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メルシャンのブドウ畑で農作業 ~除葉ってなあに?~

メルシャン桔梗ヶ原ヴィンヤードで、ブドウ畑のボランティアを募集中。

平日のまっ昼間、『今週末、どこかのブドウ畑で農作業したいなぁ…』などと思いながらインターネットの世界を徘徊していたますたや。
メルシャンのホームページにたどり着いた瞬間、「…いや、めっちゃコレすぎない?!」と天命を感じたわたしは、次の瞬間には電話をかけていました。

2022年7月2日(土)、6日(水)、7日(木)、9日(土)、13日(水)、14日(木)、16日(土) 各回 9:30~17:00 ※現在(7/3)も募集中です

さっそく仕事終わりにワークマンで長靴を購入し、ハナキンの飲酒を木曜日にずらし、朝4時半起きであずさ1号に飛び乗ったわたしは、一路長野県塩尻市へと向かったのでした。

車窓に流れるのどかな風景
田植えの季節。思わず実家の田んぼを想う。
途中、眼下に広がった勝沼の街。これぞ盆地!

シャトーメルシャン桔梗ヶ原ワイナリーとは

今回お世話になったのは、シャトーメルシャン桔梗ヶ原ワイナリーです。

こちらは2018年に新たに生まれた、メルシャンの新しいワイナリー。メルシャンの前身である「大黒葡萄酒」が使っていた元工場をリノベーションし、新たに『ガレージワイナリー』として再出発を切ったワイナリーです。

ちなみにこの元工場、かつて塩尻ワイナリーフェスティバルの際に一般公開されており、わたしも何度かうかがったことがありました。気づかないあいだに、いつのまにかワイナリーになってた…!

2017年訪問時。ワインを飲みながら音楽を聴いて泣く。ますたやすぐ泣く。

現在は、自社畑と契約農家さんのブドウをどちらももちいてワイン醸造をされているとのこと。畑、そして植え付けブドウの種類や本数も順次増やしている最中のようで、すでに2025年までの長期計画が立てられているんだそうです。ブドウ畑、ほんと時間がかかるなぁ…!

そんな桔梗ヶ原ワイナリーですが、今回わたしたちボランティアがお邪魔したのは「桔梗ヶ原ヴィンヤード」です。

お邪魔します!

畑の標高は約700メートル。粘土質のうえに火山灰が乗っている、水はけのよい地域なんだそう。周りには城戸ワインさんや五一ワインさんの畑もあり、いいブドウが育つ土地なんだなぁ…!と感じられます。

桔梗ヶ原ヴィンヤードの広さはおよそ3ヘクタール。お隣の「片丘ヴィンヤード」と合わせ、合計12ヘクタール以上の畑を、だいたい常時6人のスタッフで切り盛りしているんですって。ひ、ひえ~…っ!

ここ桔梗ヶ原ヴィンヤードでは、樹齢20年を超えるメルローが育てられています。
ちなみにここで育ったブドウたちは、桔梗ヶ原ワイナリーができる前は勝沼の工場に運ばれてワインになっていたそう。たとえば、1989年にリュブリャナ国際ワインコンクールで大金賞を受賞し、長野メルローを世界に知らしめた「桔梗ヶ原メルロー」や、メルシャンの高級フラグシップワインでもある「桔梗ヶ原メルロー シグナチャー」なんかに使われているのが、まさにここのブドウたち。
なんと今回はこのメルローたちのお世話をさせていただけるということで、いきなり責任重大すぎやしないかい…?!

除葉ってなあに?

さて、9時半に塩尻に到着したわたしたちは、さっそく畑へ向かいます。畑では、メルシャンの畑スタッフのみなさんが温かく出迎えてくださいました。

おりからの酷暑で畑はカンカン照り。ところが、意外と空気は乾燥していて、気温の印象と比べるとだいぶ過ごしやすいです。影に入ると風も心地よく、なるほどブドウの影に入っていれば何とか過ごせそう。とはいえ、日焼け対策は必須。対策してても真っ黒になりそうだぜ…!

