創作:嫌な京都女と神戸男と大阪さん。
「お久しぶりです。あれ?あの人まだ来てはらへんの?」
京楽さんが到着した時には、湊川君はすでにカップのコーヒーを3分の1ほど飲んでいた。
「まぁ、まだ5分くらい前ですしね。もうすぐ来るんとちゃいますか」
「いつも早く来る人やのにねぇ」
京楽さんは、いつも一言二言何か言いたい事があるのに、それを言わない。それでいて、語尾のトーンをあげて嫌味を伝えてくる。
「なんか、飲みます?」
「私もコーヒーいただきます」
すぐに湊川君が店員さんを呼んだ。声を出すわけでなく、スッーと手を挙げる方法で。
「湊川君は、最近どぉなん?景気ええんとちゃいますか?」
京楽さんはスプーンでカップをかき混ぜながら、そっちの方ばかりを見て聞いてきた。少し機嫌が悪いのかもしれない。
「まぁ、ぼちぼちですわ。どこもそうちゃいます?そんなに儲かっとぉーわけやないですよ」
「ふーん。そうですか。せやけど、ええ車乗ってはるねぇ」
「あれは、昔乗っとったやつと同じですよ。移動が増えたんでんで、乗り換えたんですわ」
暫く沈黙。
どうも会話が弾まない。この2人は、互いのプライドの高さが邪魔をしているのか、わかり合うことができない。
「浪花さん遅いですね」
湊川君が根負けして、気にしている事をそれっぽく言ってみた。
「いつもの事ですやん。ホンマ、幸せな人やわぁ」
京楽さんは、今度は本音を窺うように、湊川君の目を一瞥して言った。
「こんな時やから、なんかせぇへんか?みたいな事言うてましたよ」
湊川君は、京楽さんのサインを読み取って、少しだけかましてみた。
「なんそれ?よーわからんねぇ。そんなこと言うてはんの?」
会話が回り出した。2人は、浪花さんの話になると息が合う。「一緒にせんとって」と思っている事が同じだから。
「正直、僕も飽きれとぉーんです。浪花さん、いっつも思いつきで何か言うて、なんしか、何もせぇへんでしょ?」
「そやねぇ。つい最近もなんか、騒いではったねぇ」
「そうそう。なんか、一元化がどうとか言うて、よーわからんまま反対されとぉーんです」
「それそれ。言うてはる事は立派やのにねぇ。そやけど、最初からあかんやろうとは思ってましたぁ。それで、2度目もあかんて、ほんま幸せな人やねぇ」
そんな話をしている時に浪花さんが遅れて入ってきた。
「えらいすんませんでした!道こんでて、ホンマ、往生しましたわ。運転中やから、電話もできんとすんません。お二人とも元気そうですなぁ!?ほな、僕もコーヒーにしよっかな。あっすんません!おねぇちゃーん!コーヒー1つ!お二人は?えっ!?なんもいりまへんの?ごめん!おねぇちゃーん!コーヒー1つだけでええわ!」
はじめから、コーヒー1つしか頼んでいないのに、言いなおすところが浪花さんっぽい。こういうところを、「一緒にせんとって」と2人が思っているのだ。
「浪花さん、相変わらずですねぇ。うらやましいわぁ」
京楽さんが再び、言いたいことを言わない感じで言ってくる。
「そら、そうですがな!そういう京楽さん!また一段と別嬪になって!ええ人でもおるんちゃいますか!?そや、ええ人いうたら、湊川君もあれやろ!?よかったやんか!あれはええで!ホンマ、あれしかないしな!ホンマ、あれやな!」
どぎついな。こんなん嫌やわ。恥ずかし。湊川君は心の中で中指を立てた。
「浪花さん、今日はどういったお話ですか?この前の電話では、よーわからんかったんです」
「湊川君!そら、なんかせなあかんやろ!こんな時やから、なんかせな、気分が沈んでいくだけや!そんな事ではあかん!元気が一番や!そやろ!?京楽さんもそう思いますやろ!?僕ら3人で盛り上げな、誰がやるんですか!?僕らやないですか!おっしゃ!やるで!やったるで!」
結局、3人の会話は空回り。
「なんもせんほうがマシ」とは言いたくないですが、分かり合えない者同士が集まったところで、それはカタチだけ。
分かり合う事は簡単ではありませんが、自分の事を知る事から始めたほうがいいのでしょう。
終わり
一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!