ゴスペラーズメンバー分析vol.2「安岡 優」〜献身のヤングライオン〜
さて、前回より始まった愛とカロリー過多のメンバー分析企画。
第1弾は黒沢 薫さんを分析しました。
第2弾はヤングライオンこと、安岡 優さんです。
ゴスペラーズの末っ子担当。
アラフィフになってもそのキャラクターは健在で、揃いの衣装だと半ズボンを履かされがち。
MCやテレビのトークでは軽快な口調で場を盛り上げつつ進行してくれるので、彼がいると場が賑わい、安心する。そんな存在。
本日はそんな安岡さんの魅力を語ってみたいと思います。
1.作詩能力
彼を語るうえで避けて通れないのがここ。
「作詩」を自称するほどこだわり抜かれた言葉選びは、ラブソングとの相性バツグン。ゴスペラーズの楽曲を彩るのに欠かせない要素である。
代表曲は「永遠に」「ミモザ」「青い鳥」「言葉にすれば」等、数知れず。
良い機会なので、一度腰を据えて彼の作詩スキルに言及してみたいと思う。
「永遠に」を例に考えてみよう。
「あなたの風になって 全てを包んであげたい」
サビのこのフレーズ。
我々ゴスファンには脳に入れ墨のように深く刻み込まれたこのフレーズ、改めて考えると結構凄くないですか??
「あなたの風になって 全てを包んであげたい」
なんというか…出てきそうで出てこないフレーズである。
よく考えるとメロディも絶妙なライン。
いわゆる王道バラードのメロディではない。
出発点はユニゾン、低音から首をもたげるように上がり、「風になって」の「て」で複雑な和音を鳴らす。
コード進行、ハーモニーワーク、すべてが絶妙なバランスで成り立っている上にこの歌詞である。でもおそらくこの歌詞こそが、この曲を名曲たらしめている。
ちょっと奇妙なこと言いますが、試しにこのメロディに当てはまるように、何か別の歌詞を考えてみてほしい。
…どうですか?
多分、上手くいかないと思う。
それもそのはずで、この一節、スローな割に音節が少ないので、歌詞を後付けするには非常に難易度の高いメロディなのである。
そもそも、「あなたの風になって」という言葉が出てこない。
言われればニュアンスはなんかわかるのに、自分で絞り出そうとしても一生思いつかない比喩だと思う。
そういえば、過去に「永遠に」の歌詞を制作したときの直筆ノートが何かに掲載されていたけど、度重なる修正と推敲で、ノートは真っ黒だった。あまりに長時間考えて煮詰まりすぎたのか、枠外には仮面ライダーの落書きがあった。
それを見て、「安岡さん自身も直感ではなく、もがいた末にたどりついた珠玉のフレーズだったんだな」と実感した。
疑いの余地なく、彼は努力の作詩家である。
せっかくなので、歌詞のテイストにも触れておきたい。
誤解を恐れず言うと、彼の詩は甘い。まぁ甘い。
さらに彼の声も甘いもんだから、お砂糖たっぷりのドーナツに仕上げにハチミツをかけたようなカロリーモンスターが完成する。
でも、それで良い。
良いのである。
なぜか?
なぜなら、この甘さこそ、歴代の男コーラスグループに脈々と受け継がれてきたR&Bの系譜だからだ。
参考までに、彼らも敬愛するレジェンドボーカルグループ、Boyz Ⅱ Menの大ヒットナンバー、「I'll Make love To You」をご覧ください。
歌詞の内容だが、
「今夜君を愛してあげるよ」
「今夜は特別な夜なのさ」
「さあ服を脱いで」
「決して君を離さないよ」
と、大体こんな感じである。
激甘である。
ただこの曲に限らず、古き良きR&Bを漁れば、こういったテイストの曲はたくさん出てくる。
カバーだけど、これなんかもそうですね。
「素直になれないんだ」
「これから君に尽くすよ」
「君を手放すなんて耐えられない」
「約束するよ」
この甘さよ。
このように、R&Bの源流に目を向けてみると、いつの時代もこういった激甘曲が存在するのに気付く。これらの曲の特徴をざっくりまとめると、
と、こんな感じ。
身も蓋も無い言い方すると、
「女性がただひたすら良い気分に浸れる歌」。
これは、古くはモータウンの時代から受け継がれる、この業界の代表的な1つのテイストである。
聡明な皆様はすでにお気づきだろう。
ゴスもそんな歌多いな、と。
そう、ゴスペラーズは、先人たちの伝統を十分に受け継ぎ、さらに日本人に抵抗なく受け入れられるように工夫しながら、彼ら流のオリジナルラブソングを量産してきた。
「ひとり」なんて、その最たる例だ。
だから「安岡さんは甘すぎる」とか、「そもそもゴスペラーズがバラードばっかり」という批判は、この辺りの背景を見落としていることが多い。
僕は思う。
いやいや何を言っているんだと。
ここをどこだと思ってるんだと。
ここはドーナツ屋ですよ?
