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なぜ商業誌の著者が技術書典などの同人誌即売会で同人誌を頒布するのか?

最近、ITに関する同人誌即売会が話題になっています。技術書典や技術書同人誌博覧会(技書博)など、技術書に特化したものに多くの人が集まっています。
前回の技術書典6では1万人を超える人が来場し、460を超えるサークルが同人誌を頒布したそうです。

そんな中、私のように商業誌の著者も同人誌即売会に参加し、同人誌を作成し、頒布しています。商業誌の方が多くの人に届けられるのに、なぜ同人誌即売会に参加するのか、私見を書いてみようと思います。
(あくまでも私見なので、他の著者の方がどう考えているかはわかりません。)

商業誌の現状

「本が売れない」ということがよくニュースで取り上げられています。しかし、コンピュータ書に関しては売上の低下は一段落したという見方もあります。次の記事を見ると、書籍の売上は12年連続で下がり続けている中、「コンピュータ関連の書籍の売上冊数は、3年連続で伸び続けている」とのことです。

私が商業誌の執筆に関わってからまだ4年ほどなのですが、それほど悲観する状況ではないかな、という感覚です。昔と比べて発行点数は増え、競合が多くなっていると感じていますが、売れる本はそれなりに売れています。

商業誌著者としての現状

このような現状の中、商業誌を書き始めて4年ほどの間に私は10冊の本を書いてきました。それなりに売れた本もあり、ITに関わっている人であれば1冊くらいは表紙を目にした本もあるのではないかと思っています。

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実際、書店でも私の名前を出したフェアを開催していただけるようになりました。

・ハッキングとセキュリティフェア(ジュンク堂書店池袋本店)

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・増井敏克フェア(MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店)

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それなりに商業誌でも本を出せるようになってきた中で、なぜ私が同人誌即売会に参加するのか、その理由のうちメリットの部分を紹介します。

同人誌のメリット1:読者と直接コンタクトできる

商業誌を書いていると、ほとんど見えないのが読者の存在です。それなりに売れているとしても、どのような方が購入していただいているのかまったくわかりません。年齢、職業、性別、その他読者の情報が著者の想像でしかないのです。これが、執筆するときに想定していたペルソナと一致していればいいのですが、まったく違うかもしれません。

もちろん、Amazonなどでのレビューや、Twitterなどでの投稿を見ると、どのように読んでいただいたのか雰囲気をつかむことはできます。しかし、多くが匿名ですし、その方のバックグラウンドが見えることはほとんどありません。

しかし、同人誌即売会では読者を目の前にして会話できます。そして、本を手にとってもらって、どのようにページをめくっているのか、どこに注目して買っていただいているのか、その雰囲気が手に取るようにわかります。直接感想をいただくこともあり、次の執筆のときの参考になり、励みにもなります。

同人誌のメリット2:商業誌で出せない本が出せる

商業誌ではなかなか出せない本というのがあります。そもそも需要が限られている本の場合、出版社も営利事業のため、売れない本を出すわけにはいきません。きちんと企画を立て、出版社の会議を通せるだけの根拠を持って承認を得る必要があるのです。

また、企画が面白そうであっても、その出版社から他の著者で近い内容の本が出る場合があります。この場合、競合を避けるために企画が通らないこともあります。つまり、内容よりもタイミングの問題で、出版に至らないこともあるのです。

同人誌の場合、これらの問題をクリアできます。著者が出したいと思ったタイミングで、出したいと思った内容で本を出せるのです。ITに関する書籍の場合、タイミングは非常に重要です。旬を過ぎると必要なくなる本もありますし、内容があっという間に古くなってしまいます。これは同人誌ならではのメリットです。

同人誌のメリット3:自分で執筆から印刷まで体験できる

商業誌の場合、著者にできることは執筆のみです。もちろん、校正にも参加しますし、出版後は書店を回って営業活動をすることもできます。しかし、本を作るという作業には、表紙をデザインし、本文のレイアウトを考え、図版を作成し、校正、組版、印刷までさまざまな工程があります。

同人誌の場合は、これらの作業をすべて自分でできるのです。もちろん、自分の専門外の部分を専門家に任せられるというメリットが商業誌にはあるのですが、工程の最初から最後まで関わることに興味があるのはITエンジニアの性かもしれません。

同人誌のメリット4:他の著者とのつながりができる

商業誌を書いていると、基本的に自分ひとりでの作業になります。実際、本を書いているだけでは他の著者とのつながりはほぼありません。情報交換をすることもなく、お会いしたことすらない人がほとんどです。

しかし、同人誌の場合、同人誌即売会に行くと、他の著者と近くで会話できます。「著者」という同じ立場で自分たちの本について会話するのは新鮮なものです。そして、最近はいくつかの勉強会もあり、気軽に情報交換ができるのも楽しいものです。

同人誌即売会でのメリット:書店に来ない人に本を届けられる

同人誌を頒布してみて思ったのは、書店に来ない人がたくさんいることです。私は商業誌を会場で特別価格で頒布することが多いのですが、その場ではじめて私の本を見る人は少なくありません。

書店に行けば平積みされているような本でも、まったく見たことがない人がたくさんいるのです。おそらく、普段はAmazonなどで書籍を購入していて、書店に足を運んでいない。このため、興味を持った分野以外の本にはまったく触れていない人たちがいるです。

このような人に商業誌を届けるのは至難の業です。相当な大ヒットをしない限り、目に触れることなく終わってしまう本があります。しかし、同人誌即売会という場があれば、そこに足を運んでもらうことで本に触れてもらえる可能性があります。

これは同人誌の著者にも当てはまります。「自分が書きたい」という思いが強過ぎると、市場調査もせずに書いてしまうことがあります。書店に行けば類書があるにも関わらず、それを知らないために似たような内容の本を書いてしまうことになります。これを避けるには、商業誌であっても露出を増やす必要があると感じています。

最後に

ここまで書いてきましたが、同人誌を書くにあたってお金のことはほぼ表面に出てきません。
正直なところ、お金の面でのメリットは商業誌、同人誌ともにそれほど変わりません。実質的に、相当な人気サークルでもない限り、同人誌だけで生活をするのは困難だと思いますし、これは商業誌でも同じです。

また、同人誌即売会で商業誌を頒布するのは、お金の面でのメリットはほぼありません。(私の場合、出版社から著者割引で購入し、ほぼそのままの価格で頒布しているので、参加費などを考えると赤字…)

タイトルにある「なぜ商業誌の著者が同人誌即売会で同人誌を頒布するのか?」を考えると、答えはシンプルで「楽しいから」となるのかもしれません。
ぜひ著者が楽しんでいる技術書典にお越しください!

私は以下のような内容で頒布しています。

https://techbookfest.org/event/tbf07/circle/5682501179670528

お品書き


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