参加者のみなさんとも自己紹介をかわし、さっそく作業開始です!

1日大活躍してくれた「コロコロ」。もうこれなしでは生きられない。
がんばりますよ!

さて、今回おこなうのは「除葉(じょよう)」の工程です。除葉とは、不必要な葉を切る作業のこと。果実に光をあてて成熟を促進し、風通しをよくして病害を防ぐための大事な作業。あわせて、ブドウが「できすぎる」ことを抑制するための「摘房」の作業もおこなっていきます。

ギヨドゥーブルと呼ばれる仕立て方のブドウの樹は、左右に伸びる「古い枝」から、緑色の「新しい枝」が伸びていきます。
そこに、基本的には房が「ふたつ」つくのですが、ときどき「3つめ」がついていることがあります。この、「3つめ」の房を切っていくのが、ひとつめの作業。

こんな風になっている樹の
3つめの房を切ります

こうすることで、残った房に栄養分がいきわたるようになります。
せっかく育った3つ目の房ですが、問答無用にカットしていきます。美味しいワインを造るためなんだよ、ごめんよ…!

こんなに立派でも、切られて行きます。ちょっと切ない。きみ、うちの子になる…?

続いておこなうのが、ブドウの房の「肩」と呼ばれる部分を切り取る作業。これも摘房と同じく、必要な房に必要なだけの栄養分を送れるようにするための作業。せっかく一生懸命育ったのに、ごめんよ……!!!

そして、「ふた房めの対面についている葉っぱ」以外の葉を落としていきます。これが、「除葉」の工程。

ここの葉を落とすと
すっきり!

ちなみに、どのくらい葉を残すか、摘房をどの程度おこなうかは、ワイナリーごと、畑ごと、ブドウごとでも異なります。葉が残ると栄養がいきわたりやすいですが、一方で風通しが悪くなりますし、たとえばひと房しか残さなければ、栄養素は凝縮されますがブドウの収量が2分の1に落ちます。
こんな風に、ひとつひとつの作業によってブドウの栄養素が変化したり、収量をあげたり抑えたりするんですね。おもしろいなぁ…!


こうしてブドウの樹が「散髪」されていくと、最終的には垣根仕立ての下がわに、ブドウがずらっと並んで見えるようになります。美しい…!

下側に隠れているブドウが…
こんなに見やすくなりました!

ちなみにこれ、プロがおこなうと、もっと美しくなります。

お隣の契約畑さんのブドウ畑、除葉前。
除葉後。下に房が垂れ下がってるの、わかりますか?

除葉が進んだ畑を見て「美しい…!」と言えるようになるだなんて、だいぶブドウ畑レベルがあがった感があります。
これからはみなさんも、ブドウ畑を見て「これはもう除葉がすんだ畑だね」なんて言えます。まあ、だから何というわけでもないですが…(言いたいだけ)


この日はこの除葉および摘房の作業を、だいたい朝10時頃から15時頃までおこないました。

ブドウの枝は込み入った迷路みたいになっていて、どれがふた房めなのか、どの葉を切っていいのか、結構わからないんです。君はどこの住人?みたいな状況が、そこここで発生しています。
つるが絡んでいたり、房どうしがくっついていたり、枝の行き場が混乱していたり。そういう子たちをほぐしてあげるのも、大事なお仕事。なるべく房を傷つけないよう、そして必要な枝を切ってしまわぬよう、結構集中して作業していると時間はあっという間に過ぎていきました。

隣で作業をしていた夫が、ふと手をとめて空を見上げ、しみじみとつぶやきます。

「ブドウ……… かわいいな………」

・・・・・・・・・わかる。

ブドウ畑の楽しみ

さて、作業は1日がかりでしたが、もちろん途中で休憩もはさみます。
お昼はメルシャンさんがお弁当をご用意くださり、なんと冷えたロゼワインもご提供いただけるとのこと。カラッと晴れた晴天のもと、ブドウ棚の下でのんびりといただくご飯とワイン。天国って、ここのこと?

