WHY脱プラ?~海洋プラスチックゴミの現状と問題点~
【はじめに】
この記事は、プラスチック問題の現状と問題点を整理することを目的にしています。
レジ袋の有料化も決まり、脱プラスチックの機運が世の中で高まっています。しかし、実際のところ、「プラスチックって何がそんなに悪いの?」「ちゃんと捨ててればOKなんでしょ?」という疑問を持たれている方も多いように思います。
本稿では、プラスチックゴミ問題の現状と、なぜ問題視されているのか、簡単にご説明したいと思います。
【プラスチックの特性】
プラスチックの問題を語るには、まずプラスチックが自然界で極めて分解されにくいものだということを認識する必要があります。
ある調査によると、ペットボトルが自然界で分解されるのにかかる年月は約400年と言われています。
(海洋ゴミが分解されるまでの年数。出典記事はこちら)
植物や動物に由来するものは、自然界に放出されれば基本的には分解者と呼ばれる小さな虫や微生物が分解し、土などに還りますが、人工的に作られたプラスチックは長い間そのままです。
(まぁ長~~~い目で見れば石油も生物由来なので、プラスチックも生物由来と言えなくもないですが…)
つまり、今の生産ペースだと出せば出すほど基本的には自然界に溜まっていくということになります。
★ポイント
・ペットボトルなどは分解に400年かかる。
・出せば出すほど環境中に溜まっていく。
【プラスチックゴミの現状】
現在、世界のプラスチックの生産量は年間約4億トン、レジ袋だけで年間5兆枚だそうです。そのうち、年間500万~1300万トンが毎年海に流出していると言われています。
有名な話ですが、2050年には海洋のプラスチックゴミの量は魚の量を越えるといわれています。
ちなみに、日本の人口一人当たりのプラスチック容器包装の廃棄量はアメリカに次いで世界第二位です。生産量においても世界第三位となっています。
ただし、日本は比較的ゴミ捨てのマナーが良いので、廃棄量が多いからといって海洋汚染への寄与度も高いとは言い切れません。では、プラスチックゴミの海への流出量の多い国は、どこなのでしょうか?
2010年の推計では、排出量の多い国はほぼアジアに固まっています。一位が中国、二位がインドネシア、アメリカが20位で、日本は30位となっています。
(出典:環境省(2019)プラスチックを取り巻く国内外の状況)
こうして見ると、日本の寄与度はそこまで高くないように見えますが、日本がプラスチックゴミを中国や東南アジアに大量に輸出してきたことを考えると、上位の国のプラスチックがもともとは日本由来ということもあるかもしれません。
ちなみに、日本近海には微細なプラスチックの欠片であるマイクロプラスチックが非常に多く、世界の海の平均の約27倍の密度でマイクロプラスチックが存在していると言われています。
★ポイント
・世界のプラスチック生産量は年間4億トン。
・年間500万~1300万トンが毎年海に流出。
・日本のプラスチック廃棄量は世界第二位。生産量は第三位。
・海へのプラスチックゴミの流出量が多い国は主にアジア。一位は中国。
【プラスチックの問題点】
さて、プラスチックが増え続けているのは分かりました。しかし具体的にどういった問題があるのでしょうか。ここでは4つの問題点を概説します。
【問題点1 海洋生物への危険性】
魚より多くなるほどのプラスチック、当然海洋生物への影響もあります。例えば、ウミガメがクラゲと間違えてビニール袋を食べてしまう、海鳥やウミガメ、アザラシなどが漂流した漁網に絡まる、などです。
これまでに少なくとも600種以上の生物について、海洋プラスチックゴミの絡まりや取込みによる被害が報告されています。
(漂流した漁網に絡まったウミガメ。出典記事はこちら)
加えて、近年マイクロプラスチックによる危険性も懸念されています。2015年に東京湾で行われた調査の結果では、64匹のイワシのうち8割近くの内臓からマイクロプラスチックが検出されました。
基本的には飲み込んだプラスチックは吸収されずに体外に排出されるため、どれほどの影響があるのかはまだはっきりしていません。ただ、プラスチックには様々な有害添加物が加えられているため、それらが溶け出して体内に蓄積し、悪影響を及ぼす可能性があります。
また、マイクロプラスチックは環境中の汚染物質を吸着する性質があるため、それらを取り込んでしまう恐れがあります。
こちらに関しては、研究室環境での高濃度のプラスチック汚染状態では悪影響が確認されており、今後自然界において濃度が高くなった場合に悪影響が表れ始める可能性があります。
★ポイント
・600種以上の動物が海洋プラスチックゴミの直接的な被害にあっている。
・飲み込んだプラスチックは基本的には体外に排出される。
・プラスチックに添加された化学物質や、吸着した汚染物質により悪影響が生じる恐れがある。
【問題点2 人体への影響】
では人への影響はどうでしょうか?
