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二階の部屋

引っ越して来て10数年経つ家の話です。

そこは、都内の繁華街にあるマンションです。
駅近5分、南向き1K、マンション前にコンビニエンスストアがあり、繁華街で多少騒がしい割に、部屋自体の気密性が高く、エアコンの効きが良い物件です。
引越しの時に少し気になったのは、ベランダに出るとすぐ目の前に、ビルとビルの間の狭い隙間が見えることでした。
駅近の割には家賃も相場よりはほんの少し割安の良い物件でした。

引っ越しは、仕事の都合で初冬に行いました。
部屋は広くはありませんが、一人暮らしには十分な広さでした。
私は、そこが長めの造りだったので、ベランダを塞ぐ形でベッドを置いて、ベランダ・ベッド・DIYスペースとリビング、玄関のように分けて使う計画でした。

引っ越しでいろいろと物を買い揃えていたのですが、なかなか買えなかったものがありました。
時計です。
部屋のテイストにあったものを……と探しているうちに日が経ってしまっていました。

生活する上で支障が出るので、とりあえず100均の店で、手頃な掛け時計を購入しました。
時計は、玄関からすぐ見えるよう、部屋の奥、ベランダに出る窓の上に飾りました。

購入して飾った日の夜、寝ていると、部屋の周囲がガヤガヤと騒がしかったので目が覚めました。

遅い時間帯ではありましたが、繁華街の中でもありましたし、隣の部屋や上の階の住人が騒いでいるのだろうと判断して、夢うつつの状態で聞いていました。
すると、そこに『キャハハ』と、子供の笑い声が混じり始めました。
随分遅い時間に子どもが起きているなあ……とぼんやり思いました。

その内に、ダダダダッと騒がしく走り回る音が聞こえ始めました。そして、それがどんどんと自分の方に近づいてくるような大きさで聞こえ始めました。
思いのほか、はっきりとした大きな音でした。
そして、あれ、これはなんだろう?と思うと
ドン!
と腹の上に、何か重いものが落ちてくるような強い衝撃を感じました。

何が起きた?と思う間も無く

ドンドンッ、ドンドンッ!

仰向けで寝ていた私は、鳩尾とへその下あたりに続け様に強い衝撃を受けました。
息が止まる程の衝撃でした。

私が痛みと苦しさで身を縮こまらせると、また、『キャハハハハ』と子供の笑い声がして、バタバタと走り去っていく音が聞こえました。

私はびっくりして飛び起きました。
部屋は真っ暗でした。寝る前に電気を消したのだから当たり前でした。
私は部屋の電気を点け、恐る恐る玄関を確認しました。
寝る前に戸締りを確認したように、チェーンも鍵もかかっていました。誰かが出入りした様子はありません。
寝る前とは何も変わったところはありませんでした。

けれど、暖房は一切入れていないのに、何となく生温いような、息苦しさを感じる空間。
熱いというか、ゼリーのようなねっとりとしたものに包まれているような空間の中にいるのは分かりました。

この状態をどうして良いのかわからず、とにかく、誰かに電話をしようと部屋に戻った時です。

電話をかける前に時間を確認しようと、掛け時計を見てハッとしました。
ああ、これだ。これが原因だ。
自分の中で何かスッと理解できたというか、納得するものがありました。

私は、気持ちが駆られるままに、急いで時計を取り外しました。
外すと、ストンと自分の気持ちが落ちたのを感じました。
けれど、状況が変わるわけではなく、ただただ生温い空間の中、そのまま朝を迎えました。

家族に相談したところ、「寝ぼけて夢でも見たのだろう。」とあしらわれてしまいました。
友達に相談したところ、「また、バカな戯言を」と冗談と取られてしまいました。

結局、自分で何が起きたかを考えるしかなかったのですが、私が出したのは、この部屋には「霊道」が通っていたのだろうということでした。

その家の玄関からベランダ、そしてベランダの目の前にあるビルとビルの隙間。それらは道になっていて、人ではない何かが通っていくのだろう。

そこへ引っ越して来た私が、掛け時計を付けた事で道を塞いでしまい、出るに出られなくなった霊達が溜まってしまったのだろう。
そう判断しました。

その後、掛け時計を外した後の部屋は、しばらくの間は電気を点けたまま寝るようにしていましたが何事も起きませんでした。

その後も、掛け時計をつけなければ、大きな霊障はほとんど見られなくなりました。

今は、多少の囁き声とお節介なお手伝いがありますがお互いに共存できているので、私は今もそこに住み続けています。


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