キンと冷えたロゼワイン!こちら、まだ市場に出回っていないセラードア商品(ほぼワイナリーのみでの販売)だそうです。
メルシャンさんが持ってきたグラスがリーデル。「せっかくなのでいいグラスで飲んでもらいたくて…」と話すメルシャンさん、ワインガチ勢。(知ってた)
ロゼを造ったご本人から説明をいただきます。「赤ワインを造る際にうっかりできちゃう」ロゼですが、このロゼはちゃんとロゼワイン用に栽培したブドウを使っているとのこと。キリっとドライで和食に合います。美味しい!
ノンアルコールスパークリング。「実はこれ、僕がメルシャンの研究所にいたときに開発した商品なんです」と教えていただきました。風味をワインに近づけるために「乳酸菌発酵」させてるんですって!ノンアルコールひとつとっても、現場のストーリーがあるんだなぁ…!

食事後には、畑のお散歩。ちなみにお隣の契約農家さんの畑は、映画『ウスケボーイズ』の撮影のメインビジュアルに使われたそうです。いやぁ、なんていうか、現地感がすごいなァ…!

映画にしたくなる気持ち、わかる
1時間に1本の特急が通る以外は、とんびの鳴く声しか聴こえない畑。四葉のクローバーを見つけたりなんかして、なんだよのどかかよ…!

「わ~!」とか「へぇぇぇ…!」とか言っているうちに、あっという間の時間が過ぎゆきます。いつの間にか空には雲がかかっていて、遠くでゴロゴロと雷がなりはじめました。天気が変わりやすいのも標高が高い証拠。ザっと雨が降り出したところで、作業は終了となったのでした。お疲れさまでした!

農作業後の楽しみ

さて、畑仕事はここでおしまいですが、最後に桔梗ヶ原ワイナリーのワイナリーツアーに参加することができました。

実は桔梗ヶ原ワイナリーは普段は一般公開されていません。年に数度のワイナリーツアーが開催されるそうですが、現在、次のツアーの開催は未定。
ということで、そんな貴重な内部に入れていただけること、さらには桔梗ヶ原ワイナリーでしか買えないワインを購入できることも、今回のボランティアの楽しみのひとつ。
まあ、そんなこと、行ってから気づいたわけですが…!(ただ畑仕事がしたかっただけのラッキーガール)

ワインをいただきました。いたれり尽くせりすぎてメルシャンファンになる。
ワイン醸造のお話もうかがいます
樽で眠るワインたち
ワイナリーの前の小さな畑、その名も「箱庭ヴィンヤード」。シャトーマルゴーの醸造家である故ポール・ポンタリエ氏のアドバイスのもと、1998年に塩尻ではじめて「垣根仕立て」をおこなった畑なんだそう。ここのブドウもかつては他のブドウとともに勝沼で醸造されていましたが、2017年から「箱庭ヴィンヤード」シリーズとして販売されています。
そんな畑で飲むワイン。ブドウ畑でブドウ酒を飲む、地産地消感がすごい!
おかしい、ワインを買いに来たんじゃないのに(買った)

居心地のよさにすっかりのんびりして、参加者のみなさんともわいわいお話しているうち、あれよあれよと帰る時間となりました。

やだやだまだ帰りたくない…!と心の中で駄々をこねつつ、大人のわたしはポーカーフェイスを装ってワイナリーをあとにします。ああ、寂しいなぁ。いい1日だったなぁ…!