マイクロプラスチックに関しては、Orb MediaというNPOの調査によると、259本の飲料水ペットボトルのうち93%からマイクロプラスチックが検出されました。
(*検査方法の信憑性について若干疑義があるとの意見もあるようですが)
しかし、基本的には体内に取り入れたプラスチックは排出されるので、現状レベルでは人体に影響はないとWHOは発表しています。
実際のところ、ペットボトルに限らず、食卓塩の90%からも、山奥の雨水の90%からも、小魚からも海鳥からもマイクロプラスチックは検出されているため、世界のどこにいても普通に生きているだけである程度のマイクロプラスチックは摂取していると考えて間違いないでしょう。
それで大丈夫なのか、という問いについての答えは、「まだはっきり分かりません」という状態です。
現状の研究結果は、例えば、マイクロプラスチックには環境中の汚染物質を吸着する作用があって、研究室環境下で汚染物質を吸着させたマイクロプラスチックをメダカに与え続けると、肝臓に異常をきたす、といったものです。
また、プラスチック片が吸着した汚染物質が生物濃縮の結果、人体に蓄積するという恐れもあります。
(プラスチックに係る生物濃縮。出典記事はこちら)
ただし、自然環境下でどの程度影響があるか、人体にどの程度影響があるかははっきりしません。
それをはっきりさせるには、人体実験を実施して汚染物質を吸着したマイクロプラスチックを大量に摂取し続けてもらう、というのが手っ取り早いですが、そうもいかないでしょう。
★ポイント
・ほぼすべての人がマイクロプラスチックを摂取している。
・マイクロプラスチックの摂取による人体への悪影響は不明。
・生物濃縮によって濃度が濃くなると悪影響が生じる恐れがある。
【問題点3 経済的問題】
この点には焦点が当たらないことも多いのですが、プラスチック問題は経済の問題でもあります。2018年にOECD(経済協力開発機構)が発表した報告書によると、海洋プラスチックゴミが観光や漁業にもたらす悪影響などの損害が年間約130億ドル(約1兆4千億円)に上るとされています。
観光資源で成り立っている国も多いため、そうした地域にとっては重要な問題です。
(プラスチックゴミに覆われるバリ島のビーチ。出典記事はこちら)
ゴミだらけの海には、行きたくもないですよね…
★ポイント
・海洋プラスチックゴミが観光や漁業にもたらす損害は年間約130億ドル(約1兆4千億円)。
【問題点4 気候変動への寄与】
プラスチックは化石燃料から作られているため、焼却処分しても、他の手段で分解された場合でも、化石燃料と同様に二酸化炭素を排出します。
2014年のエレンマッカーサー財団の報告によると、世界の石油の6%がプラスチックに使われているとされています。
また、World Economic Forumの報告書によると、2050年には石油消費の20%がプラスチックに使われるといわれています。
さらに、ハワイ大学の研究により、海洋プラスチックは太陽光にさらされ続けることで、メタンやエチレンといった強い温室効果を持つガスを放出することが明らかになりました。
現在どの程度の温室効果ガスが海洋プラスチックから放出されているか、全体像は分かっていませんが、プラスチックを生産すること自体が気候変動に寄与する原因になることは認識しておく必要があります。
★ポイント
・現在世界の石油の6%がプラスチックに使われている。
・2050年には石油の20%がプラスチックに使われるかもしれない。
【ちゃんと捨てれば問題ない?】
海洋プラスチックゴミの問題について、「要はちゃんとゴミ箱に捨てればOKでしょ?」という意見をよく耳にします。
こういった意見が出るのは当然だなぁと思います。
前述のとおり、海洋プラスチックの海への流出が多いのは途上国が主で、ポイ捨てが非常に多く、日本のようにゴミに対するマナーの意識が高くないことが多いです。
では日本においてはゴミ捨てをしっかりやっていれば良いのでしょうか?
先述した温室効果ガスのこともそうですが、ここで認識しておかないといけないのは、「非意図的に」流出してしまうケースです。
例えば、ゴミ捨て場でカラスに荒らされた、大雨でゴミ捨て場のゴミが流された、風で飛ばされた、など、ふとしたことで環境中に流出してしまします。
これまでの人生で、一度もプラスチックを環境中に流出させたことはないと言い切れる人はほぼいないのではないでしょうか。
また、日本は災害大国ですが、災害時には非常に多くのゴミが発生します。東日本大震災時には多くのプラスチックゴミがアメリカの西海岸まで届きました(そして外来生物を一緒に運んでしまいました)。
(西日本豪雨で発生したがれき。出典記事はこちら)
少しの量でも、一度環境中に流出してしまうと、回収・分解できず、自然界に蓄積してしまうのがプラスチックゴミです。
やはり、できるだけ世に生み出さないのが一番でしょう。
★ポイント
・プラスチックが「非意図的」に環境中に流出することがある。
・災害時には特に大量のゴミが流出してしまう。
【終わりに】
これまで説明したように、海洋プラスチックについては、どんどん増えていることは間違いありませんが、それによる悪影響がどの程度なのかはまだ明確ではありません。
気を付けなければいけないことは、「影響の程度が分からない」=「影響がない」ではないということです。
環境問題は関係する要素が多すぎて因果関係がはっきり証明できないことが多くあります。その際に、因果関係が明確に証明できるまで待っていては、いざ問題ありでした!となった時に手遅れになってしまいます。
日本では、この点で今まで散々痛い目にあっています(例:水俣病)。
そのため、後戻りできないような重大な問題(重大かつ不可逆的な影響)が起こる可能性がある場合には、因果関係の明確な証明ができなくても対策を打たなければいけないということが環境問題を扱う上での原則となっており、これを「予防原則」といいます。
過度に不安視する必要はなくても、プラスチックが「重大かつ不可逆な」悪影響を及ぼす可能性をはらんでいる以上、対策を取るべきという姿勢は変わらないでしょう。
*あとがき*
ご拝読いただき誠にありがとうございました。今回は長くならないように思いつつ、4500文字越えしてしまいました…
本当はリサイクルの話やバイオプラスチックの話、各国の対策などもお伝えしようとも思ったのですが、長くなるので今回は現状+問題点としました。またの機会に書ければと思います。
今後もTwitterなども含め発信していければと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。
株式会社マイズソリューションズ 舛田 陽介
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?