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創作デブとガリ以外は読むな!3

デブとガリはアメフト部とのつながりを否定する生活をしていた。二人とも性格は違うが、過去を断ち切りたいと思っていた。それで充実した現在を過ごすことが出来ているのであれば、そうする事が正しい選択かもしれない。けれども、そうではないのだ。二人はモヤモヤした気持ちを抱えながら、目標もなくただ生きているだけの生活しているのだった。

「やっぱ山西さんは凄いっすね。学校の校長と言えば、だいたいおっさんとかおばさんですよ。こんな若い校長先生っていないんじゃないっすか?」

デブはアイスコーヒーを吸い上げてから、無邪気に声をかけた。こういうデブの態度は昔から変わらない。

「正確に言うと校長になりたいって言うよりは、理想の授業を行うために校長になったって感じかな。思ったより早くに肩書の方が偉くなった感じはするけどな」

山西は教師になって、初めは文法を教えるにしても、長文を教えるにしても、先輩教師を倣って従来通りの解説一辺倒の授業をしていた。けれども、それでは全体的な英語力アップにはつながらないことに気がつき、独自の教え方を模索するようになった。そうした動きは次第に他校の同じ思いの教師たちとつながるようになり、共著ではあるが、大手出版社から教材を出版するようになった。
『使える英語』をテーマにした授業は、従来の試験の為の授業ではなく、コミュニケーションを前提として生徒に教えることだ。国際化社会だと言われて何十年も経つのに、公の場で英語を話せるリーダーはまだまだ少ない。ビジネスにしても、政治にしても、通訳や翻訳機を挟んで行えばそれなりに折衝する事はできるだろう。けれども、人と人の関係においては感情が一番大事だと山西は考えている。それを伝える手段は言葉だ。英語を教え込もうとするのではなく、感情を伝えられる人間の教育こそが国益にもつながり、ひいては世界の平和に貢献できる日本人を育成する事だと思っている。

「山西さんはいいですよね。何もかも上手くいって」ガリの言葉には妬みというねっとりしたヘドロのようなものがくっついていた。

「ガリは今、何をしている?現役の時、お前が一番練習頑張っていたよな!?今も何かに頑張っているのか?」

「俺は日雇いの派遣です。その日暮らし。別に頑張っているって感じではないです」心なしか、体格だけでなくガリの全てが山西には小さく見えた。

「ところで、テツは本当に来るのですか?」ガリは無理やり話を変えた。自分の話はしたがらない所は昔から変わらない。

「来る。その前に、二人に確認したかったんだ。テツに会って喧嘩になるのは嫌だからな」

「テツに言いたいことはあります。俺も間違っていたと思います。あの時必死すぎた。チームのみんなの事よりも、俺は自分の事ばかり考えていたのかもしれないです」


一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!