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黄色いおじさん


以前勤めていた学校の第二美術室に、『黄色いおじさん』と呼ばれるモノが居ました。
私が異動してくる以前からそこに居たそうで、中学生の子供達からは
「黄色いおじさんが○○のことを見てる。」
「黄色いおじさんは窓から出入りしてた。」
「黄色いおじさんが変な笑い方してたから、絶対に何かが起きる。怖い。」
などと、あまり良くない目撃情報がチラホラとありました。

ある年、霊が見える子が入学しました。
彼女は、私が霊を信じていたこともあり、比較的私のことを気に入っていたようでした。
本当に普段から見えているようで、私がぼんやりとしか分からないモヤのいくつかについても、年齢、性別、大まかな死因まで、はっきり教えてくれたりしました。

しかし、彼女は私の担当する美術の授業だけは、頑として教室に入ってくれなかったのです。
理由は、使用教室が第二美術室であり、私が授業するたびに、黄色いおじさんが笑いながらちょこんと私の側に座るからとのことでした。
おじさんは怖い人……彼女も、他の生徒と同様の話をしました。

本来であれば教室に入らない時点で問題なのです。
ですが、その子の担任が聞き取りをしたところ、受けたい気持ちは充分あるとのことでしたので、彼女は教室で課題を行う形で、とりあえず決着しました。

ある日、午後の授業前、私は第二美術室で教材準備をしていました。
予定していたダンボール材が数点見つからず、そのため、ダンボールを切って作らなければなりませんでした。

私は60センチ程の長さのダンボールを縦に切り分けました。
厚手の定規を使ってカッターで切りました。カッターの刃は定規を押さえた手を過ぎ、最後まで切り分ける寸前でした。
ですが、何故か最後、ダンボールが柔らかくてカッターがうまく動きません。

一度抜いて、ハサミで切取ろうか。
そう考え、一瞬気を抜きました。
すると、何故かカッターを持つ右手が、定規を押さえていた左人差し指の上まで上がりました。
右手の動きに体勢を崩し、左手が定規を外れました。
そして右手の持つカッターが、もう一度切り取った線を辿るように下まで動きました。

激痛が走り、人差し指の先が薄く、しかししっかりと切り取られました。
私は痛みで、声にならない悲鳴をあげました。
すぐに保健室へ行き、応急処置の後、最寄りの病院へ駆け込み、処置していただきました。

授業に穴を開けてしまい申し訳ない、と思いながら学校に戻ると、何故か職員室の教師たちが、私を変な目で見ています。

私が変な顔をしていると、霊が見える子の担任が来ました。
私は、誰かが授業の代役を詫びると、彼女の担任が言いました。
「黄色いおじさん、出たんだって?」
私は目が点になりました。
聞けば、彼女が、「黄色いおじさんが巳上先生を狙ってる。」と昼休みに言いに来たんだそうです。
彼女は第二美術室に近寄りませんので、担任に託した形です。
担任が急ぎの要件と思わなかった結果、伝言が届く前に私は怪我をしましたが。

その後、私の授業は、次年度からは第一美術室で行うことになりました。
霊が見える子は、普通に授業に参加できるようになりました。

もう、ずいぶん昔の話ではありますが、少し足りない指先を見るたび思い返してしまいます。

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