。私は眠りについた。

朝、やっぱり既読はついていない。
ここまでくると心配にさえなってくる。
そもそも今日あるの?という疑問に到達した。
そして追いLINEをする。
「今日はあると思ってていいの?」って。

昨晩、急遽女子会に誘われ、
少しやけ気味に「行く」と返事をしていた。
幹事には「途中で帰るかも」と伝えつつ…。

女子会に向かう電車に揺られているとLINEの通知が。
彼からだ。
合格発表をみる時に似たドキドキ。
既読にならないように内容を確認した。

ごめん、今日厳しくなった。また今度でいい?

心臓が変な動きをした。
四方向くらいの相反する感情ではねた。
スーパーボールみたいに。

(なんて返そうかな…)
頭を悩ましていたら女子会会場の最寄り駅についた。
改札前で友達を待つ。
スマホとにらめっこしながら。

「お待たせ、どうしたの?今日おしゃれじゃん」
友達の言葉にハッとする。
いつも女子会にはジーパンで参加することが多い。
でも、今の私は今日のために買った新しいワンピースに身を包んでいた。

(なんて返信をしようか…)
悩みに悩んで私が送った返事は、
・残念な気持ちを伝えて、
・利口に分かったふりをして、
・次回を楽しみにしている、
という精一杯の想いだった。

女子会では一連の話を面白可笑しく話してみた。
いやぁ、ドタキャンされちゃったよ。
って笑いながら。

友達から見るとちょっと痛々しかったかもしれない。
「素直になりな」
友達は言うのだ。

そうね、素直になることが難しい。
それは、彼を好きって気持ちもだけど、
ドタキャンされて抱いた気持ちに対しても。

お酒が入っていたからなのか、
「私ばっかり好きなんだわ…」
と笑いながら呟いたとき、
視界が一瞬だけ滲んだ。

女子会がお開きになった帰り道。
彼からの返信はお決まりの言葉。

「また連絡する」

きっとこれはこないやつだ。
少しの期間で彼のことでわかった唯一のこと。

家に帰って、お風呂に入り、ベッドに身を投げた。
そして思う。
今頃、東京の夜景を彼と見ていると思っていたのに。
ぽろぽろと涙がこぼれた。

(そうか、私は悲しかったんだな)

彼を好きだった気持ち。
まったく脈なしだった辛さ。
ドタキャンされた悲しさ。

これって失恋っていうのかな?
いや、失恋さえもさせてもらえなかった。

そんなお話。

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