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最期の迷子 4(完)


 三ヶ月後。大寒のが過ぎた頃のとある日にキクミちゃんから連絡があり、先日キクゾウさんが亡くなったことを知った。すでに葬式などは身内で済ませたらしく、キクミちゃんはキクゾウさんの死を受け入れているという。

「おじいちゃん、だんだん動けなくなっちゃって。最後は私たちの名前も覚えていなかったの。でもね」

 そう展開させて、キクミちゃんは少し声のトーンを上げる。

「優希くんのことは覚えていたんだ。お花屋さんって言っていたけど、美味しいお茶を買ってくれたんだって、時々笑って話していたわ」

 キクゾウさんは僕が買ってあげたお茶の記憶は、どうしてか脳内に留めてあったらしい。

「そう、なんだ」

 言葉にできない不思議な気持ちが僕を襲う。胸の中が急に熱くなって、ポカポカしてくる。

「だから優希くんには、改めてお礼を言いたいなって思って。おじいちゃん、ほとんど記憶も無くなっちゃったけど、亡くなるまでずっと楽しそうだったんだ」

 僕は一度きりしか会ったことのないキクゾウさんの、子供みたいに輝いていた眼を思い出した。最期の迷子になったキクゾウさんは、きっと探し物であったお母さんのことを天国で見つけることができただろう。少しでも誰かの役に立てたのなら、それは僕にとって本望だった。

「あのさ、これからキクミちゃんの家に行くよ。キクゾウさんに手が合わせたいんだ」

 キクミちゃんは「ありがとう。おじいちゃんも喜ぶよ」了承してくれた。

「じゃあ、三十分くらいしたら行くね」

「うん、待ってるね」

 電話を切って、僕はキッチンへ向かう。炊飯器の中には、朝に炊いた米が少しだけ残っている。僕はそれをラップで包んで、握り飯に変える。そして、昔遊んでいたお手玉を鞄にしまって家を出る。

 キクゾウさんと出会った頃とは比べものにならない、しんしんとした寒さがこの街を包んでいる。僕は近所にあるスーパーで御供物に加えて、白い菊の花束とお茶を購入する。まるでお花屋さんになった気分で、僕は空の上にいるキクゾウさんと再会する。

 キクゾウさん、天国でお母さんと楽しく暮らせているかな。

 モクモクと膨らむ白い雲のずっとずっと上の世界は見えないが、そこが幸に満ちていると信じて、僕は前へ進む。


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