帰りの特急まで少し時間があったので、地元の銭湯で汗を流して、

ただよう風情
番頭のおばあちゃんと地元のひとの会話に癒される

塩尻駅のなかにオープンしたばかりの、「アイマニ」さんで1杯ワインをひっかけました。

階段を降りるとそこは…
塩尻ワインが飲めるお洒落なお店。ベリービーズワイナリーさんのカベルネフランをいただきました。

▶ アイマニさんは、Podcast『自然派ワイン収集癖』でも最近特集されました^^

こうして、18時49分塩尻発新宿行きのあずさ54号に乗り、ブドウの町塩尻をあとにしたのでした。

おわりに

わたしにとっての「農作業」は、目新しさでいっぱいでした。実はけっこう楽しくって、目の前のタスクをどんどんこなす感じが気持ちいいものでもありました。
広がるブドウ畑は最高に気持ちよく、青い空は美しい。のどかで、穏やかで、静かな時間。からだの疲れも心地よく、翌日の筋肉痛でさえ愛おしく思えます。

でもそれは、メルシャンのみなさんの支えと、丁寧なおもてなしによるもの。目新しさではなくプロ意識を持ちながら、毎日毎日畑に入り同じ作業を繰り返すことは、果てしない「労働」なのだろうと想像します。

畑、とにかく広いんですよね。ヨーロッパの規模と比べると「たった3ヘクタールか~」などと言っていた考えは、完全にあらためられました。日本の畑が狭いんじゃない、ヨーロッパが広いんだ。

この広大な畑を「どうにかする」ためには、とにかく人手が必要なんだということも痛感しました。
きっとこだわりたいところ、もっともっとたくさんあるんだと思います。それこそ除葉だって本当は、もっとこうしたい、って、あるんだと思います。でも、人数や条件でどうしてもこだわりすぎることができない。その、こだわりと無理のない継続の「間」を取りながら、あくまで「農業」としてワインを造っていく――

息の長い改良と努力の連鎖が造るのは、きっと「ふつうに美味しいワイン」なんだろうな、と思います。この「安定して美味しいふつうのワイン」の尊さを、あらためて感じた1日だったのでした。

ああ、なんか、思い出すとちょっと涙が出るなぁ…なんだろう、あまりに鮮やかで密度の濃い1日だったので、「夢だったのかな?」って感じます。

それに、もしかするとわたしは、「農作業」にかつての父の背中を重ねているのかもしれません。
「は~、暑ィわ~」「こんぎゃ暑ィと畑入らりゃせんわ!」「ます子もちったァ手伝えぇよ!」なんて文句言いながら、汗をふいていた父の背中。農作業のあとに美味そうにビールを飲み干す、屈託のない笑顔。

実はお父さん、なんだかんだ言いながら、ちょっと農作業楽しんでたんじゃないかな。
ねえ、お父さん。わたし、全然畑の手伝いしなかったけど、もしかしてわたしも、農作業好きなのかもしれないよ。


ちなみに、うちの父は、今もなおご健在です。(長生きしてね!)

実家のますたやグランクリュ(米)父、今年もはりきってます。

人手の足りないワイナリーのみなさん、ますたやが全力で駆け付けますので、ぜひご連絡くださいませ!除葉ならできます…!(ピンポイント…!)

▶ こちらは、2021年にうかがった収獲体験の記事。収穫もできます…!(ピンポイント)

▶ なお、今回の農作業を通して【Nagiさんと、ワインについてかんがえる。#2】の内容がめちゃくちゃ腹落ちする、というまさかの実用性の高さを発揮。大好きなワインブログを書かれるヒマワインさんと、ドイツのワイン醸造家Nagiさんとの勉強になって楽しいYoutube配信、次回は7月6日(水)22:00~生配信だそうです。夜の晩酌のおともにぜひ♪

それでは、ここまでお読みいただいてありがとうございました!夢だけど、夢じゃなかった肩の筋肉痛と戦いながら、残りの日曜日を満喫しようと思います🍷

また次の #3000円ワイン か、 #ワ活 でお会いしましょう。3000円台のワインをこよなく愛する、3000円ワインの民ますたやでした^^またね~!

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■ ますたやとは:

関東在住の30代、3000円ワインの民(たみ)。ワインは週に約5本(休肝日2日)、夫婦で1本を分けあって飲みます。2021年J.S.A.認定ワインエキスパート取得、2022年コムラードオブチーズ認定。夫もワインエキスパートを取得、現在はWSETLevel2を英語で挑戦中の、ワイン大好き夫婦です!

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