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頭の中をインドに変えたら、新しいおいしさと楽しさに出会えた


頭の中をインドに変えて、作らなあかんとわかりました。


2年前の秋。2日間のスパイス教室最終日、実習で作ったカレーを食べ終えチャイを飲みながら、受講生が一人ずつ感想を述べた。私はカレーを作っていた時、ハッと気づいたことを伝えた。「なるほどねえ。頭の中をインドに変えるね」生まれた時から、頭の中も外側もインドと日本がブレンドされた講師(今も私のスパイス料理師匠)は、面白いねえと微笑んでいた。

「火は弱めない!」

それは2時間前の実習の時。グツグツ大きな音を立てるフライパンの中を覗きこみ、私と隣の女性は不安になっていた。フライパンを強火で熱して、ホールスパイスを入れる。大きめのみじん切りにした玉ねぎ、すりおろしたニンニク生姜、それらを入れた後もずっと強火のまま。ざく切りにしたトマトを入れた時「弱火にして煮るのかな」と今までの料理経験上そう思ったが、「強火のままね」と講師に言われた。5分ほど経った頃。

「このままでええんかな?」
「焦げないのかな?」

どきどきしながらカセットコンロのつまみを触ろうとした私たち二人に、

「火は弱めない!」

と講師の声が飛んできた。

不安になりながらも、言われるままに強火にしていた。しばらくしてトマトの水分がとび、ペーストができた。ここでようやく弱火にしてパウダースパイスを入れた。一口大に切った鶏肉を入れざっと炒め、少しずつ水を入れる。鶏肉に火が通ったら出来上がり。

ぶりを使ったフィッシュカレー、キャベツのサブジ、じゃがいものサブジ。講師とアシスタントさんに教えてもらいながら、受講生全員で作ったカレープレートが完成した。

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まずは自分たちが作ったチキンカレーをひとくち。

「美味しい」
「お店の味だよね」
「今まで食べに行った、インド料理屋さんのランチより美味しいかも」

どきどきしながらフライパンを覗いていた私たちは、美味しさに驚いた。

「ぶりさ、ちょっとしか煮込んでないのに、ちゃんと火が通ってしっとりしてて美味しいよね」

フィッシュカレーを作っていた人たちも、驚いていた。

カレーなら、子どもの頃から作ってきた。玉ねぎ、にんじん、じゃがいも、牛肉を煮込んでカレールーを入れた、ごく普通のカレーライスだ。いろんなレシピと出会い、その度により美味しくなるようにとアレンジしてきた。玉ねぎは弱火でじっくり炒めるものと思い込んでいた。トマトは炒めるのではなく、煮込むときに入れるもの。それが美味しいと思っていた。でも、スパイスを使ったインドのカレーは違っていた。

そうか。このカレー作る時は、今までの私の頭で作ってたらあかんわ。
頭の中をインドに変えて、作らなあかん。

久しぶりのカルチャーショックだった。でも、そのショックすら楽しかった。新しいことが始まる予感がして、ワクワクしてきた。

それからの私は、台所でひとりスパイスを使ってカレーを作ることが増えた。基本のスパイスなら大量に台所にある。7年前に結婚した夫は料理好きで、スパイスカレーも得意。独身時代は友人を自宅に招いて、自慢のカレーを振る舞うことも多かった。「大量に買うた方がお得やねん」と結婚してからも1キロのクミンやコリアンダー、ターメリックなどを買っていた。だが、使いきれずに全てのスパイスが半分ほど残ったまま。「家にある大量のスパイスを使いたい」という目的で受講したスパイス講座だったが、その後気がつけば家にあったスパイスは私が使い切り、目的は達成できた。「僕が作るより美味しいな」とスパイスを買った本人は、カレーを作らなくなってしまったが。

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あれから2年。毎月スパイスカレー教室に通い、気になったレシピ本を買っては家で作り、友人たちにも振る舞ってきた。気になるスパイスカレー店やインド料理店でプロの味も楽しみ、「へー。こんな食材入れるんや」とアイデアをもらった。「イベントでスパイスランチ作ってくれない?」とお誘いをいただくようにもなった。そんなことを繰り返してきたら、頭の中を変えようと思わなくても、自分の手が感覚を覚えて作れるようになってきた。強火で玉ねぎやトマトを炒めることも平気だ。そして最近、新たな楽しみが加わった。

今まで習ってきたスパイスカレーをアレンジしてみる。


先日、ずっと気になっていたこれをカレーに入れてみた。

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白味噌。カシューナッツペーストや生クリームを入れるところ、白味噌に変えて作った根菜カレー。美味しかったので2度目はこれを入れてみた。

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自家製ゆず味噌だ。

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ひと口食べるとふわりと柚子の香りがして、スパイスも味噌もお互い邪魔をせず仲良く手をつないでいる味になった。カレーに入れた野菜も、里芋、れんこん、かぶと日本の冬野菜。筑前煮やけんちん汁で馴染みの野菜も、スパイスカレーで新しい美味しさになった。

毎年寒い時期に作って食べるこちら

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ぶり大根もスパイスカレーにしてみた。

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スパイスから作ったルーに、下茹でして入れた大根とぶりを入れてさっと煮る。仕上げにヨーグルトを入れるので、和食のぶり大根とは全く違う料理になるが、おいしいカレーになった。

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子どもの頃から、仕事で帰りが遅くなる母の代わりに台所に立ち、家族に晩ごはんを作ってきた。そうして40年、ごはんを作り続けている。毎日料理をしていて楽しい日ばかりではない。毎日の料理が、自分も家族もおいしいと思えるものばかりでもない。自分も家族も食べ慣れた料理が食卓に並ぶことが多い。そんな日々に、スパイスを使ったカレーやインド料理は、私に作る楽しさを、家族に新しい美味しさを教えてくれた。そろそろスパイス使ったもの食べたいなという日、私はうきうきしながらレシピを探す。そして夕方になるとおっきなフライパンに火をつける。フライパンの中からスパイスの香りが飛び出して広がる。

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そうそう。スパイスの香りをいちばん味わえるのは、実は作っている私。スパイス料理は家族でなく、作る私にだけ、ちょっと余計にその美味しさを味わせてくれる料理でもある。さあ次はどんな食材を使って、どんなスパイス料理を作ってみようかな。


美味しいはしあわせ「うまうまごはん研究家」わたなべますみです。毎日食べても食べ飽きないおばんざい、おかんのごはん、季節の野菜をつかったごはん、そしてスパイスを使ったカレーやインド料理を日々作りつつ、さらなるうまうまを目指しております。