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北海道の609号室


昨年の11月に、友人と2泊3日の予定で北海道へ旅行に出かけました。

仕事の関係で、初日は札幌に着いたのが20時になっていました。

当初の予定では、初日はススキノに遊びに行くはずだったのですが、連れがあまり気乗りしない様子でしたので、初日は明日以降の予定を立てることにして、ホテルで軽く飲むことにしました。

コンビニで色々買い込んで、部屋で飲みながら明日の計画を話していたんですが、そのうちに夜も更けたので、私が先にお風呂を使わせてもらったんです。

上がってくると、すでに友人は寝ていました。だいぶ深い眠りなのか、ガーガーといびきを立てて。

ツインの部屋だったんですが、友人は風呂場に面する壁側のベッドに寝ていました。

私は旅行では、壁側で寝かせてほしいと友人に約束していました。

寝相が悪いとか、朝が早くて支度したりしてガサガサするから……とか、色々理由をつけているんですが、本音は「お化けが見えたら嫌」だからです。

それなのに、友人がそんな様子で高いびきで寝ていましたので、腹立たしく感じながらも起こすのは我儘かと思い、仕方なく窓に近い方のベッドで寝ることにしました。

12時を過ぎて、私がやっとうとうとし始めた頃、部屋のカーテンが揺れました。

『あれ、窓開けたっけ?』と思う間もなく、明かりのない部屋の中に黒い人影が入ってきたのです。

「あ、泥棒だ!」と一瞬にして思いました。

以前、とある地方に旅行に行った際には『窓からの出入りはしないでください』と書かれた貼り紙を見たことがありましたし、ホテルによっては別棟の屋上がちょうど窓下くらいの高さで、避難経路として逃げることができたりすることがあるからです。

今回、ホテルに着いたのが遅かったこともあり、すでにカーテンが厚くしまっていたこともあって、私は窓の外を確認しないで横になってしまいました。

そのような複数のことが重なったからの判断でしたが、その影が幽霊でないと思った理由の1番は「自分の身に全く金縛りが起きていない」ことでした。

その影は男の人と思われました。

私は、下手に声をあげて、万が一凶器を持っていて命を落としたら……と考え、もう貴重品など盗まれてもいいから、なんとかやり過ごすことにしました。

私は布団を鼻の上、ギリギリ目が隠れるかどうかまで持ち上げ、寝たふりをしました。

影は部屋の中をうろうろした後、何か気づいたように私と連れのベッドの間を歩いて近づきました。

起きているのがバレるかと思い、私は早鐘をうつ胸を押さえながら、顔を背けるように窓側へ向けようとしましたが、下手な演技しかできず、ほとんど背を向けることができませんでした。

影は、私の顔を覗き込むように顔を近づけました。瞼越しに、その影が見え熱を感じました。

影はジロジロと私を見ていましたが、首を傾げるような素振りをした後、今度は友人の方に向き直りました。

私は薄目を開けて、友人が起き出さないことを祈りながら、影の動きを観察しました。

やがて、影は友人から離れました。そして、首を振るのか、首を鳴らそうとしたのか、そんな動作をしながら、部屋の出入り口の方へ行きました。

ドアの音には気づきませんでしたが、ふと、気配が消え、部屋を出て行ったのが分かりました。

変な話ですが、何だったか確認すべきところを、私はやっときた安堵感で一気に眠くなってしまい、窓や出入り口の確認もせず、そのまま落ちるように眠りについてしまいました。


次の日、窓の外に朝日を感じる頃に目覚めますと、友人が朝風呂から出てきました。

「昨晩こんなことがあったので、貴重品を確認した方が良い。」と話す私でしたが、友人はひどく嫌そうな顔になり「ここ、6階。」と一言だけ返しました。

私は友人の言葉を受けつつ、「6階でも侵入はできるでしょう。」と、厚手のカーテンを開けました。

すると、レースのカーテン越しでしたが、窓の向こうには札幌の街並みが広がっているのが見えました。 隣のビルが隣接することもないことも確認できました。

そして、窓ははめ殺しで、開くことがないのでした。高層階の窓ですし、当たり前のことだったのです。

朝から不機嫌にさせてしまったことを詫び、幽霊だったのかしら、ということで、話はお終いになりました。


人ではない何かは、何を探して、何故その部屋に出たんでしょうか。

どうやら人違いだった、と思ったのか、次の日は全く何も起きなかったので、理由はわかりません。

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