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俺の萌えを読め小説「あのアイドルグループの妹キャラ担当は俺の姉です」

「え!?私だけですかぁ!?プリンには絶対マヨネーズかけますよねぇ〜!?」

「みゆみぃ〜、嘘アカンてぇ!なんやねん!プリンに醤油は聞いた事あるけど!慎吾ママでもためらうで!ナハハハ!」

「えー!嘘じゃないですって!美味しいですよぉ〜!」

「すみませんウチの子が…。ほんっとこの子バカ舌で!」

「りさぽんひどいよぉ〜!ツインテチョップ!ツインテチョップ!べしべし!」

「はいはい痛い痛い、小学校でお友達とやってねそういうのー」

「ひっどーい!みゆみぃ、もうすぐ高1なんですけど!」

「ねぇねぇ、プリンにかけるマヨネーズは、カロリーオフ?」
「お前は何言うとんねん!」

ワハハハハハハハ!

「今週はここまで!最後にみゆみぃ一言!」

「テレビの前のお兄ちゃんっ!プリンにマヨネーズ、か・け・て・み・て?」

「オエーッ」
「ちょっとーーー!!」

『次回はカバンの中身㊙一斉捜索スペシャル〜!』


毎週土曜夜11時15分 我が家のリビングのテレビではこの番組「アイモメのバラエティおまかせください!」をリアルタイムで見るのがルーティンとなっている。

アイモメ、とは「アイラブユー モーメント」の略で、大体世間はそう呼んでいる。
10人組で、たまーに音楽番組に出たり、有名アイドルプロデューサーが手がけてることもあって、まあまあの知名度はある女性アイドルグループだ。

「美結、今日結構出番あったんじゃない!?」
「......…そうだなあ。」

ソファに並んでテレビを見ていた両親が色めきだっている。

「あらおやすみお父さん」
「.....…おやすみ」

トンットンットントン…

親父が階段を昇る音が遠くなっていく。親父はこの番組を見終わった瞬間に寝室にいき即就寝する。いつもは仕事から帰ってきて飯食って風呂入って22時ごろに寝る、親父の活動時間がこの日だけ延長されるのだ。寡黙な親父だが、階段を上がる音がなんか上機嫌な気がした。

「お母さんも寝るわぁ、翔ちゃん明日起きれんのぉサッカー部ぅ」
「もう寝るよ流石に」

姉のことはもう自立した長女。
俺のことは中2のサッカー部。

おせっかいを残して母は寝室に向かっていった。

テレビからCMが流れている。
「アイラブユー モーメント 7thシングル  "愛されるより走り出したい、夏、それと秋も"  好評発売中ーーーー」

10人の制服姿のアイドルが、晴天の屋上で踊っている。

そのフォーメーションの1番後ろの列で踊ってるツインテールのアイドル、

さっきプリンにマヨネーズをかけるとかで司会のお笑いコンビにイジられていたアイドル、

グループの中で最年少、グループの中で妹キャラを担当してるアイドル、

何を隠そう、俺の姉である。
丸山美結、通称みゆみぃ。
"あざとい"キャラと底抜けの明るい笑顔で、メンバーからもファンからも妹のように可愛がられている、それが俺の姉である。

姉はというと、和室にある"もう1個のテレビ"、テレビを買い換えた時に和室の方に"降格"になったテレビにヘッドホンをして自分が出てるテレビを真剣に見ていた、はずなのだが、いつの間にか畳に膝をついて、まるで財布と携帯を落としたかのような見事な「OTL」の姿になっていた。Tシャツと短パン、完全なる部屋着で。

「うぐーーーーっ」

顔だけ下を向いているが、猫が伸びをするように腰を突き上げ、絞り出すように呻き声を上げているのが、さっきまでテレビに映っていた俺の姉だ。

「カットされすぎている.…。」

畳に吸い込まれている声がもごもごとこちらに聞こえてきている。

「私の激辛萌え萌えじゃんけんのとこは?私と萌歌の喧嘩のくだりは?早織の水晶占いのとこ長すぎない?あぁァ〜やっぱあそこで私がツッコミ入れてたら違ったのかなーあとあの日は雨でどうしても前髪の調子が悪くてそれとコンニャクマンさんにハマってないよなぁそれとあと」

ぶつぶつぶつと恨み節を畳に向かって解き放っているのが、先程までテレビに映っていた俺の姉だ。
ディレクターがどうとか、もう何を言っているのかもわからない。

「もっとグイグイいかなきゃ〜..…」

まあこの反省のお時間はいつものことなので、俺はリビングのソファに寝転がりスマホをいじっていた。アイモメの熱心なファンである同級生の島田からLINE通話がかかってきてたので出た。

『うす!今日もお前の姉ちゃん面白かったわ〜!りさぽんとホントの姉妹みたいだよな!ということはお前はりさぽんの義理の…ちょっと待てお前!もうこれ以上カルマを増やすな!うらやま死刑…うらやま死刑だお前は!まあ俺のにゃおりたそには指1本、大気1ヘクトパスカル近づけやしないけどな!それと」

切った。
まさにオタク特有の早口。いつもこんなような一方的な感想を送り付けてくる。
大気の単位はヘクトパスカルで合っているのか分からないが、姉に対するアイドルオタクたちの評価はいつも、「面白い」だった。

弟が言うのも気色悪いが、客観的に見て、姉は顔は悪くないし、勉強もできるし、運動神経は少し悪いけど、アイドルを名乗る説得力のようなものはあると思う。
子供の頃から歌が好きみたいで、しょっちゅう聞かされてた。