そう、ここはドーナツ屋で周りにいるのは無類のドーナツフリーク。
こちとら糖質を揚げて砂糖をコーティングしたものを貪り食うために来てるし、食後に押し寄せる胸焼けに至上の喜びを感じる。もはや手遅れと言って良い状態だ。
ここは、そういう猛者が集まる店である。
この甘みがキツいと思う方は、そもそも店を間違えている。
しょっぱいものが好きなら向かいのラーメン屋に行くべきだったのだ。
こちとら甘いのは大前提で、今日はどの甘みにしようかと悩んでいるのだ。
もちろん甘いだけでなく、しょっぱいのもほろ苦いのも取り揃えているのがこの店(=ゴス)の良いところ。中にはあらやだ、このドーナツ甘いだけじゃなくて少しアルコール入ってる??みたいなこともあり、この店のために遠方から通う婦人客が絶えないのも納得である。
(↓アルコール入りの一例)
脱線しましたね。
次行きましょう。
2.歌唱
彼のリードは、妖艶なねっとりした歌いまわしが特徴。どこか幼い印象を与えるその声には深くビブラートがかかり、メンバーの中では断トツでメロウな印象を与える。
声質・歌いまわし共に、コーラスグループとしてはかなり異質と言ってよいと思う。時折見せる節回しはLUNASEAの河村隆一氏を彷彿とさせる部分もあり、どちらかと言えばV系にいそうなタイプ。言葉を選ばずにいえば、やや癖が強い。
でもそれで良い。それが良い。
「安岡さんの声なんか苦手」という批判も見たことがあるけど、自分は誇張でなく、5人の声質を考えたときに、安岡さんの存在って相当でかいと思っていて。
例えばだけど、安岡さんの代わりに、抜群に上手く、万人受けするボーカリストが加入したと考えてほしい。
CHEMISTRYの両人とか、EXILEのATHUSHIとか。
…どうですか?
なんか物足りなくないですか??
なんていうか、よくできたカレーの隠し味にコーヒーを入れると味に深みが出るって言うけど、安岡さんの声ってそういう要素もあると思うんですよ。
癖のあるものって結局美味いし、納豆とか塩辛とか年齢を重ねるほど美味く感じるもの。ちなみに安岡さんは納豆が嫌いである。そして黒ぽんはカレーが好きだよ。
そもそも、圧倒的に支持されるボーカリストには、ある程度のクセはあるものだ。ちょっと癖のあるボーカリストを上げてみる。
…皆、今更語るのも憚られるほどの名ボーカリストたちである。
クセというのは、言い換えれば個性であり、フックとなる。はじめは違和感だったそれも、いつしか無いと物足りなく感じるようになり、やがて多くの中毒者を生み出す。
安岡さんの声って、そういうことだと思う。
ゴスのハーモニーには彼の声があるからこそ、その美しさには複雑な奥行きが与えられている。
ちなみに、リードではあれだけ目立つ安岡さんも、コーラスに混じると一瞬で溶け込むのは驚くべきことだ。彼はその癖の強さもコントロールしており、チームのために抑えるべきところと発揮すべきところを使い分けているのだと分かる。
…あ、歌唱についてもう一つ。
ここ最近の安岡さん、高音がすごく良いのである。
彼の担当は中音域で、高音は他に譲る方だと思ってた(そもそも他が化け物すぎる)んだけど、ここ最近のリードでは、高音を担当することが増えつつある。そしてそれがすごく良い。
もともと少年のような響きのある声だから、そこにちょっと背伸びして張る感じが加わって、非常に魅力的な響きになっている。この動画で非常に顕著なので、ぜひチェックしてみてください。
(0:46~ サビから安岡さん)
デビューして25年以上、ここにきて新たな一面を開拓してくる安岡さん。
恐ろしい人だ。
3.キャラクター
最後に触れるのは、彼のキャラクターについて。
この点において、彼の果たす役割は非常に重要といえる。
何かというと、彼のようなキャラクターがチームにいると、周りは非常に助かるのである。
※安岡さんのキャラクター
⇒末っ子感、お調子者、ややナルシストっぽい、汗っかき
このキャラの宝庫よ。
同じバンド内にいれば、これ以上頼もしい存在は無い。
MCだと引っ掻き回しつつ盛り上げてくれそうだし、ちょっとしたコントをさせても、一癖ある役柄を任せられる。
実際「ハモリ倶楽部」では、ナンバーワンホストの役柄をノリノリで演じており、三枚目っぽいのに何故かナンバーワンというギャップが笑いを誘った。
さらに、メンバーの誰と絡んでももれなく末っ子感を出してくる。
合間のMCでこれを見せつけられると、客席のご婦人たちが皆菩薩のような優しい表情になるのは、ゴスのライブではよく見る風景である。
さらに安岡さんの場合、これが無理して付けたキャラではなく、ほとんど素なんじゃないかと思わせられる所が強い。というか、マジでほとんど素なんだと思う。なんという逸材。
リーダー&黒ぽんがゴスの新メンバーを探す中で彼を見つけたとき、きっと心の中でガッツポーズしたに違いない。
4.総括
…さて、良い加減長くなったので、以上の分析から総括。
安岡さんは自らのクセやキャラクターを含めた全てをチームのために捧げ、場を和ませ円滑にしてくれる、献身の人である。
と同時に、歌声も作詩も今やゴスの味わいの奥深さに欠かせない、秘伝のスパイスのような役割をしている人。
これからもゴスペラーズのために、末永く汗をかき続けてほしい。
10/29 追記。
第3弾公開しました。
ゴスペラーズに関する記事を強化中です!
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