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スクールバス

死者は見た目から生者と違う姿であるとか、
死者の動きは生きてる人間のそれとは違うから見ればわかる、とか聞きますが、果たしてそれは真実でしょうか?


特別支援学校で勤務した頃のお話です。

特別支援学校は障害のある児童・生徒の通う学校で、現在では名前くらいは知っている、特別支援学校がどんなものかは聞いたことがある、という方も多いのではないでしょうか。

特別支援学校も様々で、障害の区分に合わせて、通う児童・生徒さんも分かれています。
私の弟は重度の知的障害がありまして、私は幼い頃から、知的障害の特別支援学校をよく知っていて、また、様々なご縁から勤務もしていました。

特別支援学校は、一人通学できないお子さんのためにスクールバスを運行しています。
私が行った特別支援学校も、地区全体をカバーするため、たくさんのスクールバスが走っていました。
バスは、長く乗車する子で1時間近く乗っています。

ある時、職員朝礼で、小学部の児童が亡くなったという報告がありました。
病気ではなく突然死だったそうです。
気道が狭かったり、持病が合ったり、特別支援学校に通う子どもには障害と併せて何かしらある子も居ました。
そのため、勤務している中で、一人二人亡くなった話は聞くものでした。
ですから、該当学年担当ではなかった私は、その時も他人事のように「ああ、悲しいな。」と思った覚えがあります。

数週間が過ぎ、気になる話を聞きました。
スクールバスの乗車人数が合わないことがあったそうです。

スクールバスが学校を経つ時には、必ずバス添乗員が人数確認をします。
それが、一台だけ合わない。
数え直せば人数は合うので、添乗員がそそっかしいだけ、と私は思いました。

でも、該当学年の教師の一人が、教えてくれました。
「亡くなった児童が乗って来るんだって。」
聞けば、同じコースに乗車する児童の2、3人が『○○ちゃん、一緒だった。』と言うのだそうです。

児童が亡くなったことはすでに伝えていたけれど、障害のある彼らが死を理解しているかは分かりません。
そんな理由もあってか、その子が乗車していても、彼らは怖がることなく、普通に接しているようなのです。
そして、亡くなった児童は、以前と変わらずにバスの中で他の児童達と遊びながら、登下校を繰り返すらしいのです。

また、「バス停に着いてもお迎えが来ないから、降りられなくて可哀想。」なんだそうです。
そんなことを、児童達は他愛もない会話として、学年の教師に話していたのでした。

「これ、亡くなった児童の親御さんに言ったほうがいいのかな。」
「言って、喜ぶと思います?」
そんな会話を交わし、その件はうやむやになり、いつしか消えていきました。

学年の上がる頃には、そんな話は児童からも聞かれなくなりました。

亡くなった子がどうなったかは、大した力もない私には分かりません。
ただ、その後、バスの乗車人数も合っていましたし、無事に降りられたんだと思います。

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