聞けといわれ歌の練習、
見てろといわれダンスの練習、
笑えといわれトークの練習、

姉は、常に俺より上の努力している。
ゆえになんだか逆らえない性分が昔から芽生えている。

そんな姉だ。

アイドルのフォーメーションはセンターに近づけば近づくほど人気や実力の証とされる。

姉のポジションは常に1番後ろの列の端っこ。
人気もそこそこ。

その鬱憤を晴らすかのようにバラエティで前に出た結果、すっかり「バラエティ担当」となっていた。

そんな姉に対する世間の評価は「面白い」だ。


「お茶ぁ」

とかなんとか考えてるうちに和室からか細い声が聞こえてきた。

「え?」

「お茶ぁ!」

語気を強め、戦闘態勢のピカチュウみたいな甲高い声にうんざりしながら、俺は台所の冷蔵庫に向かい、母特製のルイボスティーを取り出し、棚からピンクのコップを出し、それに注いだ。
このピンクのクマが書いてあるプラスチックのコップは子供の頃から姉専用であり、昔それで水を飲んだ親父が2週間無視の刑に処されていた。

「はい」

テーブルにルイボスティーの入ったコップを置くと、すくっと体を起き上がらせ、キビキビと食卓に接近し、グイとルイボスティーを飲み始めた。

ゴクゴクゴクと聞こえるような一気飲みをして、コンッとコップをテーブルに叩きつけた。

「フゥ」

ひと仕事終えた感じでひと息つくと、姉はソファにぼすんと体を置いて、寝っ転がりながらスマホをいじり始めた。もう俺の陣地は姉のものとなった。仕方ないので2階の部屋に戻ろうとすると、

「この前さぁ、」

「え?」

「アンタの写真、りさぽんに見せたら、めっちゃタイプって言ってた。」

「もういいってそういうの」
姉がよく仕掛けてくる「メンバーの誰かと俺の話になった」系のトラップだ。
だいたいは相当くだらない話か、ウソである。

「やっぱサッカーやってるってのがポイント高いらしいわぁ  」
姉の視線はスマホに注がれていて、ぶっきらぼうな様子で魅力的な言葉を投げつけてきた。

「マジ.…で?」

「え。ちょ、マジ!?ホントに!?ホントに!?」
今回ばかりはマジかもしれないと脳が判断し、わかりやすくワタワタした。

りさぽんとは、先程姉貴を小学生扱いしていた年長のメンバー、山吹里沙で、グループでも1.2を争う人気メンバーだ。むちゃくちゃ美人。それはそれは。
そこまで熱心なファンじゃないけど、付き合いたいと思うのはりさぽんだ。そんなにファンじゃないけど。
そんなりさぽんが?
やっぱ今やってるサッカーアニメに推しがいるって言ってたからかな!
自分の口角がいやらしく上がるのを感じたその瞬間、

同じく姉もニヤニヤしながら、

「マジでウソー」

語尾にwwwwwwwが羅列してそうな勢いでけらけらと笑っていた。

「マジでテンション上がっちゃったじゃねーか」
また引っかかってしまった。アイドルが自分に好意を寄せているらしいという情報はなぜこんなにも理性を壊すのか。
がっくしとした。

「.........…。」
八重歯が見える口が閉じられ、姉は真顔になってスマホをいじっていた。

「アンタ、りさぽん推しだっけ?」
チラ、とスマホ越しに俺を見ながら聞いてきたので、

「え?いやあの中なら、そうかなぁ。別にそこまで興味」

「りさぽん彼氏いるから」
俺の言葉をシャットアウトするように冷酷に萎えることを言ってきた。

「くふぅ.…」
いやそんなにもファンでもないけど、非常に心が萎えているのを感じた。そんなにファンでもないんだけど!
「2次元にしか興味ないんじゃね〜のかよ…」

「あ、誰かに言ったらマジで殺す」
「そっちが勝手に言ってきたんだろ…」

チッ、チッ、チッ、

返答はなく、
テレビもつけてない静かなリビングで、時計の音が時を刻んでいた。

「みんな…嘘ばっか…」
姉が呟いた。
なんだか、ひどく疲れていたような気がした。
見つめているのはスマホだけど、そのもっと向こうを見ているというか。
「みんな、すごいよ...…」
なんか、姉が、すごい遠くを見つめているような気がした。

「...…」

とんでもない八つ当たりを受けたし、俺はもう部屋に戻ろうと思ったが、

「.…プリン、入ってるよ」

「...…」

「冷蔵庫にある」
背中越しの冷蔵庫を指さして、リビングのドアを開けようとした。

「取りなさい」

取りなさい?
取りなさいって言った?

「プリン食べたいから取りなさい。姉命令。トップアイドル命令。」

トップアイドルじゃねぇだろ、とか言ったらあっちがプッチン来そうだったんで、

「はぁ.…」
ため息をついて、俺は冷蔵庫に入っていた3個セットのプリンのビニールを破って、プリンを取り出した。

「はやーーーく!!」

ぼすぼすとソファを叩く姉の声が聞こえる。

俺はソファの前のテーブルにプリンとスプーンを置いた。すぐさま姉はプリンとスプーンをガッと寄せて自分のものにした。



「ちょっほ、はれは?」
かなり気の早いことにスプーンを口にして、プリンのふたを開けながら聞いてきた。もごもごと。

「あるよ」

マヨネーズをテーブルに置く。

すると姉はドバドバとマヨネーズにプリンにかけ始めた。
そこにスプーンをいれ、見た目はプリンアラモードのマヨネーズがけプリンを口にした。

「んまっ」

俺の姉であるアイドルは、嘘をつかない。

「これは明日レッスンがんばれるぞ〜」
さきほどのテンションはどこへやら、ゲテモノをもぐもぐと頬張る姉。

そんな姉の姿を見ていると、サッカー頑張ろうと少しだけ思うのはここだけの話だ。




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